第40話「代償の輪郭」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
「物語は、必ず代償を伴います」
城戸正宗のその言葉は、会見場に静かに落ちたあと、すぐには消えなかった。
記者たちは一斉にメモを取りながらも、その言葉の意味を測りかねているようだった。比喩なのか、警告なのか、それとも宣言なのか。
城戸はそれ以上説明しなかった。
「以上です」
軽く頭を下げる。
それが合図だった。
フラッシュが再び焚かれ、会見は終わりの流れへと進んでいく。だが、記者たちの多くは席を立たない。スマートフォンを見ている。
東都ビバレッジのニュース。
「一部番組のスポンサー契約を見直し」
速報のテロップが流れていた。
誰かが呟く。
「もう動いたのか」
別の記者が言う。
「早すぎるだろ」
そのざわめきを、城戸は背中で受けながら会場を後にした。
ホテルの裏口。
城戸は車に乗り込むと同時に、ネクタイを少しだけ緩めた。
外の喧騒が一瞬で遮断される。
運転席の男がミラー越しに聞く。
「どうでした」
城戸は窓の外を見たまま答える。
「予定通りです」
男は少し間を置いた。
「スポンサーが動きました」
城戸は小さく頷く。
「見ました」
そして続ける。
「一社目が動いた」
その言葉は静かだったが、意味は大きかった。
最初の一社は、象徴になる。
「連鎖が起きますか」
運転手が聞く。
城戸は少しだけ考えた。
「起きるでしょう」
そして付け加える。
「ただし、神崎の思った形ではない」
六本木。
神崎修司は、モニターの前に立っていた。
東都ビバレッジのニュースが流れている。
スタッフたちの表情は明るかった。
「やりましたね」
「完全に流れ来てます」
真壁葵だけが静かに画面を見ている。
神崎が言う。
「どう思う」
真壁は少し考えた。
「良い動きです」
神崎は頷く。
「だな」
真壁は続けた。
「ただ」
神崎が見る。
真壁は言う。
「早すぎる」
部屋の空気が少しだけ変わる。
神崎は何も言わない。
真壁は続ける。
「企業は基本、最後まで様子を見る」
「最初に動くのは、一番リスクを取るときです」
神崎は静かに言った。
「誰かに押された?」
真壁は頷く。
「可能性はあります」
神崎は少しだけ笑った。
「城戸か」
真壁は即答しない。
「分かりません」
だが、その沈黙は否定ではなかった。
神崎は窓の外を見た。
ネオンの光が、少しだけ滲んで見える。
「代償、か」
さっきの城戸の言葉が頭に残っていた。
その頃。
赤坂の高層ビル。
相良宗一はソファに深く座り、グラスを手にしていた。
テレビには、城戸の会見とスポンサーのニュースが同時に流れている。
相良はゆっくりと酒を飲んだ。
「動いたな」
独り言のように呟く。
テーブルの上にはスマートフォンが置かれている。
通知はすでに数十件。
業界の人間からの連絡だ。
だが相良はそれを無視した。
代わりに、一本の番号を押す。
数回のコールのあと、相手が出た。
「もしもし」
低い声。
城戸正宗だった。
相良は笑った。
「やりすぎじゃないか」
城戸は少し間を置いた。
「どの部分でしょう」
相良は言う。
「スポンサー」
城戸は答える。
「必要な動きです」
相良はグラスを回しながら言った。
「神崎に勝たせる気か?」
城戸は静かに言った。
「勝たせません」
その一言は、短く、そしてはっきりしていた。
相良は少しだけ目を細めた。
「じゃあ」
神崎の名前を思い浮かべながら言う。
「これは何だ」
城戸は答えた。
「揺らしているだけです」
相良は笑った。
「何を」
城戸は言った。
「足場を」
六本木。
神崎は再びモニターを見ていた。
東都ビバレッジのニュースの下に、新しい速報が流れている。
「他企業も動き検討」
真壁が小さく言った。
「来ますね」
神崎は頷いた。
だが、その表情はさっきより少しだけ硬かった。
神崎は静かに言った。
「来すぎてる」
真壁が見る。
神崎は続ける。
「こんなに綺麗に動くか?」
真壁は答えない。
神崎は窓の外を見る。
六本木のネオン。
その光が、どこか不自然に見えた。
神崎は小さく呟く。
「城戸…」
その夜。
SNSでは、さらに新しい流れが生まれていた。
「神崎、企業を動かした男」
「スポンサーを揺るがした革命者」
称賛の声。
そして同時に。
「企業を操ってるのは誰?」
「これって裏で繋がってない?」
疑いの声。
観客は再び、揺れ始めていた。
そしてそのすべてを、城戸正宗は静かに見ていた。
彼の手元のタブレットには、リアルタイムのデータが流れている。
再生数。
拡散率。
感情分析。
城戸はそれを一通り見たあと、ゆっくりと画面を閉じた。
そして小さく呟いた。
「まだ足りない」
物語は動いている。
だがまだ――
結末には遠かった。




