第39話「スポンサーの選択」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
分裂した観客は、次の行き先を探していた。
どちらが真実か。
どちらが正義か。
ではない。
どちらの物語に乗るか。
丸の内。
東都ビバレッジ本社の会議室には、前日とは違う緊張が漂っていた。
同じメンバー。
同じ席順。
同じ資料。
だが、空気だけが違う。
モニターには二つの動画が並んでいた。
「七年前の神崎修司」
「七年前の“その後”」
社長は腕を組んだまま、その二つを見ている。
広報部長が口を開いた。
「世論が割れています」
マーケティング担当が続ける。
「完全に二極化です」
副社長が言う。
「どちらも拡散している」
つまり――
どちらも止まっていない。
社長はゆっくり言った。
「最悪のパターンだな」
誰も否定しない。
広報部長が説明する。
「片方が圧倒的なら対応は簡単です」
「どちらかに寄る」
「もしくは距離を取る」
少し間を置く。
「ですが今回は…」
言葉を濁す。
社長が引き取った。
「どちらにつくかで、敵が変わる」
会議室が静まり返る。
社長はモニターを指した。
「神崎につくか」
「城戸につくか」
その二択。
だが実際は、どちらも危険だった。
マーケティング担当が言う。
「現状、若年層は神崎寄りです」
広報部長が続ける。
「一方でテレビ視聴層はまだ城戸側」
副社長が小さく息を吐いた。
「完全に世代で割れてるな」
社長は言った。
「つまり」
少し間を置く。
「どちらを選んでも、半分を敵に回す」
その頃。
有楽町の会見場では、まだ質疑応答が続いていた。
「城戸さん、この動画について追加でコメントはありますか?」
城戸正宗は演台の前で、落ち着いたまま答える。
「ありません」
記者が食い下がる。
「神崎さんの反論については?」
城戸は少しだけ笑った。
「当然の行動でしょう」
そして続ける。
「彼もまた、物語を守ろうとしている」
その言葉に、何人かの記者が顔を上げる。
城戸は言った。
「ただし」
少し間を置く。
「物語は一つに収束します」
会場が静まる。
城戸はゆっくり言った。
「観客は、最終的に一つを選ぶ」
六本木。
神崎修司はオフィスのホワイトボードの前に立っていた。
そこにはいくつもの線が引かれている。
神崎
城戸
相良
スポンサー
視聴者
真壁が言う。
「企業、迷ってます」
神崎は頷く。
「だろうな」
真壁は続ける。
「今が一番動けないタイミングです」
神崎はホワイトボードに一本の線を引いた。
スポンサー → 視聴者
「ここだな」
真壁が見る。
神崎は言う。
「スポンサーは、視聴者を見てる」
そしてもう一本線を引く。
視聴者 → 物語
「視聴者は、物語を見る」
真壁は頷く。
「つまり」
神崎は振り返る。
「物語を動かせば、スポンサーも動く」
真壁が少し笑った。
「シンプルですね」
神崎は言った。
「シンプルだよ」
そして続ける。
「だから難しい」
丸の内。
会議室では、まだ結論が出ていなかった。
副社長が言う。
「時間がない」
広報部長が言う。
「このままだと企業名が出ます」
マーケティング担当が言う。
「どちらかに寄るしかない」
社長は黙っていた。
数秒。
いや、数十秒。
その沈黙は、会議室の空気をさらに重くする。
やがて社長は口を開いた。
「第三の選択はないか」
全員が顔を上げる。
広報部長が言う。
「中立ですか?」
社長は首を振る。
「違う」
そしてモニターを指した。
「この構造そのものから、降りる」
会議室がざわつく。
マーケティング担当が言う。
「スポンサーをやめる?」
社長は答える。
「一部だけな」
そして続ける。
「問題になっている番組からは撤退する」
副社長が聞く。
「リスクは?」
社長は言った。
「ある」
そして少し笑った。
「でもな」
その目が少し鋭くなる。
「今は動いた企業が、記憶に残る」
六本木。
神崎のスマートフォンが震えた。
真壁が画面を見る。
「来ました」
神崎が聞く。
「どこ」
真壁は答えた。
「東都ビバレッジ」
神崎は小さく笑った。
「早いな」
真壁は続ける。
「番組スポンサー、一部撤退です」
神崎は窓の外を見た。
六本木のネオンが光っている。
そして静かに言った。
「動いたな」
有楽町。
会見場で、城戸のスマートフォンが震えた。
城戸は一瞬だけ画面を見た。
そして、ほんのわずかに目を細めた。
その表情は、誰にも気づかれなかった。
城戸は演台の前で言った。
「では、最後に一つだけ」
会場が静まる。
城戸はゆっくり言った。
「物語は、必ず代償を伴います」
その言葉は、誰に向けたものでもないようで――
確実に、誰かに届いていた。




