第77話「最上流」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
■最終判断者
大手企業・メディア・広告を横断する意思決定の中核にいる人物。
七年前の神崎のスキャンダルにも関与していたとされ、
今回、音声や記録によってその関与が可視化される。
当初は「組織の一部」として責任を曖昧にするが、、、
■観客
SNSのユーザー、視聴者、一般の人々。
当初は消費者として情報を受け取る存在だったが、
神崎の言葉によって「選ぶ側」へと引き上げられる。
本作において、最終的に“物語の意味を決定する存在”。
バーの空気は、変わっていなかった。
グラスの音。
低い照明。
静かな音楽。
だが、テーブルの上に置かれた言葉だけが、重く沈んでいる。
「もっと上だ」
その一言が、すべてを押し広げていた。
神崎は、グラスを見つめたまま動かない。
「相良じゃない」
その事実が、想定を一段階外してくる。
佐伯が言う。
「お前、相良を“ラスボス”だと思ってただろ」
神崎は、少しだけ笑った。
「思ってましたね」
佐伯は首を横に振る。
「あいつは“繋いでる側”だ」
その言葉に、神崎の視線がわずかに動く。
佐伯は続ける。
「流してるだけだ」
「上から下に」
沈黙。
神崎の中で、線が引き直されていく。
相良。
城戸。
最終判断者。
すべてが“中間”に見え始める。
神崎は、静かに聞く。
「誰ですか」
佐伯は、すぐには答えなかった。
グラスを持つ。
少しだけ揺れる。
「名前は、出てこない」
神崎が眉をひそめる。
佐伯は言う。
「顔も、出てこない」
さらに続ける。
「でも、決めてる」
その言葉は、曖昧だった。
だが、確信があった。
神崎は、少しだけ息を吐いた。
「構造の外、ですね」
佐伯は頷く。
「外っていうか」
少し考える。
「上だな」
六本木。
真壁は、モニターを見ながら何も言わなかった。
情報は出揃っている。
だが、足りない。
スタッフが言う。
「これ以上、何を追うんですか」
真壁は、静かに答えた。
「名前がないやつ」
赤坂。
相良宗一は、スマートフォンを見ながら笑っていた。
「来るか」
その声には、少しだけ期待が混じっていた。
有楽町。
城戸正宗は、静かに目を閉じていた。
七年前。
あのとき、線はそこで止まっていた。
だが今は違う。
城戸は、小さく呟く。
「行く気ですね」
西麻布。
バー。
神崎は、ゆっくりと顔を上げた。
「どうやって辿るんですか」
佐伯は、少しだけ笑った。
「辿れない」
神崎は、何も言わない。
佐伯は続ける。
「普通はな」
その言葉に、わずかな余白がある。
神崎は、その余白を逃さない。
「普通じゃない方法がある」
佐伯は、頷いた。
「お前、やってるだろ」
神崎の目が、わずかに鋭くなる。
佐伯は言う。
「下から壊すんじゃない」
少し間を置く。
「浮かび上がらせる」
その言葉に、すべてが繋がる。
神崎は、静かに呟いた。
「動かす…」
佐伯は頷く。
「そうだ」
「動けば、痕跡が出る」
沈黙。
神崎の中で、次の手が組み上がっていく。
今までは、出てきたものを拾っていた。
これからは違う。
“出させる”。
神崎は、ゆっくりと立ち上がった。
佐伯が言う。
「行くのか」
神崎は答える。
「行きます」
少しだけ振り返る。
「七年前の続きなんで」
その言葉は、軽くなかった。
その夜。
見えなかった“最上流”は――
初めて、揺れ始めた。




