第44話「すべての提示」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
六本木のオフィスに、わずかな沈黙が落ちた。
モニターには、新たに投稿された動画のサムネイルが映っている。
「これが“すべて”です」
あまりにも露骨なタイトルだった。逃げ場を与えない。これ以上はない、と言い切る言葉。
真壁がゆっくりと再生ボタンを押した。
画面は暗転から始まる。
数秒の無音。
そして映し出される。
同じ会議室。
同じ神崎。
同じ男たち。
だが、今回は視点が違う。
固定されたカメラではなく、少し高い位置からの映像。おそらく防犯カメラか、別角度の記録。
音声が流れる。
男の声。
「じゃあこれは、出るってことでいいんですね」
神崎は資料を閉じながら答える。
「止められない」
別の男が言う。
「困るんだよ」
神崎は言う。
「こっちも困ってる」
その声には苛立ちがあった。
神崎は続ける。
「だから言ってるだろ」
少し前に身を乗り出す。
「出る前提で考えろって」
男が黙る。
神崎はさらに言う。
「隠すんじゃなくて、出たあとどうするかだ」
画面が少しだけ揺れる。
別の時間。
同じ会議室。
神崎と、別の人物。
その顔ははっきりとは映らない。
声だけが聞こえる。
「これ、全部出たら終わるぞ」
神崎は静かに言う。
「終わらない」
少し間を置く。
「終わらせない」
映像が切り替わる。
夜の街。
車の中。
神崎が電話をしている。
「いや、違う」
短く否定する声。
「操作じゃない」
少し沈黙。
そして言う。
「事実を出すだけだ」
動画はそこで終わる。
オフィスの空気は、重かった。
誰もすぐには口を開かなかった。
真壁が先に言った。
「…来ましたね」
神崎は画面を見つめたまま、何も言わない。
スタッフの一人が呟く。
「これ…」
言葉を探す。
「悪くない」
別のスタッフも言う。
「むしろ…正しいこと言ってる」
だが、真壁は首を横に振った。
「問題はそこじゃない」
神崎が小さく言う。
「印象だな」
真壁は頷く。
「はい」
そして続ける。
「これで確定される」
神崎が聞く。
「何が」
真壁は言った。
「“裏で動いてる人間”っていうイメージです」
赤坂。
相良宗一は、グラスを持ったまま動画を見終えた。
ゆっくりと息を吐く。
「完成だな」
その一言には、感心と、わずかな警戒が混じっていた。
相良は呟く。
「完全に“黒でも白でもない人間”にされた」
そして小さく笑う。
「一番厄介なポジションだ」
有楽町。
城戸正宗は、同じ動画を見終えた。
スタッフが言う。
「反応、来てます」
城戸は頷く。
「見せてください」
タブレットに表示される。
SNSのコメント。
「結局グレーじゃん」
「裏で色々やってるのは確定」
「正しいこと言ってるけど信用できない」
「こういうやつが一番怖い」
城戸はそれを一通り見たあと、静かに言った。
「いい」
スタッフが聞く。
「いい、ですか?」
城戸は頷く。
「完璧です」
そして続ける。
「ヒーローではなく、敵でもない」
その目がわずかに細くなる。
「“信用できない人間”」
六本木。
神崎はゆっくりとソファに座った。
天井を見上げる。
七年前。
自分は一方的に悪役にされた。
今回は違う。
白でも黒でもない。
曖昧なまま、評価される。
神崎は小さく笑った。
「面白いな」
真壁が見る。
神崎は続ける。
「こっちの方が、きつい」
スマートフォンが震える。
真壁が画面を見る。
「世論、ほぼ固まりました」
神崎が聞く。
「どうなった」
真壁は答えた。
「“信用できない人”です」
数秒の沈黙。
神崎はゆっくりと立ち上がった。
その動きは、どこか軽かった。
神崎は言った。
「いいね」
真壁が少し驚く。
「いいんですか?」
神崎は笑った。
「最高だろ」
そして続ける。
「やっとスタートラインだ」
真壁は理解する。
これは終わりじゃない。
ここからが、本番だ。
神崎はホワイトボードに向かう。
「信用できない」
と書く。
その横に、もう一つ書く。
「信用させる」
そして振り返る。
「次、行くぞ」
観客は、決めた。
だが――
その決断は、まだ“表面”に過ぎなかった。




