第27話「相良宗一」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
彼女が本当に神崎を裏切ったのか、それとも誰かに利用されているのかは、まだ明確ではない。
同じ夜。
日本外国特派員協会の会見が終わるころ、東京・赤坂の高層ビルの最上階ではまったく別の空気が流れていた。
ガラス張りのオフィスの窓の向こうに、東京の夜景が広がっている。会議室には十人ほどの人間が集まっていたが、誰も椅子には深く座っていない。立ったままスマートフォンを見ている者もいれば、テレビのニュースを睨んでいる者もいる。
テレビ画面には、ついさっきまで行われていた記者会見の映像が流れていた。
神崎修司。
城戸正宗。
そして――
相良宗一。
その名前が、テロップで大きく表示されている。
会議室の中央に座っている男が、その画面を見ていた。
相良宗一。
五十代の半ば。髪は整えられ、スーツは無駄なく体に合っている。テレビに映る派手な芸能人とは違うが、この業界の裏側を知る人間なら、誰でもその名前を知っている。
映画プロデューサー。
テレビ番組の企画者。
芸能界の調整役。
そして――
問題が起きたとき、表に出ない人間。
テレビの音声が聞こえる。
「神崎修司さんは、七年前のスキャンダルに関して、芸能界の大物プロデューサー相良宗一氏の名前を挙げました――」
相良は、テレビのリモコンを手に取り、音を消した。
部屋が静かになる。
しばらく誰も話さなかった。
やがて、部屋の奥にいた男が言った。
「相良さん」
相良は振り向かない。
男は続ける。
「神崎が名前を出しました」
相良は短く答えた。
「見てた」
声は落ち着いている。
男は言った。
「どうしますか」
相良はすぐには答えなかった。窓の外の夜景を見ている。
東京という街は面白い。
昼間はビジネスの街だが、夜になるとすべてが別の顔になる。芸能、広告、政治、金。そのすべてが夜の街で動く。
相良はゆっくり椅子に座り直した。
そして、初めて少しだけ笑った。
「神崎」
その名前を口にする。
「面白くなったな」
部屋の空気がわずかに動く。
別の男が言った。
「面白い、で済む話じゃないですよ。スポンサーも動いてる。テレビ局もざわついてます」
相良は肩をすくめた。
「そりゃそうだ」
そしてテレビ画面を指さした。
「でも見ろ」
画面には、神崎の会見の映像がまだ流れている。
フラッシュ。
カメラ。
記者。
相良は言った。
「神崎はまだ何も出してない」
男が言う。
「録音があると言ってました」
相良は笑った。
「“あると言った”だけだ」
部屋の空気が少しだけ軽くなる。
相良は続ける。
「この世界はな」
指で机を軽く叩いた。
「証拠が出るまでは、ただの噂だ」
そして少し間を置く。
「そして証拠が出ても、物語が勝つこともある」
その言葉は、城戸がさっき言っていた言葉とほとんど同じだった。
部屋の男が聞いた。
「城戸さんとは話しましたか」
相良は首を振る。
「まだ」
そして少し笑った。
「でもあいつは楽しんでるだろうな」
城戸正宗。
あの男は、こういう騒ぎが好きだ。
相良は机の上のスマートフォンを手に取った。
SNSを開く。
トレンドには、もう神崎の名前が並んでいる。
神崎修司
スポンサー降板
メディア構造
相良宗一
相良はそれを見て、少しだけ目を細めた。
七年前。
神崎修司は確かにスターだった。
若く、勢いがあり、視聴率も取れた。業界の人間はみんな彼に期待していた。
だが――
相良はゆっくりと思い出す。
あのとき、神崎は邪魔だった。
相良は静かに言った。
「調べろ」
部屋の男たちが顔を上げる。
「パパラッチ・パパラッチ」
神崎の会社の名前だ。
相良は続けた。
「どこまで掴んでるか」
男が聞く。
「もし本当に証拠があるなら?」
相良は少し考えた。
そして、静かに言った。
「その前に」
男たちを見る。
「神崎の物語を終わらせる」
部屋の空気が重くなる。
相良は窓の外を見た。
東京の夜景。
その光のどこかで、今も神崎修司は動いている。
七年前、消えたはずの男。
そして今、戻ってきた男。
相良は小さく笑った。
「いいだろう」
その声は、まるで舞台の幕が上がるのを楽しんでいる観客のようだった。
「第二幕か」
そして静かに言った。
「じゃあ」
机の上のスマートフォンを置く。
「俺も出るか」
七年前の物語の、もう一人の登場人物。
相良宗一が――
ついに動き始めた。




