第19話「舞台の上」
『パパラッチ・パパラッチ』登場人物一覧
■神崎 修司
本作の主人公。
元人気俳優で、七年前のスキャンダルによって芸能界を引退。
現在は実業家として成功し、「パパラッチ・パパラッチ」という会社を立ち上げた。
芸能人を追い回す記者を逆に取材するという前代未聞のビジネスを開始し、
メディア・芸能界・スポンサー・政治の裏側にある「物語を作る構造」に戦いを挑む。
■真壁 葵
パパラッチ・パパラッチの調査責任者。
元新聞記者。
報道の裏側を知る人物で、神崎の最も信頼する右腕。
理性的で冷静だが、神崎の手法の危うさを常に理解しており、物語の中で「倫理の視点」を持つ存在。
神崎の行動に疑問を持ちながらも、彼の覚悟を理解し、共に戦う。
■佐伯 圭一
神崎の元マネージャー。
神崎が新人だった頃から担当していた人物。
しかし七年前、相良宗一から金を受け取り、神崎のスキャンダル情報を週刊誌に流したことが発覚。
神崎の人生を壊すきっかけを作った「裏切り者」。
■黒川 真也
週刊誌記者。
七年前、神崎のスキャンダル記事を書いた人物。
仕事として記事を書いただけだと語る、典型的なゴシップ記者。
神崎にとっては「直接の加害者」ではあるが、同時にメディア構造の中で動く一人の歯車でもある。
■相良 宗一
芸能界の大物プロデューサー。
テレビ・映画・音楽業界に強い影響力を持つ人物。
神崎のスキャンダルの裏側で暗躍していた可能性が高い。
■城戸 正宗
広告業界の伝説的存在。
日本最大の広告代理店の元会長で、現在は政府のメディア戦略顧問。
テレビ・広告・政治を横断する巨大な影響力を持つ。
■有里
神崎の元恋人。
七年前のスキャンダル当時、神崎の最も近くにいた人物。
現在、週刊誌で「元恋人の独占告白」として登場し、
神崎にとって最も痛い形の攻撃材料として利用される。
彼女が本当に神崎を裏切ったのか、それとも誰かに利用されているのかは、まだ明確ではない。
会場の空気が、一瞬だけ止まった。
日本外国特派員協会の会見室は、もともと記者たちのざわめきで満ちていた。英語、日本語、中国語、さまざまな言語が混ざり合う。だがその音が、神崎修司が扉のところに立った瞬間、波が引くように消えた。
誰かが小さく言った。
「神崎だ」
カメラが一斉に動く。
フラッシュが光る。
神崎はゆっくり歩いた。急ぐ様子はない。むしろ舞台に上がる俳優のように落ち着いていた。
七年前、芸能界から消えた男。
そして今、日本のメディア構造に喧嘩を売っている男。
その男が、脚本家の会見に現れた。
城戸正宗は、神崎を見ていた。
そして、笑った。
ほんの少しだけ。
「来ると思っていました」
城戸が言った。
マイク越しの声は静かだったが、会場の全員に聞こえる。
神崎は席の後ろに立ったまま言った。
「呼ばれてないけど」
城戸は肩をすくめた。
「物語の登場人物ですから」
会場の記者たちがざわめく。
神崎は少し笑った。
「脚本家のセリフだな」
城戸は答える。
「そうです」
少し間を置く。
「私は脚本家です」
記者たちのペンが動く。
城戸は続けた。
「ニュース」
「広告」
「政治」
「世論」
指を軽く動かす。
「全部」
そして笑う。
「物語です」
神崎はゆっくり会場を見渡した。
テレビカメラ。
外国人記者。
国内メディア。
そして言った。
「その物語」
城戸を見る。
「誰のため?」
城戸は少し考えた。
それから答えた。
「社会」
神崎は笑った。
「便利な言葉だ」
城戸は怒らない。
むしろ楽しんでいるようだった。
「神崎さん」
城戸が言う。
「あなたは勘違いしている」
神崎は聞く。
「何を」
城戸は言った。
「世論」
少し間を置く。
「人は」
「物語を求める」
会場が静まり返る。
城戸は続けた。
「英雄」
「悪役」
「葛藤」
「勝利」
軽く手を広げる。
「それがないと」
笑う。
「退屈なんです」
神崎は黙っていた。
城戸は言った。
「だから」
「私は作る」
神崎が聞く。
「英雄も?」
城戸は答えた。
「もちろん」
神崎は少し笑った。
「じゃあ」
ゆっくり言う。
「俺は?」
城戸は迷わなかった。
「英雄」
会場がざわめく。
城戸は続けた。
「そして」
少し間を置く。
「堕ちる」
記者たちがざわめく。
神崎は笑った。
「脚本か」
城戸は頷く。
「観客は」
「それを望んでいる」
神崎は少し考えた。
それから言った。
「じゃあ」
会場を見渡す。
「書き直す」
城戸の眉が、ほんの少しだけ動いた。
神崎は続けた。
「観客」
「変える」
城戸は、そこで初めて少し黙った。
数秒。
それから笑った。
「無理です」
神崎は言った。
「見てろ」
会場の空気が震える。
そのときだった。
記者の一人が立ち上がった。
「城戸さん!」
「質問です!」
城戸が見る。
記者は言った。
「七年前」
「神崎修司のスキャンダル」
「あなた関わってますか?」
会場が凍りつく。
城戸は、数秒黙った。
そして。
笑った。
「いい質問です」
会場の全員が息を止める。
城戸は言った。
「ただ」
「それは」
ゆっくり。
神崎を見る。
「第二幕の話ですね」
そして。
その瞬間。
神崎修司は。
初めて理解した。
この男は。
敵ではない。
演出家だ。




