第45話「信用の設計図」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
六本木のオフィスに、静かな熱が戻っていた。
「信用できない人」
その評価は、致命的であると同時に、ある意味で“何者にもなれる状態”でもあった。
真壁はホワイトボードの前に立つ神崎を見ながら言う。
「普通なら、ここで終わりです」
神崎はペンを回しながら答える。
「普通ならな」
ホワイトボードには、さっき書いた言葉が残っている。
信用できない
信用させる
神崎はその二つを線でつないだ。
「この間を埋める」
真壁が腕を組む。
「どうやって」
神崎は答える。
「証明だ」
赤坂。
相良宗一はソファに体を預けたまま、神崎の動きを想像していた。
「ここからどうする?」
誰に向けたわけでもない問い。
だが答えは分かっている。
神崎修司は、黙って評価を受け入れるタイプではない。
相良は小さく笑う。
「やるなら今だぞ」
有楽町。
城戸正宗はホテルを後にし、車の後部座席に座っていた。
スマートフォンには、神崎の最新の評価が並んでいる。
「信用できない」
「裏で動いてる人間」
城戸はそれを見ながら、静かに言った。
「ここまでは順調です」
運転席の男が聞く。
「ここからは?」
城戸は少し考えた。
「二択です」
六本木。
神崎はホワイトボードに新しく書き始めた。
「証明」
その下に、三つの項目を書く。
・透明性
・再現性
・第三者
真壁が言う。
「理屈は分かります」
神崎は振り返る。
「でも?」
真壁は続ける。
「これ、時間かかりますよ」
神崎は頷く。
「だからやらない」
真壁が眉をひそめる。
「え?」
神崎は笑った。
「全部一気にやる」
部屋の空気が変わる。
スタッフの一人が言う。
「そんなこと可能ですか?」
神崎は答えた。
「やるんだよ」
そして続ける。
「俺たちは何の会社だ?」
真壁が答える。
「メディアを取材する会社」
神崎は頷く。
「違うな」
少し間を置く。
「メディアを“見える化”する会社だ」
その言葉が、部屋に落ちる。
神崎はホワイトボードに大きく書いた。
「公開」
そして振り返る。
「全部、出す」
真壁の目が鋭くなる。
「…どこまで?」
神崎は一瞬だけ考えた。
そして言った。
「全部だ」
数秒の沈黙。
真壁が言う。
「それ、戻れなくなりますよ」
神崎は笑った。
「とっくに戻れないだろ」
その夜。
パパラッチ・パパラッチの公式アカウントに、一つの投稿が準備されていた。
タイトル。
「パパラッチ・パパラッチのすべてを公開します」
内容。
・資金の流れ
・スポンサーの関係
・調査対象のリスト
・これまでの取材記録
・七年前の事件に関する内部資料
真壁が最後の確認をする。
「本当に出しますか」
神崎は頷く。
「出す」
真壁は聞く。
「理由は?」
神崎は答えた。
「信用は、見せるもんじゃない」
少し間を置く。
「晒すもんだ」
その言葉は、静かだった。
だが、覚悟は明確だった。
赤坂。
相良のスマートフォンに通知が届く。
投稿を確認する。
そして、思わず笑った。
「やりやがった」
有楽町から移動中の車内。
城戸のスマートフォンにも同じ通知が届いた。
城戸は画面を見て、数秒沈黙する。
そして、わずかに口元を緩めた。
「なるほど」
六本木。
神崎は送信ボタンの前で、一瞬だけ指を止めた。
七年前。
何もかもが一方的に奪われた。
だが今は違う。
自分で出す。
自分で晒す。
そして、自分で引き受ける。
神崎は小さく呟いた。
「来いよ」
そして――
送信ボタンを押した。
その瞬間。
物語は、“観るもの”から――
“巻き込まれるもの”へと変わった。




