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孤独な糸

作者: 木介
掲載日:2025/09/21

職場の若い女と不倫していた夫に離婚して欲しいと頭を下げられた。

事の発端は夫の行動が怪しくケータイを見てしまった事で発覚というよくある話で、私が驚いたのはその後の夫の言葉だった。

「あの子と結婚したいから別れて欲しい」

簡単には許さないが二度と不倫などしないよう追い詰めてやろうとした矢先の事だ。

夫は私では無く向こうを選び私達を捨てたのだ。

納得など出来ず嫌がらせで離婚しないでやろうかとも考えたが、夫から多額の慰謝料と養育費を貰ったので、今は5歳になる息子の綱希こうきと一緒に二人でアパートの2階に引っ越し新生活を始めている。


引っ越してから一ヶ月が経った頃、環境の変化からか息子に以前のような元気が見られない気がした、息子とコミュニケーションが上手く取れず悩んでいたある日、息子と一緒に見ていたテレビ番組で糸電話が紹介されておりピンときた、これなら遊びがてら息子とコミュニケーションを取れるかも知れないと思い、糸電話を作りこう伝えた。

「何か言いずらい事、お母さんに話したい事があればこれを持ってきて」と最初こそ喜び何かある度に持ってきて糸電話で話そうとしてきていたが、その日の内に飽きてしまい今は部屋のオブジェクトと化している。

そもそも1LDK のこの部屋に必要の無い物だったと再度頭を悩ませる事になってしまったのだが、今思えば作って良かったと思える出来事がある。


ある日の昼下がり、息子が遊んでいたおもちゃを一部片し忘れており私が踏んづけて転び、テーブルに頭をぶつけた事件が起きた、その時今までに無いくらい息子を叱ると息子は押し入れに籠り夕飯時も出てこない、意地を張る息子に苛立ちを覚え、再度怒鳴りつけようかと思った時、ふと部屋の隅に置いてあったオブジェクトが目に入った「そういえば言いずらい事があれば持ってきてとだけ伝えて息子任せにしていたなぁ」と私はそのオブジェクトを手に取り、押し入れの襖を少し空け紙コップを中に入れる。

「聞こえるかな?」と穏やかな口調で話しかける、すると「お母さん」と小さな返事が返ってきた。

「なーに?」と穏やかな口調で話を続けると「ごめんなさい」と返事があった、私は「ご飯にするから出てきなさい」と伝え、恐る恐る出てきた息子を抱き締め、このやろうと頭を撫でるのだった。


それからというもの息子とはよく糸電話で話をしている

「おはよう」

「ご飯は?」

「お片付け終わった」

「お風呂に入った」

「歯も磨いたよ」

「おやすみなさい」

………。



【ピンポーン】【ピンポーン】【ドンドンドン】

「山本さーん、いらっしゃいますか?開けますよー」と言った矢先【ガチャッ】と開いた扉の向こうには大家さんと警察官が立っていた、綱希を見つけた大家さんが声を掛ける。

「綱紀君、しばらく見掛けなかったけど大丈夫?お母さんはいる?」

すると綱希は「お母さんは奥で休んでます」とそう応える。

「すいませーん、山本さん入りますよ」と大家さんが声を掛けて、警察官が「失礼します」と中に入った。

玄関で待っている大家さんは綱希が紙コップを持っているのを見て、「何を飲んでるの?」と優しく声を掛け覗き込む。

すると綱希が持っている紙コップは底に小さな穴が空いているだけ中身は無かった、怪訝な顔で綱希の事を見ると「これでお母さんと繋がれるんだ」と彼は悲しみを帯びた笑顔を見せてきた。

一方で奥には仰向けで亡くなっている母親がおり、その側には糸が切れた紙コップが置いてあった。


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