第37話「編集された真実」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
会見場の空気は、ほんの数秒で変わった。
それまで整然としていた記者たちの動きが、一斉に崩れる。スマートフォンを手に取り、動画を確認し、隣の記者と画面を見せ合う。ざわめきは波のように広がり、数秒前まで城戸の言葉に集中していた視線は、完全に別のものへと移っていた。
「音声、クリアだ」
「本人で間違いないだろ」
「七年前の映像か?」
誰かがそう言った。
城戸正宗は、その様子を演台の前から静かに見ていた。
慌てる様子はない。
むしろ、予定通りという顔だった。
「皆さん」
城戸が口を開く。
声は変わらず穏やかだった。
「落ち着いてください」
ざわめきは止まらないが、記者たちの一部が顔を上げる。
城戸は続ける。
「重要なのは、この映像が何か、ではありません」
数秒の間。
「この映像が、どう受け取られるかです」
その言葉に、何人かの記者が手を止めた。
城戸は言った。
「事実は一つです」
スクリーンを指す。
「しかし、物語は一つではない」
六本木のオフィスでも、同じ動画が繰り返し再生されていた。
神崎修司は画面の前に立ったまま動かない。
スタッフたちは誰も口を開かなかった。
映像は短い。
数十秒。
だが、その数十秒の中に、七年前のすべてが凝縮されているように見えた。
真壁葵が先に口を開いた。
「これ、出どころは?」
別のスタッフが答える。
「まだ追えてません」
真壁は画面に目を向けたまま言う。
「編集されてる」
神崎の視線がわずかに動く。
真壁は続ける。
「音声、途中で切れてる」
神崎は何も言わない。
真壁はキーボードを叩きながら言う。
「前後がない」
「会話の流れが不自然です」
神崎はゆっくりと椅子に座った。
そしてもう一度動画を見た。
若い自分。
軽い笑い。
酒。
そしてあの一言。
――別にバレなきゃいいだろ
神崎は静かに言った。
「言ってるな」
真壁は顔を上げた。
神崎は続ける。
「これは本物だ」
部屋の空気が少しだけ重くなる。
真壁は言う。
「でも編集されてる」
神崎は頷く。
「そうだな」
そして画面を見つめたまま言った。
「都合よく」
その頃、会見場では質問が飛び交い始めていた。
「城戸さん、この動画の出どころは?」
「神崎さんの過去の発言として事実ですか?」
「今回の会見と関係があるんですか?」
城戸はすぐには答えなかった。
質問を一通り聞き終えたあと、ゆっくり口を開く。
「出どころについては、現時点では把握していません」
その答えは、用意されたもののように滑らかだった。
記者がすぐに続ける。
「では、この動画についての見解は?」
城戸は一瞬だけ考えた。
「そうですね」
そして言った。
「一つだけ言えることがあります」
会場が静まる。
城戸は続ける。
「人は、断片で判断する」
数秒の間。
「特に、都合のいい断片で」
記者たちは黙って聞いている。
城戸は言った。
「そしてそれが、物語になります」
六本木。
神崎はゆっくりと立ち上がった。
真壁が言う。
「どうします?」
神崎は答えない。
窓の外を見る。
ネオンが街を照らしている。
七年前。
あのときも、同じように断片が切り取られた。
都合よく編集され、都合よく解釈され、都合よく拡散された。
そして自分は――
悪役になった。
神崎は静かに言った。
「やっぱりな」
真壁が聞く。
「何が」
神崎は振り返る。
「同じことやってる」
真壁は少しだけ笑った。
「だからこそ、今回やってるんじゃないんですか」
神崎は頷く。
そして言った。
「出すぞ」
真壁の目が鋭くなる。
「どれを」
神崎は答えた。
「全部だ」
部屋の空気が変わる。
神崎は続ける。
「断片じゃなくて、全部」
真壁は一瞬だけ考えた。
そして頷いた。
「いいですね」
神崎はスマートフォンを手に取る。
指が止まる。
数秒。
その間に、七年前の記憶がよぎる。
だがすぐに、その指は動いた。
「これで」
神崎は小さく言う。
「物語は変わる」
送信ボタンを押す。
数分後。
SNSに、新しい動画が投稿された。
タイトル。
「七年前の“その後”」
そしてその瞬間、物語は――
再び書き換えられ始めた。




