第41話「足場の崩し方」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
同じ夜。
六本木のオフィスの窓に映るネオンは、いつもより冷たく見えた。
神崎修司は立ったまま、ホワイトボードを見つめている。白い面には、いくつもの矢印と名前が重なり合っていた。
神崎
城戸
相良
スポンサー
視聴者
その中心に、太く書かれた言葉。
「物語」
真壁葵が後ろから言う。
「さっきの件、精査しました」
神崎は振り向かない。
「どうだった」
真壁はタブレットを操作しながら答える。
「東都ビバレッジ」
「直前で広告代理店の担当が変わってます」
神崎の指がわずかに止まる。
「いつ」
「今日の昼」
会見の直前だった。
神崎はゆっくり振り返る。
「誰に」
真壁は少しだけ間を置いた。
そして言った。
「城戸のラインです」
部屋の空気が一瞬で変わる。
スタッフたちの手が止まる。
神崎は何も言わなかった。
ただ、ホワイトボードの「スポンサー」という文字を見た。
真壁は続ける。
「つまり」
言葉を選ぶ。
「スポンサーが動いたんじゃない」
神崎が静かに言う。
「動かされた」
真壁は頷く。
「はい」
赤坂。
相良宗一はグラスを置いたまま、天井を見上げていた。
テレビは消えている。
代わりに、スマートフォンの画面が光っている。
スポンサーの動き。
SNSの分裂。
神崎の動画。
すべてが、予想より一歩早い。
相良は小さく笑った。
「やっぱりな」
あの男は、やり方を変えていない。
城戸正宗。
物語を作るだけじゃない。
物語を動かすための現実を、同時に操作する。
相良はゆっくりとスマートフォンを手に取った。
そして短いメッセージを送る。
「やりすぎだ」
数秒後。
返信が来る。
「まだ序盤です」
相良は少しだけ目を細めた。
六本木。
神崎は椅子に座った。
さっきまでの熱が、少しだけ引いている。
代わりに、冷たい思考が戻ってきていた。
「足場を揺らす」
小さく呟く。
真壁が聞く。
「何ですか」
神崎は言う。
「城戸のやり方」
そしてホワイトボードを指す。
スポンサー → 神崎
「ここを動かす」
次に線を引く。
スポンサー → 視聴者
「そうすると」
真壁が続ける。
「神崎の“味方”が不安定になる」
神崎は頷く。
「そう」
スタッフの一人が言う。
「でもスポンサーが動くのは、こっちに有利じゃないんですか?」
神崎は首を振った。
「短期的にはな」
そして続ける。
「でも」
少し間を置く。
「コントロールできてない動きは、全部リスクになる」
真壁が静かに言う。
「流れを作られてる」
神崎は答える。
「乗せられてる」
その頃。
SNSでは、新しい空気が生まれ始めていた。
「神崎すごい」
「企業まで動かした」
という称賛の声に混ざって、
「これ、出来すぎてない?」
「裏で誰か動かしてる?」
「神崎も同じ側じゃないの?」
疑いの声が、少しずつ増えていた。
有楽町。
会見を終えた城戸正宗は、ホテルの一室にいた。
照明は落とされ、テーブルの上にはタブレットが一台。
リアルタイムのデータが流れている。
城戸はそれを静かに見ていた。
感情分析のグラフ。
ポジティブとネガティブが、ゆっくりと交差していく。
城戸は小さく呟いた。
「いい」
その声には、満足が含まれていた。
ドアがノックされる。
「どうぞ」
入ってきたのは、若いスタッフだった。
「城戸さん」
城戸は顔を上げる。
「何ですか」
スタッフは言う。
「第二弾、準備できています」
城戸は数秒だけ考えた。
そして頷く。
「出しましょう」
六本木。
神崎のスマートフォンが震えた。
真壁が画面を見る。
そして表情が変わる。
「社長」
神崎が見る。
真壁は言った。
「また来ました」
モニターに映る。
新しい動画。
タイトル。
「神崎修司の“もう一つの顔”」
神崎はゆっくりと立ち上がった。
目が、静かに細くなる。
神崎は言った。
「来たな」
七年前の物語は――
まだ終わっていなかった。
そして今、城戸はそれを――
もう一度、書き換えようとしていた。




