第36話「脚本の続き」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
「そして私は、結末を書くのが好きなんです」
城戸正宗のその言葉が落ちたあと、会場には数秒の沈黙が流れた。
記者たちはすぐには動かなかった。ペンを持ったまま、あるいはカメラを構えたまま、城戸の次の言葉を待っている。城戸の会見はいつもそうだった。わざと間を作る。観客が次の展開を期待する時間を与える。
城戸は演台に置いた水を一口飲んだ。
そして、もう一度ゆっくりと会場を見渡す。
「では」
声は落ち着いている。
「本題に入りましょう」
記者たちの姿勢が少しだけ前のめりになる。
城戸はリモコンを手に取り、スクリーンを操作した。
画面に新しいスライドが映し出される。
タイトル。
「メディア構造」
城戸は言う。
「神崎修司さんは、“スポンサー構造”という言葉を使いました」
会場の数人が頷く。
神崎の会見はすでに多くのメディアで報じられていた。
城戸は続ける。
「スポンサーが番組を支配している」
「スポンサーが報道を歪めている」
「スポンサーが物語を作っている」
一つ一つ、ゆっくりと言葉を並べる。
「とても分かりやすい説明です」
少し笑う。
「ただし」
声が少し低くなる。
「それは半分だけ正しい」
スクリーンが切り替わる。
今度は別の図だった。
スポンサー
テレビ局
広告代理店
制作会社
視聴者
それぞれが矢印でつながっている。
城戸は言った。
「この構造の中心にいるのは、スポンサーではありません」
指で図の一箇所を指す。
「視聴者です」
会場が静まる。
城戸は続ける。
「スポンサーは視聴率を見ます」
「テレビ局も視聴率を見ます」
「広告代理店も視聴率を見ます」
そして静かに言った。
「つまり」
「すべては、視聴者の興味で動いている」
記者の一人が手を挙げた。
「それは責任転嫁では?」
城戸はすぐに答えない。
数秒だけ考える。
「いいえ」
そして言った。
「これは事実です」
城戸は会場を見渡した。
「人は、物語を求めます」
「ヒーロー」
「悪役」
「逆転」
その言葉は静かだったが、重かった。
城戸は続ける。
「そして七年前」
一瞬だけ間が生まれる。
「神崎修司さんは、その物語の中心にいました」
記者たちが顔を上げる。
城戸はスクリーンを操作した。
新しい映像が映る。
七年前のニュース番組。
神崎修司のスキャンダルを報じる映像だった。
テロップ。
「人気俳優の裏の顔」
コメンテーターの声。
「これはショックですね」
「イメージが崩れました」
城戸は言う。
「当時、このニュースは大きく拡散しました」
そして静かに続ける。
「しかし」
声が低くなる。
「今の神崎さんの物語は、少し違う」
スクリーンがもう一度切り替わる。
そこには、現在のSNSのトレンドが表示されていた。
神崎修司
メディア構造
パパラッチ・パパラッチ
城戸は言う。
「今、神崎さんはヒーローです」
そして少し笑った。
「素晴らしい」
だが次の言葉は冷たい。
「ただ」
城戸は演台に手を置く。
「ヒーローには、必ず試練があります」
会場が静まり返る。
城戸はスクリーンの最後のスライドを出した。
そこには一つの言葉が書かれていた。
「事実」
城戸は言った。
「物語は、事実の前で変わる」
そのときだった。
会場の後方で、誰かのスマートフォンが震えた。
一人ではない。
二人。
三人。
十人。
記者たちが一斉に画面を見る。
ざわめきが広がる。
「動画だ」
「神崎の…」
城戸はその様子を静かに見ていた。
表情は変わらない。
ただ言った。
「ご覧になりましたか」
記者たちのスマートフォンの画面には、一本の動画が流れていた。
七年前。
バーの店内。
若い神崎修司。
酒。
女性。
そして、神崎の声。
「別にバレなきゃいいだろ」
会場の空気が一瞬で変わる。
誰かが呟く。
「本物か…?」
城戸は演台の前で、ゆっくりと息を吐いた。
そして言った。
「観客は」
少し間を置く。
「物語を変えます」
その頃。
六本木のパパラッチ・パパラッチのオフィスでは、スタッフの一人が叫んだ。
「社長!」
真壁が振り向く。
「どうした」
スタッフはモニターを指さした。
「動画です!」
神崎修司は立ち上がり、画面を見た。
そこには、七年前の自分が映っている。
あの夜。
あの場所。
そして、あの言葉。
真壁が低く言った。
「城戸の仕掛けですね」
神崎はしばらく画面を見つめていた。
そして、小さく笑った。
「違う」
真壁が聞く。
「違う?」
神崎は言った。
「城戸の脚本だ」
窓の外の六本木のネオンが、夜の街を照らしている。
神崎はゆっくり息を吐いた。
七年前の物語が――
再び動き始めていた。




