第51話「現実の入口」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
六本木のオフィスの空気は、完全に変わっていた。
これまでのような熱や勢いではない。
もっと静かで、もっと重い。
「警察です」
その一言が、すべてを現実に引き戻した。
真壁がスマートフォンを握ったまま言う。
「任意です」
神崎は頷く。
「だろうな」
スタッフの一人が言う。
「任意ってことは…拒否もできますよね」
神崎は答えた。
「できるな」
数秒の沈黙。
そして続ける。
「でも行く」
赤坂。
相良宗一は、そのニュースをすでに掴んでいた。
「早いな」
小さく呟く。
情報の流れは速い。
だがそれ以上に、動きが速い。
相良は笑った。
「ちゃんと“現実”も動いてる」
有楽町。
城戸正宗は、オフィスのデスクに座っていた。
スタッフが報告する。
「神崎修司、任意聴取です」
城戸は静かに頷く。
「はい」
その反応は、あまりにも自然だった。
スタッフが続ける。
「こちらの想定通りです」
城戸は少しだけ考えた。
「想定より、少しだけ早いですが」
そして続ける。
「問題ありません」
六本木。
神崎はジャケットを羽織っていた。
真壁が言う。
「行くなら、対応整理します」
神崎は振り返る。
「何を」
真壁は答える。
「どこまで話すか」
神崎は少し考えた。
そして言った。
「全部だ」
真壁が一瞬だけ目を細める。
「本当に?」
神崎は頷く。
「ここまで来て、隠す意味あるか?」
真壁は小さく息を吐いた。
「ないですね」
神崎はドアに向かう。
手をかける直前、少しだけ止まる。
七年前。
あのときは、選べなかった。
何もかもが勝手に決められた。
だが今は違う。
神崎は小さく呟く。
「今回は、自分で行く」
ドアを開ける。
その瞬間。
外の空気が、少しだけ冷たかった。
警視庁。
部屋はシンプルだった。
机と椅子。
壁。
時計。
神崎修司は椅子に座っていた。
向かいには、二人の刑事。
一人が言う。
「お時間ありがとうございます」
神崎は答えた。
「どうも」
形式的な会話。
だが、その奥にあるものは明確だった。
刑事が資料を開く。
「今回の件ですが」
一枚の紙を差し出す。
「公開された情報について、いくつか確認させてください」
神崎はその紙を見た。
企業名。
契約内容。
内部資料。
神崎は言った。
「はい」
刑事が聞く。
「これらは、どのように入手しましたか」
神崎は一瞬だけ考えた。
そして答える。
「取材です」
刑事が言う。
「違法性の認識は?」
神崎は答えた。
「あります」
部屋の空気が少し変わる。
刑事が言う。
「それでも公開した理由は?」
神崎は少しだけ笑った。
「必要だったからです」
その答えは、曖昧ではなかった。
刑事が続ける。
「誰のために?」
数秒の沈黙。
神崎は言った。
「観客です」
刑事が眉をひそめる。
神崎は続けた。
「いや」
少し間を置く。
「当事者か」
六本木。
真壁はオフィスでモニターを見ていた。
ニュース速報。
「神崎修司、任意聴取へ」
スタッフが言う。
「一気に広がってます」
真壁は頷く。
「当然だな」
そして小さく呟く。
「ここからが勝負だ」
有楽町。
城戸はニュースを見ながら、静かに言った。
「舞台が変わりました」
スタッフが聞く。
「どうなりますか」
城戸は答えた。
「単純になります」
少し間を置く。
「正義か」
「違法か」
赤坂。
相良はグラスを置いた。
「いいね」
その目は、少しだけ楽しそうだった。
警視庁。
神崎は椅子に座ったまま、刑事の目を見ていた。
刑事が言う。
「あなたのやっていることは、正しいと思っていますか」
神崎は答えた。
「分からない」
数秒の沈黙。
そして続ける。
「でも」
その目は、揺れていなかった。
「やるしかないと思ってます」
その瞬間。
この物語は――
完全に“現実の領域”へと踏み込んだ。




