老醜「我が子を食らうサトゥルヌス」より~ゴヤ【ローマ神話】
『我が子を食らうサトゥルヌス』Saturno devorando a su hijo
1819-1823年
フランシスコ・デ・ゴヤ Francisco José de Goya y Lucientes
(著作権フリーの画像を掲載しています)
──────────────────────────
口に入れた物の味がしない
生きるための行為だから別にかまわない
邪魔をするな
自分は正しい
繰り返し そう撥ね付けていたら
いつしか雑音が耳に入らなくなり
真っ暗な世界に聞こえてくるのは
己の荒い息遣いだけ
怖くてたまらないんだ
まだ終わりたくないんだよ
手に入れた黄金も手放す気はない
この世の果実を味わい尽くしても
まだ足りぬ
何が悪い?
これは自分そのもの
自分の費やした時間の化身
喰らえ
生き続けるために
浅ましいと嗤えるか?
お前の中にも
同じ狂気は潜んでいる
──────────────────────────
我が子を食らうサトゥルヌス【ローマ神話 ※だけど元ネタはほとんどギリシャ神話】
多くの神話は、まず「この世界がどうやって創られたか」を語り始める。
太古の昔は、ただ「カオス(混沌)」という名の空虚だけが広がっていた。
しかし、やがてその中から「ガイア」が現れる。万物の土台となる、母なる大地の神様だ。
それから、ガイアは自分だけの力で「ウラヌス(天空)」を生み出した。
いきなり単為生殖ですか。さすが神様、なんでもあり。
さらに、この後がすごい。
ガイアは、自分の生んだこのウラヌスと子を成していくのです。
オケアノス、コイオス、クリオス、ヒュペリオン、イアペトス。
そして、この絵に出て来る、末弟の「サトゥルヌス」。
もはや早口言葉。これが、男神で6人。
さらに6人の女神がいます。
テイア、レア、テミス、ムネモシュネ、ポイベ、テテュス。
ああ、もう絶対に覚えられない。
この合計12柱の神々はとても美しく、後に「ティタン神族」と呼ばれました。
ガイアは、この他に異形の子も生み落とします。
単眼の巨人、キュクロープス。
額の中央に大きな目を一つだけ持つ、腕利きの鍛冶職人3兄弟。
ブロンテス (Brontes):「雷鳴」を意味する
ステロペス (Steropes):「稲妻」を意味する
アルゲス (Arges):「輝き」を意味する。
(Geminiで生成した画像です)
100本の腕と50の頭を持つ、ヘカトンケイル。
圧倒的な怪力を誇る3兄弟。
コットス (Cottus):「突く者」を意味する
ブリアレオス (Briareus):「強い者」を意味する
ギュゲス (Gyges):「地の者」を意味する
ティタノマキア(神々の大戦)では、無数の巨岩を投げつけ、ティタン神族を圧倒した。
(こちらもGeminiさん生成画像。100本の腕と50の頭はムリだった~)
しかし、ウラヌスはその醜悪な姿を嫌いました。
そして、彼らをガイアの体内の奥深くへと押し込めてしまったのです。
そんなことできるの?
でも、ガイアさんは「大地」そのものですから。
そこは人間の体内とは訳が違うんですよ。
だが、ガイアは苦しんだ。
我が子を押し込められた物理的な苦痛と、
「てめえ、ふざけんな」という夫への憤りのダブルコンボ。
限界に達したガイアは、夫のウラヌスに対し復讐を企てます。
まず、自分の体内で固い金属を生成した。
神々の力をもってしても決して壊すことのできない、絶対的な硬度を持つ未知の金属。
「アダマント」、通称「神殺しの金属」。
これで、ガイアは巨大な鎌を造り上げます。
三日月のように湾曲した内側には、ずらっと鋭利な刃が並ぶ仕様。
殺傷能力マックス。神の肉体をも切り裂く得物。
ガイアさんの本気がうかがえますね。
(Gemini生成画像です)
「これで父を討つ者はいないか」
子ども達に問いかけるガイア。
自分でウラヌスを殺ったりはしないのです。
目指すのは政権交代。次期の王がやらなくては意味が無い。
「私がやりましょう」
名乗り出たのが、末弟のサトゥルヌスだったのです。
そして、サトゥルヌスは父ウラヌスを待ち伏せして、襲撃。
この鎌で、なんとウラヌスの男根を刈り落としてしまいます。
なんでよりにもよって、そこ?
一応、理由あり。
去勢され生殖能力を失った時点で、王としての資格が無くなる。
つまり問答無用で強制退場。殺すよりは平和的なのかな。
ウラヌスは空の彼方へと退かざるを得なかった。
「サトゥルヌスよ。お前もまた、己の息子によって滅ぼされるだろう」
捨てゼリフなのか。
それとも神の予言なのか。
どちらにせよ、その言葉は新しい王者の胸にぐっさりと突き刺さりました。
そして。もう一人、同じことをサトゥルヌスに告げた者がいる。
他ならぬ、母のガイアだ。
実は、ガイアはサトゥルヌスを見限っていた。
政権を奪取したというのに、サトゥルヌスは幽閉されているキュクロープスやヘカトンケイルを解放しなかったのだ。
「いや、こいつらの戦闘能力、やばくね? 自由にしたら、オレやばくね?」
という怖れがサトゥルヌスにはあったからである。
だからってお母さんは激おこですよ。
約束を果たさない子は、もう知りません。
「あなたもまた、自分の息子によって滅ぼされるでしょう」
二人に言われてしまい、疑心暗鬼に捕らわれたサトゥルヌスは、生まれてくる我が子を食らい続けてしまった。というわけ。絵は、ここのシーン。
『我が子を食らうサトゥルヌス』 Saturno devorando a un hijo
1636年-1638年
ピーテル・パウル・ルーベンス Peter Paul Rubens
(著作権フリーの画像を掲載しています)
──────────────────────────
この後、どうなったか。
結局、サトゥルヌスの妻が反旗を翻します。
産んで、奪われて、食われて。
この無限サイクルだったのですから、いいかげんブチ切れます。
妻のオプスは、最後の子ユピテルを身籠ったとき、ガイアに助けを求めました。
ガイアもまた、息子のサトゥルヌスにブチ切れています。オプスの味方につき、どうしたらよいか助言をしてくれました。
まず、オプスはクレタ島の深い洞窟で密かにユピテルを産み落とします。
そして、彼女は赤ん坊の代わりに、大きな石を布に包んで夫に差し出したのです。
サトゥルヌスは、もはや正気を失った、老いた神に成り果てていた。
包みの中身を検めもせず、ごっくんと丸呑み。
すっかり安堵して、妻オプスを疑うことはありませんでした。
その後、成人したユピテルが父サトゥルヌスを倒す、という筋立て。
まず、ユピテルは「お酌係」として潜入。
知恵の女神メティスから授かった薬を、酒に混ぜ込みます。
これは、パルマコンという催吐薬。
レシピは、塩水とマスタード(からし)を混ぜたもの、だって。普通にまずそう。
薬入りの酒を飲んだサトゥルヌスは、激しく悶えました。
そして、まずあの「石」を吐き出します。
続いて、食われた兄弟たち。
彼らは、なんと成人した姿で次々と吐き出されてきました。
さすが神話。サトゥルヌスの体内という異空間で、生きて成長していたってわけ。
ユピテルは、この兄弟たちを味方に付けます。
それから、サトゥルヌス率いる旧世代の神々「ティタン族」に宣戦布告。
幽閉されていたキュクロープスやヘカトンケイルも、解放します。
この大戦が「ティタノマキア」。
勝利したのは、ユピテル。そして彼の治世が始まるのです。
結局、予言通り、サトゥルヌスも己の息子に滅ぼされたのでした。
──────────────────────────
なんだか、この神話には色んな教訓や暗示が埋め込まれている気がする。
老い。権力への執着。
心理学的には、支配的な親の像とか。
子供の個性を否定し、自分の所有物(胃袋)の中に閉じ込めてしまう、みたいな。
ゴヤは、この「我が子を食らうサトゥルヌス」を、キャンバスではなく自邸の壁に直接描いています。
晩年の孤独な隠居生活。聴力を失い、死を間近に感じながら。
誰に見せるつもりでもない、通称「黒い絵」を、実に14枚も壁に描いたのだそう。
だから、これはゴヤの飾らない本音の世界。
ゆえに、見る者に強烈に訴えかける力を秘めている。
そして神話。
神話は、神のことを語っているけれど、人間が作ったものだ。
だから、そこには偽りのない「人間の本性」が染み込んでいると思う。
たとえば、長い時の中で繰り返されてきた、人間の業とかだ。
あんたは老いたらどうなると思う?
綺麗ごとじゃなくてさ。
権力を持っていたら、自分を守るために振るうんじゃないかい?
自分を超えそうな新しい力は、潰してかかるんじゃないかい?
「こういうもんだよ、人間ってのはね」
神話を読む時、私はこんな呟きが聞こえてくるように思えるのです。
★ ★ ★ ★
名残惜しいですが、今回で【神話編】はお終いです。
最後までお読み頂き、有難うございました。
来週からは、シリーズ第4作目を投稿していきます。
タイトルは、『名画の詩集~ゴッホと心象の風景を描く画家たち~』
ヴィンセント・ファン・ゴッホ、ベックリン、フリードリヒ、ワッツ……。 巨匠たちが遺した「心象風景」を、再び詩と文で紐解きます。
でも、堅苦しいのは抜き。アニメの話や個人的なエピソード、心のままに語っていきますよ~。
これまで通り、毎週土曜お昼12:10投稿予定。
ぜひ引き続きよろしくお願いします!
──────────────────────────
今作でも自分で生成したAIイラストを入れておりますが、まだまだ始めたばかり。
私の苦闘っぷりは、こちらの作品で公開しております。
【小説に挿絵を入れたくてAI画像生成を始めたけど、大苦戦している話】
https://ncode.syosetu.com/n7288li/
AI画像生成をやったことのない方でも、「これなら自分でもできるんじゃね?」と思うこと請け合いです。
他にも、下記のような作品を投稿中です。両作品とも、AIイラストを順次追加中!
・【ダンジョンズA】:小学生男女が活躍する王道ほのぼのファンタジー
https://ncode.syosetu.com/n2217iu/
・【カイコン】:ネコ耳の美女と美少年とおっさんが奮闘する「昭和ファンタジー」
https://ncode.syosetu.com/n5126kt/
短編もあります。
・【AIイラスト満載】物語で楽しむ北欧神話:オーディンとミーミル(隻眼の主神と生首の賢者)~滅びに挑む「最上の負けかた」~
https://ncode.syosetu.com/n3439lo/
どうぞ他作品も覗いて行って下さいね!




