第34話「観客の火」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
西麻布の店を出たとき、外の光はもう夕方に変わり始めていた。
昼の白い光は柔らかくなり、ビルの影が長く伸びている。六本木と西麻布の境目あたりは、昼と夜の顔が混ざる時間帯だった。
神崎修司は店の前で立ち止まった。
相良宗一は後ろからゆっくり歩いてくる。
二人は数秒、何も言わなかった。
相良が先に口を開いた。
「神崎」
神崎は振り向かない。
相良は言う。
「一つ忠告しておく」
神崎は少しだけ顔を向けた。
相良の表情は真面目だった。
「城戸はな」
少し間を置く。
「負ける戦いをしない」
神崎は静かに言った。
「分かってます」
相良は続ける。
「つまり」
目を細める。
「お前が今ここまで来てるのも」
神崎は聞く。
「計算?」
相良は答えない。
ただ小さく笑った。
「じゃあな」
それだけ言って、相良は歩き去った。
神崎はしばらくその背中を見ていた。
相良宗一。
あの男は嘘をつくタイプではない。
だが、全部を話すタイプでもない。
神崎は小さく息を吐いた。
そしてポケットからスマートフォンを取り出す。
画面は通知で埋まっていた。
SNS。
ニュース。
動画サイト。
神崎修司の名前が、どこを見ても流れている。
「社長」
背後から声がした。
真壁葵だった。
車の横に立っている。
「オフィス戻りますか」
神崎はスマートフォンをポケットに戻した。
「戻ろう」
六本木。
パパラッチ・パパラッチのオフィス。
夜になっていた。
窓の外では、六本木のネオンが再び街を照らしている。
スタッフの数は昼より増えていた。
パソコンの画面が並び、ホワイトボードには矢印と名前がいくつも書かれている。
神崎
城戸
相良
スポンサー
テレビ局
それぞれが線でつながっている。
真壁が言う。
「社長」
神崎はソファに腰掛けた。
「何か動いた?」
真壁は頷く。
「かなり」
モニターを指す。
SNSの分析画面だった。
グラフが急激に上がっている。
「“スポンサー構造”がトレンド入りしました」
神崎は画面を見る。
ハッシュタグが並んでいる。
#スポンサー構造
#メディアの裏側
#パパラッチパパラッチ
神崎は小さく笑った。
「火がついたな」
真壁は言う。
「想像以上です」
そして別の画面を出した。
「企業側も動いてます」
そこにはニュース記事が表示されていた。
「東都ビバレッジ、番組スポンサーを検討」
神崎の眉がわずかに動く。
真壁は言う。
「昨日の会見が効いてる」
神崎は静かに言った。
「観客」
真壁は頷く。
「増えてます」
スタッフの一人が言った。
「YouTubeも伸びてます」
別のスタッフが言う。
「海外メディアも記事にしてる」
神崎は窓の外を見た。
城戸は言っていた。
――観客が物語を決める。
ならば、観客を増やす。
それが神崎の戦い方だった。
そのとき、オフィスのドアが開いた。
若いスタッフが慌てて入ってくる。
「真壁さん!」
真壁が振り向く。
「どうした」
スタッフは息を整えながら言った。
「城戸が」
神崎の視線が動く。
スタッフは続ける。
「また記者会見を開きます」
部屋の空気が一瞬止まった。
真壁が聞く。
「いつ」
「明日です」
神崎はソファにもたれた。
小さく笑う。
「早いな」
真壁は言う。
「完全に受けて立つ気です」
神崎は静かに言った。
「違う」
真壁が見る。
神崎は続ける。
「主導権を取り返す」
城戸正宗。
あの男は、常に物語の主導権を握る。
神崎は立ち上がった。
窓の外の六本木を見下ろす。
ネオン。
人の流れ。
東京の夜。
神崎は言った。
「いい」
真壁が聞く。
「何が」
神崎は笑った。
「観客、もっと増える」
七年前。
神崎は物語の悪役だった。
だが今は違う。
今、この物語には――
観客が集まり始めている。
そして明日。
城戸正宗が、ついに舞台の中央に立つ。




