第47話「越えてはいけない線」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
境界を越えた瞬間、空気は一変する。
それまで「面白い」と消費されていたものが、「関わりたくないもの」へと変わる。その変化は、ゆっくりではなく、一瞬で訪れる。
六本木。
オフィスのモニターには、SNSの新しいトレンドが表示されていた。
「情報漏洩」
「違法性」
「パパラッチ・パパラッチ危険」
真壁が言う。
「完全にフェーズ変わりました」
神崎はホワイトボードの前に立ったまま答える。
「だな」
スタッフの一人が言う。
「これ、普通にアウトじゃないですか?」
別のスタッフも続ける。
「企業から訴えられる可能性ありますよ」
神崎は振り返った。
「あるな」
その一言は、あまりにもあっさりしていた。
部屋の空気が凍る。
真壁が聞く。
「分かっててやったんですよね」
神崎は頷く。
「分かってる」
そして続ける。
「だから意味がある」
赤坂。
相良宗一は、ソファに腰を下ろしたまま画面を見ていた。
SNSの温度が、明らかに変わっている。
さっきまで称賛していたアカウントが、次々と距離を取り始めている。
「来たな」
その一言に、確信があった。
相良は呟く。
「越えた」
有楽町。
移動中の車内で、城戸正宗は新しいデータを見ていた。
感情分析。
ポジティブが減少し、ネガティブが急上昇している。
スタッフが言う。
「一気に逆風です」
城戸は頷く。
「当然です」
そして静かに続ける。
「越えてはいけない線を越えた」
六本木。
真壁が言う。
「このままだと、完全に“敵”になります」
神崎は少しだけ笑った。
「もうなってるだろ」
真壁は否定しない。
神崎は続ける。
「でも、それでいい」
ホワイトボードに近づく。
「観客」
と書く。
その下に
「外側」
「内側」
と書き、線で分ける。
神崎は言う。
「今までの観客は“外側”だ」
真壁が頷く。
「ただ見てるだけの人たち」
神崎は続ける。
「でも」
ペンで線を強くなぞる。
「ここを越えた瞬間」
「内側に入る」
スタッフの一人が言う。
「内側って…巻き込まれるってことですか?」
神崎は振り返る。
「そうだ」
そして静かに言った。
「当事者になる」
赤坂。
相良はスマートフォンを見ながら、小さく笑った。
「やっぱりそっちに行くか」
相良は知っている。
神崎修司は、正攻法で勝つ人間じゃない。
そして、城戸正宗もまた、正攻法で戦う人間ではない。
だからこの戦いは――
最初から“普通の勝負”ではない。
有楽町。
城戸はタブレットを閉じた。
しばらく何も言わない。
やがて、静かに口を開く。
「準備を」
スタッフが聞く。
「どの段階ですか」
城戸は答えた。
「最終段階です」
六本木。
神崎はスマートフォンを手に取った。
通知は止まらない。
批判。
警告。
取材依頼。
法務相談。
すべてが一気に押し寄せている。
神崎はそれを一通り見たあと、画面を閉じた。
真壁が言う。
「どうします?」
神崎は答えた。
「決めさせる」
真壁が聞く。
「誰に」
神崎は言った。
「観客に」
数秒の沈黙。
神崎は続ける。
「安全な場所で見てるだけか」
「それとも」
一歩、前に出る。
「こっち側に来るか」
その言葉は、静かだった。
だが――
明確な“選択”だった。
その夜。
観客は、初めて理解する。
これはもう――
ただの物語ではない。
関わるか、離れるか。
選ばなければならない現実だと。
そして。
その選択こそが――
物語の“次の主人公”を決めることになる。




