第49話「証言の重さ」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
六本木のオフィスに、わずかな緊張が走ったまま時間が流れていた。
モニターには、例の投稿が拡大されている。
「内部関係者です」
その一文の重さは、想像以上だった。
真壁が低く言う。
「これ、どう扱います?」
神崎は椅子に座り、指先で机を軽く叩いていた。
数秒。
いや、十数秒。
考えている。
そして言った。
「引き上げる」
真壁が聞く。
「引き上げる?」
神崎は頷く。
「埋もれさせない」
すぐにスタッフが動き出す。
投稿の拡散導線を作る。
切り抜き。
要約。
解説。
数分後。
その投稿は、単なる一つの書き込みではなくなっていた。
「内部告発か?」
「これ本当ならやばい」
「証拠あるのか?」
SNSの中心に浮上する。
赤坂。
相良宗一は、その流れを見ながらゆっくりとグラスを傾けた。
「持ち上げたか」
小さく呟く。
神崎は、偶然を待つ人間ではない。
出てきたものを、必ず“使う”。
相良は笑った。
「相変わらずだな」
有楽町のオフィス。
城戸正宗は、その投稿の拡散速度を確認していた。
スタッフが言う。
「一気に上がってます」
城戸は頷く。
「はい」
そして少し間を置いて言った。
「予想より、少しだけ早い」
スタッフが聞く。
「対応しますか?」
城戸は首を横に振る。
「まだです」
その声は落ち着いている。
だが。
その判断は、“待つ”ではない。
“見極める”だった。
六本木。
神崎はスマートフォンを見ながら言った。
「連絡来てるか?」
真壁は答える。
「来てます」
画面には、DMが並んでいた。
「自分も知っています」
「関係者です」
「証言できます」
スタッフの一人が言う。
「増えてます」
神崎は頷く。
「そうだろうな」
真壁が聞く。
「どこまで拾います?」
神崎は少し考えた。
そして言った。
「全部」
スタッフが戸惑う。
「全部?」
神崎は答えた。
「嘘も本当も、全部だ」
部屋の空気が一瞬止まる。
真壁が言う。
「それ、危険ですよ」
神崎は笑った。
「分かってる」
そして続ける。
「でもな」
少し間を置く。
「最初から“正しい情報だけ”なんて存在しない」
その言葉に、誰も反論できなかった。
神崎は立ち上がる。
ホワイトボードに書く。
「証言」
その横に、もう一つ。
「ノイズ」
神崎は言う。
「混ざるのが前提だ」
真壁が頷く。
「だから…選別する?」
神崎は首を横に振る。
「違う」
そして振り返る。
「全部見せる」
真壁が息を飲む。
神崎は続ける。
「観客に選ばせる」
その言葉は、冷たかった。
赤坂。
相良はスマートフォンを見ながら、小さく笑った。
「やっぱりそこまで行くか」
相良は知っている。
このやり方は、強い。
だが同時に――
壊れる。
有楽町。
城戸は、複数の証言投稿を並べて見ていた。
内容はバラバラ。
一部は一致し、一部は矛盾している。
城戸は静かに言った。
「来ましたね」
スタッフが聞く。
「何がです?」
城戸は答えた。
「混沌です」
そして続ける。
「ここからが、本番です」
六本木。
神崎はモニターを見ながら言った。
「いい状態だ」
真壁が聞く。
「いい状態?」
神崎は頷く。
「誰も、何が正しいか分からない」
その言葉は、異様だった。
だが――
確かにその通りだった。
神崎は静かに言った。
「だからこそ」
一歩前に出る。
「決める価値が生まれる」
その夜。
情報は、真実でも嘘でもなくなった。
それは――
“選ばれるもの”に変わった。




