第59話「一人目の代償」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
「事実です」
その四文字は、あまりにも短かった。
だが、これまでのどの情報よりも重かった。
六本木のオフィスでは、誰も言葉を発さなかった。
モニターに映るその投稿を、ただ見ている。
真壁が先に息を吐いた。
「…流れ、変わりますね」
神崎は頷かなかった。
ただ、視線を外さずに言う。
「もう変わってる」
画面のコメント欄が、一気に更新される。
「マジかよ」
「他のやつも出てこい」
「これで終わりじゃないだろ」
「誰が関わってた?」
観客は、もう迷っていない。
探し始めている。
赤坂。
相良宗一は、スマートフォンを置いた。
「一人目は重い」
小さく呟く。
否定は軽い。
責任がない。
だが肯定は違う。
背負う。
そして――
“続く可能性”を生む。
相良はグラスを持ちながら言った。
「次が出るかどうかだな」
有楽町。
城戸正宗は、その投稿を見つめたまま動かなかった。
数秒。
そして、ゆっくりと口を開く。
「崩れましたね」
スタッフが聞く。
「何がですか」
城戸は答えた。
「沈黙です」
六本木。
神崎はホワイトボードに向かう。
「人」
と書かれた文字の横に、数字を書く。
「1」
真壁が言う。
「カウントするんですか」
神崎は答える。
「当たり前だろ」
そして続ける。
「流れは数で変わる」
そのとき。
スタッフの一人が声を上げる。
「来てます!」
全員の視線がモニターに集まる。
新しい投稿。
別の名前。
短い文章。
「私も関与していました」
空気が、一瞬で張り詰める。
真壁が低く言う。
「…二人目」
神崎は、わずかに口元を緩めた。
「いいね」
SNS。
「え、連鎖してる?」
「これ止まらんやつ」
「もう終わりだろ」
「全部出るぞ」
赤坂。
相良は、画面を見ながら笑った。
「来たな」
グラスを置く。
「連鎖だ」
有楽町。
城戸は、タブレットを閉じた。
その動きは、静かだった。
だが――
次の一手を決めた動きだった。
「こちらも動きます」
スタッフが聞く。
「どの段階ですか」
城戸は答えた。
「回収です」
六本木。
神崎はホワイトボードに、新しく数字を書く。
「2」
そして、その横に線を引く。
1 → 2
神崎は言った。
「ここからは加速する」
真壁が頷く。
「止まらないですね」
神崎は答えた。
「止めない」
だが。
そのとき。
真壁のスマートフォンが震える。
画面を見る。
そして、表情が変わる。
「社長」
神崎が振り向く。
真壁は言った。
「一人目の人…」
少し言葉を詰まらせる。
そして、続けた。
「会社、解雇です」
空気が、止まる。
六本木。
神崎は、何も言わなかった。
モニターを見る。
「規律違反により、当該社員を解雇」
公式発表。
真壁が言う。
「早すぎます」
スタッフの一人も言う。
「完全に切り捨てに来てる」
神崎は、ゆっくりと目を閉じた。
数秒。
そして開く。
「これが代償だ」
その声は、静かだった。
赤坂。
相良は、そのニュースを見ながら小さく呟いた。
「重いな」
有楽町。
城戸は、画面を見ていた。
そして言った。
「当然です」
六本木。
神崎はホワイトボードを見つめていた。
「1」
その横に、ゆっくりと書き足す。
「×」
真壁が言う。
「…止めますか?」
神崎は答えた。
「止めない」
そして続ける。
「止めたら、あいつが無駄になる」
その夜。
“声を出した者”は、代償を支払った。
そしてそれは――
次に出てくる者への、問いになった。




