第28話「スポンサー会議」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
彼女が本当に神崎を裏切ったのか、それとも誰かに利用されているのかは、まだ明確ではない。
東京・丸の内。
大手飲料メーカー「東都ビバレッジ」の本社ビル最上階では、夜遅くにもかかわらず会議室の灯りが消えていなかった。
ガラス張りの会議室からは皇居の暗い森が見える。昼間なら観光客やランナーが見える場所だが、今はただ黒い影のように広がっているだけだった。
会議室には八人ほどの人間が集まっていた。
社長。
副社長。
広報部長。
マーケティング担当役員。
そして広告代理店の担当者。
テーブルの中央には大型モニターが置かれている。画面にはSNSの分析データが映し出されていた。
ハッシュタグ
神崎修司
スポンサー撤退
メディア構造
グラフの線が急激に上昇している。
広報部長が口を開いた。
「現在、関連投稿は二百万件を超えています」
マーケティング担当が腕を組む。
「増え方が異常だ」
広報部長は画面を指した。
「昨日の外国特派員協会の会見がきっかけです」
テレビ画面に、神崎修司の会見映像が小さく表示されている。
「メディアを取材する会社」
「スポンサーと番組の関係を可視化する」
その言葉がSNSで拡散されていた。
社長がゆっくり口を開く。
「我々は今、どの番組に広告を出している?」
マーケティング担当が資料をめくる。
「問題になっている週刊誌系の情報番組に三本。ワイドショーに二本」
社長は少しだけ眉をひそめた。
「炎上する可能性は?」
広報部長が答える。
「すでに一部で企業名が出始めています」
モニターに別の画面が表示される。
SNSの投稿だ。
「この番組のスポンサー、○○飲料」
「こんな取材を支持してるの?」
「不買かな」
副社長が小さく息を吐いた。
「面倒な流れだ」
広告代理店の担当者が慌てて言う。
「ですがこれは一時的なものです。ネットの炎上はすぐに沈静化します」
社長はその言葉を聞きながら、静かに画面を見ていた。
それからゆっくり言った。
「問題は炎上じゃない」
会議室が静まる。
社長は続けた。
「問題は、物語だ」
数人が顔を上げる。
社長はモニターの神崎の映像を指した。
「この男は、我々を物語の中に入れようとしている」
広報部長が小さく頷いた。
「はい」
社長は言った。
「企業が一番嫌うのは何だ?」
誰も答えない。
社長は自分で答えた。
「悪役になることだ」
会議室が静まり返る。
社長は続けた。
「スポンサーは本来、舞台の裏にいる存在だ」
少し間を置く。
「だが今、その裏側を照らそうとしている人間がいる」
モニターには、神崎修司の顔が映っている。
副社長が言った。
「つまり、広告を降りるべきだと?」
社長は少し考えた。
そして静かに答える。
「まだ早い」
会議室の空気が少し動く。
社長は続けた。
「これは神崎の作戦だ」
広告代理店の担当者が頷く。
「スポンサーを動かしてテレビ局を揺さぶる」
社長は言った。
「その通り」
そして椅子にもたれた。
「だが一つ問題がある」
広報部長が聞く。
「何でしょう」
社長は言った。
「神崎が正しい可能性がある」
会議室が完全に静まり返る。
広報部長が慎重に言った。
「それは…」
社長は言った。
「真実かどうかは関係ない」
モニターのSNSグラフを指す。
「観客がそう思い始めた」
それが問題だった。
企業は真実で動くわけではない。
イメージで動く。
副社長が言った。
「ではどうします」
社長はゆっくり答えた。
「様子を見る」
少し間を置く。
「ただし」
その声は低かった。
「この戦いは長くならない」
全員が社長を見る。
社長は言った。
「神崎修司が勝つか」
モニターの画面を見ながら続ける。
「城戸正宗が勝つか」
そして最後に言った。
「どちらかが早く潰れる」
会議室は再び静まり返った。
そしてその頃。
都内の別の場所では、真壁葵がパソコンの画面を見つめていた。
画面には大量のデータが並んでいる。
テレビ局の制作会議の記録。
スポンサー担当者との通話ログ。
そして――
七年前の週刊誌の編集会議のメモ。
真壁は小さく息を吐いた。
そして神崎にメッセージを送る。
「社長」
「七年前の編集会議」
「相良の名前、出てきました」
送信ボタンを押す。
その瞬間、真壁は理解していた。
第二幕は、もう始まっている。
そしてこの物語は――
もう誰にも止められない。




