第66話「再びの壇上」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
会見は、すでに始まっていた。
有楽町のホテルの大広間。
照明は明るく、空気は張り詰めている。
壇上には一人。
あの名前の人物。
これまで“最終判断者”として示された男。
フラッシュが断続的に焚かれる。
記者たちの視線は鋭い。
男はマイクの前に立ち、ゆっくりと口を開いた。
「本日は、お時間をいただきありがとうございます」
その声は落ち着いている。
だが、わずかに硬い。
「今回、一部で公開された情報について、私の関与が指摘されています」
一瞬、間を置く。
「結論から申し上げます」
会場の空気が、さらに引き締まる。
「そのような事実はありません」
六本木。
神崎はモニターでその会見を見ていた。
真壁が言う。
「全面否定ですね」
神崎は頷く。
「想定通りだ」
有楽町。
壇上の男は続ける。
「公開された音声、資料についても、文脈を無視した切り取りであり、誤解を招くものです」
記者たちが一斉に手を挙げる。
「では、あの音声はご本人のものではないと?」
「会議自体が存在しないということですか?」
男は、わずかに視線を動かした。
「音声については現在精査中ですが、少なくとも私の意図とは異なる形で使われています」
赤坂。
相良宗一は、その会見を見ながら呟いた。
「逃がさないな」
有楽町。
質問が続く。
「では、意思決定には関与していない?」
「責任はどこにあるとお考えですか?」
男は答える。
「最終的な判断は、複数のプロセスを経て行われるものであり、個人に帰属するものではありません」
六本木。
真壁が小さく笑う。
「構造に戻してきましたね」
神崎は画面を見たまま言う。
「逃げ場だな」
有楽町。
壇上の男は、続ける。
「今回の件については、法的措置も含めて対応を検討しております」
その言葉に、会場がざわつく。
そのとき。
後方の扉が開いた。
わずかな音。
だが、その場にいた全員が振り向く。
一人の男が、静かに入ってくる。
神崎修司。
フラッシュが一斉に焚かれる。
「神崎だ!」
「来たぞ!」
「本人が来た!」
壇上の男の視線が、初めて揺れた。
神崎は、ゆっくりと歩く。
一直線に。
壇上へ。
スタッフが止めようとする。
だが、止められない。
そのまま、壇上の前まで進む。
会場の空気が、完全に変わる。
神崎は、マイクの前に立った。
数秒。
何も言わない。
ただ、壇上の男を見る。
そして、口を開いた。
「久しぶりですね」
その一言に、時間が止まる。
男は、何も答えない。
神崎は続ける。
「七年前は、出てきませんでしたよね」
会場がざわつく。
男の表情が、わずかに崩れる。
神崎は言った。
「今回は、出てきた」
少し間を置く。
「いい判断だと思います」
その言葉は、皮肉でも、賞賛でもなかった。
ただの事実だった。
男が、ようやく口を開く。
「…ここは、あなたの場ではありません」
神崎は答える。
「そうですね」
少しだけ笑う。
「でも」
マイクに、少しだけ近づく。
「俺の話ですよね」
その瞬間。
この会見は――
完全に“二人の場”へと変わった。




