第43話「決めさせる瞬間」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
夜はまだ続いていた。
だが、流れは変わり始めている。
六本木のオフィスでは、モニターの光だけが部屋を照らしていた。
SNSのタイムラインは止まらない。コメント、引用、動画の再生数、すべてが高速で更新され続けている。
真壁が言う。
「信頼度、さらに落ちてます」
神崎はソファに座ったまま、画面を見ていた。
「どの層だ」
真壁はデータを見ながら答える。
「無関心層です」
少し間を置く。
「どっちでもいいと思ってた層が、離れ始めてます」
神崎は小さく頷いた。
「一番厄介なやつだな」
真壁は言う。
「敵じゃない分、止められない」
神崎は立ち上がった。
ホワイトボードに向かう。
「ヒーロー」
と書く。
その横に
「観客」
そして矢印で繋ぐ。
神崎は言う。
「ヒーローは観客が作る」
真壁が続ける。
「でも観客が離れたら?」
神崎は振り返る。
「ただの人間になる」
赤坂。
相良宗一はソファに座りながら、複数の画面を同時に見ていた。
ニュース。SNS。業界のチャット。
すべてが同じ方向を向き始めている。
「決めに来てるな」
相良は呟く。
城戸正宗は、ここで終わらせる気だ。
長引かせない。
観客が迷っているうちに、強制的に答えを出させる。
相良はスマートフォンを手に取った。
神崎の番号を表示する。
だが、すぐには押さない。
数秒。
そして、やめた。
「まだだな」
有楽町。
ホテルの一室。
城戸正宗は静かに椅子に座っていた。
目の前のテーブルには、三つの資料。
・動画①(切り取り)
・動画②(続き)
・動画③(今回)
城戸はそれを順番に見たあと、ゆっくりと目を閉じた。
「ここまでは予定通り」
小さく呟く。
スタッフが言う。
「次、出しますか」
城戸は目を開ける。
「まだです」
そして続ける。
「もう少し、迷わせる」
スタッフは頷く。
「はい」
城戸は立ち上がり、窓の外を見る。
夜の東京。
無数の光。
そしてその一つ一つの裏に、人間の視線がある。
城戸は言った。
「観客は、迷っている時間が一番不安になります」
そして静かに続ける。
「不安は、判断を早める」
六本木。
神崎は再びスマートフォンを手に取った。
自分の名前。
検索。
画面に並ぶ言葉。
「怪しい」
「結局同じ側?」
「信用できない」
神崎はそれを一通り見たあと、画面を閉じた。
真壁が言う。
「来てますね」
神崎は答える。
「来てるな」
真壁は続ける。
「ここで何もしなかったら」
神崎は言った。
「終わる」
その言葉は、静かだったが重かった。
真壁は聞く。
「出しますか?」
神崎は少し考えた。
そして言った。
「まだだ」
真壁が驚く。
「まだ?」
神崎は頷く。
「今出すと、城戸の流れに乗る」
部屋の空気が変わる。
スタッフの一人が言う。
「でもこのままだと…」
神崎は遮った。
「分かってる」
そしてホワイトボードを見る。
そこには
「物語」
と書かれている。
神崎は言った。
「これは戦いじゃない」
真壁が見る。
神崎は続ける。
「脚本の取り合いだ」
その頃。
SNSでは、ある変化が起き始めていた。
コメントのトーンが変わっている。
断定が増えている。
「やっぱ黒だろ」
「擁護してたやつどうすんの」
「これで確定」
観客が、決め始めていた。
有楽町。
城戸はタブレットの画面を見ていた。
感情分析のグラフ。
「中立」が減り、「否定」が増えている。
城戸は小さく頷いた。
「そろそろですね」
スタッフが言う。
「はい」
城戸は言った。
「では」
数秒の沈黙。
そして――
「出しましょう」
六本木。
神崎のスマートフォンが震えた。
真壁が画面を見る。
そして言った。
「来ました」
神崎が視線を向ける。
モニターに映る。
新しい動画。
タイトル。
「これが“すべて”です」
神崎はゆっくりと立ち上がった。
その目は、冷たく、そしてどこか楽しそうだった。
神崎は小さく呟く。
「いいね」
そして続ける。
「やっとだ」
観客が決めるその瞬間。
物語は――
最も残酷な形で動き出す。




