第38話「その後の真実」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
数分前まで一つだった波が、二つに割れた。
SNSのタイムラインは、さっきまでの動画一色から一変していた。
「七年前の神崎修司」
その動画の下に、新たな投稿が並ぶ。
「七年前の“その後”」
再生数が一気に伸びていく。コメント欄が更新され続け、通知が止まらない。
六本木のオフィスでは、誰もがモニターを見つめていた。
真壁が低く言う。
「伸び方、異常です」
スタッフの一人が答える。
「元の動画と同じ速度です」
つまり――
観客が分裂している。
神崎修司は立ったまま、腕を組んで画面を見ていた。
再生ボタンが押される。
画面に映るのは、同じ夜だった。
同じバー。
同じ服装。
同じ神崎。
だが時間が違う。
さっきの動画の“続き”。
女性の声が入る。
「それって、ファンのことバカにしてない?」
神崎は少し黙る。
グラスを持ったまま、数秒だけ考える。
そして言う。
「違う」
その声は、さっきの映像とは明らかに違っていた。
軽さがない。
神崎は続ける。
「バレなきゃいいって言ってるのは」
少し笑う。
「仕事の話だよ」
女性が聞き返す。
「仕事?」
神崎は頷く。
「スポンサーとテレビの関係」
その言葉に、空気が変わる。
神崎は言った。
「全部、表で言えないことばっかだろ」
女性は少し黙る。
神崎は続ける。
「だから“バレなきゃいい”って言ってる」
そしてグラスを置いた。
「そういう構造なんだよ」
動画がそこで終わる。
オフィスの空気が静まり返る。
誰もすぐには口を開かなかった。
真壁が最初に言った。
「…綺麗に切られてましたね」
神崎は小さく笑った。
「完璧にな」
スタッフの一人が言う。
「これで流れ変わりますよ」
別のスタッフが言う。
「コメント欄、もう割れてます」
モニターには、コメントが高速で流れている。
「さっきの切り取りだったのか」
「でも印象悪いのは変わらない」
「いやこれは操作だろ」
「どっちが本当だ?」
真壁が言う。
「観客、迷ってます」
神崎は画面を見ながら言った。
「それでいい」
真壁が振り向く。
神崎は続ける。
「迷わせる」
そして静かに言った。
「それが最初の一歩だ」
有楽町の会見場でも、同じことが起きていた。
記者たちはスマートフォンを見ながらざわついている。
「続きが出たぞ」
「完全版だ」
「いや、どっちが本当なんだ」
城戸正宗は演台の前に立ったまま、その様子を見ていた。
表情は変わらない。
ただ、ほんのわずかに目を細める。
一人の記者が声を上げた。
「城戸さん!」
城戸が視線を向ける。
「神崎さんが新しい動画を公開しました!」
城戸は頷く。
「見ました」
その答えは早かった。
記者が続ける。
「最初の動画は編集されていた可能性がありますが、それについては?」
城戸は数秒だけ沈黙した。
そして言った。
「当然でしょう」
会場が静まる。
城戸は続ける。
「すべての情報は、何かしら編集されています」
その言葉に、記者たちの手が止まる。
城戸は言う。
「問題は、編集されているかどうかではない」
そしてゆっくり続けた。
「どの編集を、観客が信じるかです」
六本木。
神崎はスマートフォンをポケットにしまった。
真壁が言う。
「どうします?」
神崎は少し考えた。
そして答える。
「次だ」
真壁が聞く。
「次?」
神崎は頷く。
「これはまだ序盤」
その声は落ち着いていた。
「城戸はこれで終わらない」
真壁は小さく笑った。
「でしょうね」
神崎は窓の外を見る。
六本木のネオンが、夜の街を照らしている。
七年前、自分は断片で裁かれた。
だが今は違う。
断片をぶつけ合うだけじゃない。
神崎は静かに言った。
「全部、出させる」
真壁が少しだけ驚いた顔をする。
神崎は続ける。
「城戸も、相良も」
そして小さく笑った。
「全員、登場人物だろ」
その頃。
別の場所で、相良宗一はスマートフォンの画面を見ていた。
二つの動画。
二つの物語。
そして分裂した観客。
相良はゆっくり息を吐いた。
「やっぱりな」
そして小さく呟いた。
「面白くなってきた」
だがその目は、少しだけ真剣だった。
この流れは――
ただの炎上では終わらない。
物語は今、観客を巻き込みながら――
制御不能な領域へと入り始めていた。




