第53話「選択の代償」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
警視庁の取調室。
時計の秒針が進む音だけが、やけに大きく聞こえる。
刑事はペンを置いた。
「神崎さん」
神崎は顔を上げる。
「はい」
刑事は少しだけ間を置いた。
「あなたは、自分のやっていることが正しくないと分かっている」
神崎は頷く。
「はい」
「それでもやる理由は、“他にやる人がいないから”」
神崎は答える。
「そうです」
刑事はゆっくりと息を吐いた。
そして言った。
「それは、ただの自己正当化では?」
一瞬。
空気が止まる。
神崎は、少しだけ視線を落とした。
そして、すぐに戻す。
「そうかもしれないですね」
刑事がわずかに目を細める。
神崎は続けた。
「でも」
少し間を置く。
「何もしないよりはマシだと思ってます」
その言葉は、強くはなかった。
だが、揺れていなかった。
刑事は言う。
「“何もしない”という選択もあります」
神崎は答える。
「ありますね」
「それを選ばない理由は?」
神崎は、ほんの一瞬だけ黙った。
七年前。
何もできなかった。
何も選べなかった。
あの時間が、頭をよぎる。
神崎は言った。
「一回、やられてるんで」
刑事が聞く。
「何にですか」
神崎は答えた。
「何もできないって状態に」
六本木。
真壁はモニターの前で腕を組んでいた。
神崎のノーカット動画は、予想以上に広がっている。
「これ、効いてますね」
スタッフが言う。
「切り取りとのギャップが出てます」
真壁は頷く。
「だな」
だが、その表情は楽観的ではない。
真壁は呟いた。
「でも、まだ足りない」
赤坂。
相良宗一は、静かにニュースを見ていた。
神崎の発言。
“正しくないと分かっている”
“それでもやる”
相良は小さく笑った。
「いいね」
その言葉には、皮肉はなかった。
むしろ、少しだけ共感が混じっていた。
有楽町。
城戸正宗は、タブレットを見ながら言った。
「危険ですね」
スタッフが聞く。
「どのあたりがですか」
城戸は答える。
「共感を取りに来ている」
少し間を置く。
「正しさではなく」
その目が細くなる。
「弱さで」
六本木。
神崎は、取調室を出て廊下を歩いていた。
真っ直ぐ前を見る。
足音が響く。
出口に近づくと、外の光が見える。
夜の東京。
ドアを開ける。
その瞬間。
フラッシュが焚かれた。
「神崎さん!」
「今回の件について一言!」
「違法性についてどう考えていますか!」
報道陣。
マイクが一斉に向けられる。
神崎は立ち止まった。
数秒。
その場に、静かな間が生まれる。
そして、口を開いた。
「正しいとは思ってないです」
記者たちが一斉にざわつく。
神崎は続ける。
「でも」
その目は、まっすぐだった。
「必要だと思ってます」
フラッシュがさらに強くなる。
その一言は、瞬時に拡散される。
SNS。
「開き直り?」
「いや、正直すぎる」
「危ない思想だろ」
「でも分かる」
再び、割れる。
六本木。
真壁がその映像を見て、静かに言った。
「完全に来ましたね」
スタッフが聞く。
「何がですか」
真壁は答えた。
「覚悟のフェーズです」
有楽町。
城戸はその発言を見て、わずかに口元を緩めた。
「いいですね」
スタッフが聞く。
「何がですか」
城戸は言った。
「もう戻れない」
赤坂。
相良はグラスを持ちながら、静かに呟いた。
「全員、腹くくったな」
その夜。
選択には、必ず代償が伴う。
そして今――
その代償が、少しずつ“形”を持ち始めていた。




