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パパラッチ・パパラッチ  作者: 礼嗣


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第11話「眠れない男」

午前三時を過ぎても、パパラッチ・パパラッチのオフィスの灯りは消えなかった。


フロアの半分はまだ稼働している。大きなモニターにはSNSのリアルタイム分析が表示され、別の画面ではニュース番組の録画が繰り返し流されている。社員たちはそれぞれの席でパソコンを叩きながら、断片的な情報をつなぎ合わせていた。


この会社の仕事は、情報を集めることではない。


情報の「流れ」を観察することだ。


どのニュースが誰から出て、どこで拡散し、どこで歪むのか。


その流れを可視化する。


それがパパラッチ・パパラッチの仕事だった。


神崎修司は、オフィスの一番奥の会議室にいた。


照明は半分だけ落としている。


テーブルの上にはノートパソコンと、空になったコーヒーカップが三つ。


神崎は画面を見ていた。


ニュース記事の一覧が並んでいる。


「神崎修司、報道の自由を脅かす存在」

「芸能界とメディアの戦争」

「パパラッチを追う会社の危険性」


神崎はゆっくりスクロールした。


そのほとんどが予想通りだった。


批判記事。

擁護記事。

分析記事。


どれも似たような構図で書かれている。


「問題提起」

「賛否」

「専門家コメント」


神崎は小さく笑った。


物語のテンプレート。


この国のニュースのほとんどは、この形で書かれる。


「英雄」


「敵」


「議論」


そして最後に


「世論」


神崎は椅子の背にもたれた。


窓の外を見る。


東京の夜景はまだ明るい。


この街は、夜でも完全に眠らない。


 


「社長」


ドアが開く。


真壁葵だった。


神崎は振り返らない。


「どうした」


真壁は少しだけ黙った。


それから言った。


「社員が聞いてます」


神崎が振り向く。


「何を」


真壁は言った。


「この会社」


少し間を置く。


「どこまで行くんですか」


神崎は少し笑った。


「急に哲学だな」


真壁は真剣な顔だった。


「違う」


神崎は黙る。


真壁は言った。


「怖いんです」


神崎はその言葉を聞いても驚かなかった。


むしろ、当然だと思った。


この会社はまだ若い。


社員の多くは二十代から三十代前半だ。


元記者。

元調査会社。

元IT企業。


普通の会社なら、もっと安全な仕事をしていた人間たちだ。


それが今。


テレビ局。

政治。

巨大広告代理店。


そんな場所に喧嘩を売っている。


怖くないわけがない。


神崎は聞いた。


「真壁は?」


真壁は答えなかった。


神崎は少し考えた。


それから言った。


「俺も怖いよ」


真壁の目が少し動いた。


神崎は笑った。


「毎日」


真壁はしばらく黙った。


そして聞いた。


「じゃあ」


「なんでやるんですか」


神崎は答えなかった。


数秒、沈黙が流れた。


それから神崎は言った。


「真壁」


「俺さ」


言葉を探す。


「七年前」


真壁は黙って聞いている。


神崎は続けた。


「全部なくなった」


声は静かだった。


怒りも悲しみもない。


ただ事実を言っているような声だった。


「仕事」


「友達」


「信用」


少し笑う。


「金も」


真壁は何も言わない。


神崎は言った。


「そのとき思ったんだ」


窓の外を見る。


「世界って」


「こんなに簡単に壊れるんだ」


真壁の表情が少し変わる。


神崎は続けた。


「でも」


少し間を置く。


「壊したやつ」


笑う。


「誰も責任取らない」


真壁は小さく息を吐いた。


神崎は言った。


「記者は言う」


「仕事だ」


「編集部は言う」


「売れたから正しい」


「世間は言う」


「面白かった」


神崎は肩をすくめた。


「誰も悪くない」


真壁は聞いた。


「だから?」


神崎は言った。


「構造を壊す」


真壁は黙る。


神崎は続けた。


「個人を潰しても意味ない」


「また同じことが起きる」


神崎は窓の外を見た。


「だから」


小さく笑う。


「会社作った」


真壁はしばらく何も言わなかった。


それから言った。


「社長」


神崎が見る。


真壁は言った。


「それ」


「正義ですか」


神崎は少し考えた。


そして言った。


「分からない」


真壁は驚かなかった。


神崎は言った。


「でも」


机の資料を見る。


「止まれない」


真壁は静かに頷いた。


そのときだった。


会議室のドアがノックされた。


社員の一人が顔を出す。


「社長」


神崎が見る。


社員は言った。


「新しい情報です」


神崎は立ち上がる。


「どこ」


社員は答えた。


「総務省」


神崎の目が細くなる。


社員は続けた。


「テレビ局の報道方針」


「裏会議の議事録」


真壁が言う。


「どこから」


社員は答えた。


「匿名のリーク」


神崎は少し笑った。


「来たな」


真壁は聞いた。


「罠?」


神崎は言った。


「たぶんな」


真壁は聞く。


「どうする」


神崎は資料を受け取った。


少し読んで。


笑った。


「面白い」


真壁が聞く。


「何が」


神崎は言った。


「脚本家」


真壁は眉を上げる。


神崎は静かに言った。


「ついに」


資料を閉じる。


「名前が出た」


真壁が聞く。


「誰」


神崎は答えなかった。


ただ、ゆっくり言った。


「この国のニュース」


「誰が作ってるか」


窓の外の東京を見る。


「少し分かってきた」


そして。


この瞬間から。


神崎修司の戦いは。


報道と芸能界の戦いではなくなった。


 


それは。


 


物語を作る者。


 


 


その脚本家との戦いだった。

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