第55話「資金の影」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
六本木のオフィスに、わずかな沈黙が落ちた。
モニターに映る記事の見出しは、他のどの批判よりも鋭かった。
「資金源の一部に不透明な流れ」
真壁がゆっくりとスクロールする。
本文。
匿名の関係者。
複数の取引履歴。
海外口座。
名義の分散。
スタッフの一人が言う。
「これ…」
言葉が続かない。
別のスタッフが呟く。
「完全に“そっち側”の話になってる」
神崎修司は、画面を見たまま動かなかった。
数秒。
やがて、静かに言う。
「誰が書いた」
真壁が答える。
「まだ特定できてません」
神崎は頷く。
「でも、分かる」
その一言に、全員が視線を向ける。
神崎は言った。
「城戸じゃない」
真壁が少し驚く。
「違うんですか」
神崎は答える。
「これは“現場”の匂いがする」
赤坂。
相良宗一は、同じ記事を読みながら小さく笑った。
「やっと出てきたか」
グラスを回す。
「これを待ってた」
相良は知っている。
城戸は“構造”で攻める。
だがこれは違う。
もっと泥臭い。
もっと個人的な情報。
相良は呟く。
「内部だな」
有楽町。
城戸正宗は、その記事を確認していた。
スタッフが言う。
「こちらの仕掛けではありません」
城戸は頷く。
「分かっています」
そして少しだけ考える。
「ですが」
視線を上げる。
「使えます」
六本木。
真壁が言う。
「どうします?」
神崎は答えない。
記事をもう一度読む。
細部。
数字。
言葉の選び方。
すべてをなぞるように見ていく。
そして、静かに言った。
「一部は合ってる」
部屋の空気が凍る。
スタッフの一人が言う。
「え…?」
真壁が低く言う。
「どの部分ですか」
神崎は答えた。
「資金の流れ」
数秒の沈黙。
神崎は続ける。
「全部じゃない」
少し間を置く。
「でも、完全な嘘でもない」
真壁が息を吐く。
「一番厄介なやつですね」
神崎は頷く。
「そうだな」
赤坂。
相良はスマートフォンを見ながら言った。
「これで揃った」
情報。
世論。
そして――
金。
有楽町。
城戸はタブレットを閉じた。
そして静かに言った。
「舞台が整いました」
六本木。
神崎はホワイトボードの前に立った。
「覚悟」
「代償」
その下に、新しく書く。
「金」
神崎は言う。
「結局ここだ」
真壁が頷く。
「全部ここに繋がる」
神崎は振り返る。
「出すぞ」
真壁が聞く。
「どこまで?」
神崎は答えた。
「全部」
スタッフが言う。
「さっきも全部出しましたよね」
神崎は笑った。
「まだだ」
そして続ける。
「本当に出すのは、ここからだ」
その言葉の意味を、全員が理解する。
今までは“外側”だった。
だがこれからは――
“中身”だ。
神崎はスマートフォンを手に取る。
一瞬だけ、指が止まる。
七年前。
あのとき、金の流れは“見えなかった”。
だから、何も変わらなかった。
神崎は小さく呟く。
「今度は見せる」
そして――
送信ボタンに指をかける。
その瞬間。
物語は――
最も触れてはいけない領域へと踏み込もうとしていた。




