第73話「判断の空白」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
■最終判断者
大手企業・メディア・広告を横断する意思決定の中核にいる人物。
七年前の神崎のスキャンダルにも関与していたとされ、
今回、音声や記録によってその関与が可視化される。
当初は「組織の一部」として責任を曖昧にするが、、、
■観客
SNSのユーザー、視聴者、一般の人々。
当初は消費者として情報を受け取る存在だったが、
神崎の言葉によって「選ぶ側」へと引き上げられる。
本作において、最終的に“物語の意味を決定する存在”。
投稿の直後、世界は一瞬だけ静かになった。
「違法性はあります」
「多くの人を傷つけています」
「それでもやっています」
「だから、見てください」
強い言葉でも、派手な言葉でもない。
だが、これまでで最も“逃げ場のない言葉”だった。
六本木のオフィス。
モニターに映るコメントの流れが、一度だけ止まり、
そしてゆっくりと再開する。
「どういうこと?」
「認めたのか?」
「じゃあダメじゃない?」
「でも、それでもやる理由って何だ」
真壁が、小さく息を吐いた。
「…判断、止まりましたね」
神崎は頷く。
「止めたからな」
スタッフの一人が言う。
「これ、賛否とかじゃなくなってます」
別のスタッフも続ける。
「評価できない状態というか…」
神崎は、画面を見ながら言った。
「それでいい」
赤坂。
相良宗一は、その投稿を何度も読み返していた。
短い。
だが、深い。
相良は呟く。
「逃げてないな」
だが同時に、少しだけ笑う。
「だから厄介なんだよ」
有楽町。
城戸正宗は、静かに言った。
「評価不能」
スタッフが聞く。
「どういう意味ですか」
城戸は答える。
「善でも悪でもない位置に来た」
少し間を置く。
「一番扱いにくい場所です」
六本木。
神崎は、ソファに座ったまま動かなかった。
目は開いている。
だが、何も見ていないようにも見える。
七年前。
あのときは、判断された。
一方的に。
説明もなく、機会もなく。
今回は違う。
神崎は、小さく呟いた。
「渡した」
真壁が聞く。
「何をですか」
神崎は答えた。
「判断」
そのとき。
スタッフが声を上げる。
「来てます」
モニターに、新しい投稿が表示される。
一般ユーザー。
「分からない」
その一言だけ。
別の投稿。
「正しいとも思えないし、間違ってるとも言えない」
さらに。
「考えさせられる」
真壁が言う。
「…これ」
神崎は頷く。
「来たな」
赤坂。
相良は、その流れを見て、少しだけ表情を変えた。
「これは…」
言葉を選ぶ。
「止めにくいな」
有楽町。
城戸は、静かに言った。
「広がりましたね」
スタッフが聞く。
「何がですか」
城戸は答える。
「思考です」
六本木。
神崎は、ゆっくりと立ち上がった。
ホワイトボードを見る。
「自分」
その文字の横に、新しく書く。
「判断」
真壁が言う。
「そこ、繋げますか」
神崎は頷く。
「最初から繋がってる」
そして、振り返る。
「俺の話じゃない」
少し間を置く。
「全部、同じ話だ」
その言葉に、誰もすぐには返せなかった。
その夜。
正解は提示されなかった。
だが――
問いだけが、残された。
そしてそれは、
誰かが答えるまで、消えない。




