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第6話「2つの最悪な状況」

「ところで虹色うさぎというのはどれだけ貴重だったりするんですか…?」


「どうなんでしょう…私も噂にしか聞いたことがなく経験値の量までは把握しきれていないんです。ただ噂によると50レベルから100レベルまで上がったとか…そんな話は聞いたことあります」


「50から100……!?」

 西汰は想像の10倍くらいの返答を聞かされ、目を丸くする。


「まぁどこまで行っても所詮噂ですので気楽に探してみましょう」


「そうですね…」

 西汰はそう返事すると再びどこまでも続く回廊に目を向ける。


 ───────────────────────


 同時刻 スパイン王国 ベルーナ 北部 アビナ草原


「あ、あの私の友達はいつ帰って…」


「知るか!自分で考えんかい!」


「で、でも……」


「だから俺が知るかい!!!!」

 リリーの頭に乗っていた、自らをリスと自称するペットは頭から大ジャンプを決め、華麗にリリーの前に着地する。


「あのなぁ…リリーちゃん。俺にも知ってることと知らんことがあるんや。なんでも知ってるおもてあれはこれは言うてたらキリがねえ。ちょっとは自分で考えたらどうや。うん?」


「でもケンジローさん実際何でも知ってるじゃん…」


 どうやらケンジローという名前だったらしいリスは腰に手を当てリリーを見上げる。


「アイテムのことだったり、装備や地図の見かただって全部知ってて…」


「だからリリーちゃんの友達が帰って来ない理由も知ってるってか?そりゃ無理があるってもんだぜ。俺はただこのゲームのことに詳しいってだけで、現実世界のことなんて何一つわからん。トイレでも行ってんじゃねぇのか?」


「夜になるまでトイレ行く子なんていないよ…!」


「だろうな!!」


 

 頭から煙を出し白熱する2人は夜の草原でいがみ合う。

 しかし朝とは全く異なり、冷たい風が2人を落ち着かせる。

 

「ったく…!にしてもこれは迷ったな…とりあえずリリーちゃんの友達が帰ってこないから街を探しに向かったってのに何も無ねぇ…確かこっちに街があった気がすんだがな……」


 リリーが表示できるマップは本人のマップレベルが足りず、細かな街や村は表示されていなかった為、とりあえずは草原で放置されたリリーはケンジローの勘を頼りに人気ひとけのある場所を目指す。


「もうゲーム一旦やめてもいいかな…?夕飯食べなきゃ行けないし明日学校もあるから…」

 リリーはさっき当てた漆黒の杖を抱えながら言う。


「アホか!リリーちゃんが今辞めたら俺はどないすんねん!さっきも言ったはずやで!飼い主が抜ける前に普通はペット専用の家に入れさせるんや!デュアコアはな、飼い主抜けてもペットは普通にゲーム内で活動できるんやで!」

 

「でも……」

 リリーは杖を強く抱き締め弱音を吐く。


「だから……!」

 ケンジローは振り返りリリーの方をむく。

 

 しかし彼は瞬時に動きを止め、目を丸くする。


「リリー!伏せろ!!!!」


「えぇ!!?」


 ガキィィィイン!!!!


 杖を放り捨て、頭を抑えて瞬時にリリーはしゃがむ。

 衝突音は草原に響き渡り、風の音が静寂と共鳴する。


「くっ……!」


 リリーは閉じた目を開き、大きなクルミを掲げ、自分の後ろから伸びる強大な鎌を防ぐケンジローがいることに気づく。


「ケンジローさん…!?」

 リリーは血を流すケンジローにショックを受ける。

 そのまま視界から引いていく鎌を追い、リリーは首を後ろへ向ける。


「なに……」


 そこにはいかにも死神といった見た目をした、大きな鎌、顔の見えない黒のローブを被った何かが立っていた。


 

「ネクロマンサー……や……」


「ネクロ……マンサー…?」

 リリーはもちろん聞いたことない言葉に動揺する。


「この大陸にはいないはずやけどな……なんでおるんや…」


 今まで見せていなかったケンジローの険しい表情に息を飲む。


「ケンジローさん…それよりも血が…」

 ケンジローの額から流れる鮮やかな血は、ゲームとはいえ、かなりリリーには衝撃が強ようでリリーは涙を浮かべる。


「気にすんなや…!とにかくリリー!後ろ向いて走れ!!」


「え…!でも…!!」


「走れ!始めたばかりのお前が戦える相手じゃねぇ!!んでもって街でも村でもいい!着いたら国へ報告だ!!俺のことはいい……!何とかする!」


「でも……!!!」


「後で行く!走れ!!!」

 ケンジローの彼方まで届かんとするその声はリリーの体を無理やり動かす。


 己の杖をしっかりと抱きしめ、そして涙を振り絞りながらリリーは一目散に駆ける。


 不格好な走り方の飼い主を見送ったケンジローは再びネクロマンサーを睨みつける。


「ほな始めようか…」


 ケンジローはクルミを2つ割ると、両手に装備する。

 クルミには赤いエフェクトがかかっており、ケンジローは自身に着いた血を腕で払う。


 ゆっくりと動き出し、前進するネクロマンサーにケンジローは1歩だけ後退りする。


「ひとつ聞いてええか…?」


 その問いには答えず、ネクロマンサーはその歩みをとめない。


「お前、なんでこんな所におるんや…マグナの魔物やろ?お前…」


「ハハッ…そりゃ答えねぇよな…!」

 ケンジローはそう吐き捨て、ネクロマンサーの一撃をかわす。

 後ろに飛んだケンジローは、着地と同時に猛スピードでジャンプし突撃する。


「オラァ!!」


 ガキィィィイン!!


 鎌を振った直後の一瞬の隙をついたその一撃は、ネクロマンサーの体勢をすこし崩すだけにとどまった。


「物理緩和…入ってるなお前……」


 ケンジローは再び距離を取り、相手の様子を伺う。


 (くそ…もう少し時間稼がねぇとな……)


 ケンジローは既に暗闇の彼方へ消えたリリーの方向を見る。


 そして再び視線を敵に向け、クルミをより一層強く握る。


 その瞬間、ネクロマンサーは鎌を地面に突き刺し、両手を天に掲げる。

 そしてなにか詠唱を唱え、微弱に地面が揺れるのをケンジローは感じ取る。


「不味い…!召喚か……!」


ケンジローはフリーになっているネクロマンサー目掛けて突っ込む。


 (召喚されちゃ流石にお終いだ……!その前に……!)


 飛び上がったケンジローはその先にいるネクロマンサーと目が合う。

 今にも吸い込まれそうな鈍く光るその目に、ケンジローは恐怖を覚える。

 

 

 

 グサッ

 


 ネクロマンサーは低く不気味な声で笑う。

 

 そして地面から生えた無数の剣は無慈悲に1匹のリスを串刺しにする。


 (やっち……まった……)


 血の滴る剣をそのまま持ち上げ、地面から無数の骸骨が姿を現す。


 その光景はまるで、小動物を狩るライオンの群れのようであった。


 ───────────────────────


 プレイヤーネーム:リク

 マスターレベル:52

 ジョブ:魔道士


 :装備品

 

 【銀燭ぎんしょくの杖】 


 【上級 レブリアントの髪飾り】

 【下級 白のローブ】

 【上級 真紅の腕輪】

 【上級 シルヴァの青い靴】


 パッシブスキル

 【逆境増幅・F】

 自身のHPが2割を下回る時、防御力が低下する代わりに自身の最大マナの2倍量を瞬時に獲得する。 


 


 彼の魔道士としてのスキル、レベルは平均的であり、デュアコア人口の90%以上を占めるレベル1〜100

 のなかでも一際目立った物があるとは言えない。


 しかし彼には目標があった。

 かつて自身をある一件から救ってくれた、現魔道士戦力ランキングの3位【シュルル・メイエ】が本拠地とする超層大陸へ行き、彼と肩を並べて戦うことである。


 しかし現実は甘くなく、次の大陸マグナへ行くことも叶わずじまいであり、己の弱さを呪ったリクは、他者を蹴落とすことで大陸通過の機会を得ようとした。


 それは洞窟を改造して大会参加者を閉じ込めることで。


 彼が見つけた洞窟の整備を行い始めたのは1ヶ月前である。冒険者ギルドを抜けた彼はフリーの身であり、交友関係もなかったことから誰にも怪しまれずにコツコツと辺境の地の洞窟で作業を行っていた。


 自身のペットを大量の経験値を落とすレアな敵としておびき寄せ、原始的ではあるが落とし穴に落とす。

 そしてデュアコア内では自ら死を選びリスポーンすることが出来ないことを上手く活用し、動ける状態のまま目的の時間まで隔離することが出来る算段である。


 もちろんスキルでの浮遊やアイテムでの転移など使える中級者以上のプレイヤーは対象ではなく、あくまでも初心者等を対象とした、自分がイベントで上位に行くための数減らし的な要因が大きかった。


 今回はトーナメント戦であり、リク自身も効力は期待していなかったが、実際に罠が有効かどうかの確認のために、最初に西汰を選んだのであった。


「はぁ…はぁ…」

 息遣いが荒いリクは額に汗をかく。


 (一体なぜだ……)

 リクは自信が手を加えている洞窟に、このエリアのレベルに合っていないモンスターが湧いていることに違和感を強く感じる。


 整備の際、何度か訪れてはいたリクだったが、その時は杖で叩けば物理的に倒せるようなThe雑魚敵しか湧かなかったのである。


「リクさん…一旦引き返したほうが……」


「いや…もう少し進みましょう……」

 リクは後ろから聞こえてくる弱々しい声にNOを突きつける。


(そこの角を曲がればポイントの地点だ…)

 リクはあらかじめ右角にスタンバイさせてある自身のペットに頼むぞと念を押す。


「うわっ…!びっくりした……ってあれは!!」

 西汰は満点のリアクションで左の通路へ抜けて行く虹色に輝くうさぎを目で追いかける。


 しかしリクは追いかけようとするが、頭を抑えて膝を着く。


「か、体が…」


 もちろん演技であるが、マナを直前まで結構消費してしまい疲労が溜まっていたのは本当である。

 そしてマナ消費を言い訳に西汰に虹色うさぎの後を追わせる。


「任せてください…!」


 そう言うと声を荒げながら西汰は闇へ消えていった。


 (あとはあいつがしっかり先導すれば……大丈夫なはず……。しかしマナを結構消費したな…場所を変えた方がいいか……?)


 リクは重い腰を上げ、西汰が走っていった方向へ向かう。


「うわあああああああ!!!」

 そして向かう先から断末魔が聞こえる。

 

 「いい働きだ、レクト……」

 リクは不敵な笑みを浮かべ膝のホコリを払う。


「さて、様子でも見に─」


 

 

「何がいい働きって?」



 

 その声にリクは素早く反応する。


「誰だ!?」


 自身の声が反響し、静まり返った回廊を見渡す。

 しかし周囲には誰もいない。


 (女の声……?)

 

「こっちだよ」


 再び声が聞こえ、リクは動揺を見せる。

 そして杖を構え、フードを取る。


 壁の松明の音が聞こえるほど耳を研ぎ澄ませ、辺りをゆっくりと見回す。


 その時、後ろからした怪しげな音に瞬時に反応し振り返る。

 人の頭部が地面からゆっくりと姿を現す光景に恐怖を覚えたリクはすぐさま自身の杖で殴る。


「うわぁ!!なんだ…!こいつは……!!」


 しかし、謎のバリアのようなものが相手にダメージを与えていないことを間接的に表す。

 

 そこにあるのは圧倒的な"差"。


 (これはやばい……)

 

 それが姿を現す前に、逃げを選択したリクは背後から何かの攻撃を受け転倒する。


「グッ……足が…」


 自身の切断され、ポリゴン化する足からそのまま回廊に目を向ける。


「なんだ……お前は……!」


 そこにいたのは聖女である。

 しかし全体的に黒、そして顔には大きく紋様が描かれており、下半身が闇と化していた。


「知らないのか……私の事……」


「す、すまんな……知らなくて」


 (会話ができるか……)

 その狂気を感じる姿にリクは1ミリも動けなかった。


「あの……なぁ…見逃してくれないか……?今俺やられると結構まずいんだよ……ハハ…」


 トーナメント戦エントリーまで残りわずかとなった今日、ダンジョンや試合、イベント外の通常フィールドでデスすると、今まで獲得した経験値が半分になるデュアコアのシステム上、リクは今死ぬ訳には行かなかった。


「よく分かんないかな……」


 いかにも興味無さそうに返答すると、敵はゆっくりとリクの方へと歩みを進める。


「そうかよ……!」

 リクはそういう吐くと自らの体に魔法で火をつける。

 残り60%ほどだったHPがみるみる減っていく。


 首を傾げながらも歩みをとめない聖女は、リクがしている行為に疑問を抱いている様子であった。


「30……25……」


「20……!」


 HPバーが20%を切った途端、赤色に変わることを確認したリクはすぐさま魔法を詠唱し、自らの足を修復する。

 そして立ち上がった瞬間、自身に物理、特殊物理、移動速度上昇を魔法で加える。


 (マナは残り半分……早めに決着付けねぇとな……)

 

 そしてリクは大きく息を吸う

  

「レクトォ!!聞こえてるかぁ!!!手ぇ貸せぇ!!」


 リクはそう叫ぶと杖を強く握り締め、敵の行動を伺う。


 (武器らしきものは構えてない…格闘か……?……いや、なんだあれは……)


 敵は手を合わせ、手と被り物の隙間からリクを覗く。そして歩きながら祈りの姿勢をとり、1歩1歩ゆっくりと近づいてくる。


「逃げないの……?」


 リクはゴクリと唾を飲み込む。


「逃がしてくれないだろ……」


「どうだろう…」


 そういいリクはフフッと笑い声を漏らす聖女の足元の闇から無数の真っ白の手が上に伸びてくることに気付く。


 その無数の手はリク目掛けて一斉に方向を変える。


「重力弾!!」

 リクは杖に2重の赤色のリングを宿し、さっき発動したものより強力かつ大きい重力弾を放つ。


 しかし数が多すぎる。


 中央に放った重力弾は2.3本の腕の動きを緩めることに成功するが、避けられた10本以上の腕は再びリクに迫る。


 口を塞がれ体を拘束されたリクは、なんの術もなく杖を床に落とす。


「グッ……クソ……!!」


 そして体を拘束する腕から、聖女の足元の闇と同じような物が出現する。


 (HPが……)


 まるで生気を吸われているかのようにみるみるとリクのHPが減っていく。


 薄れていく意識の中、朦朧とした視界に映る闇の聖女は不敵な笑みでこちらを覗いていた。


「フフフフフフフフ……フフフフフフフ……」 


 (ダメだ……次元が違う……レクト…こっちに来るな……)


 諦めかけたリクは突き当たり左の方から徐々に大きくなる叫び声を聞く。



「…ぅぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!!」


 その声は次第に鮮明になる。

 同時に回廊を勢いよく駆ける足音も大きくなる。


「リクこの野郎ぉぉおお!!!!」


 片手で虹色のうさぎの耳を持ちながら、ニワトリ頭の男が高速でこちらに向かってくる。


「ごめん!!リク!!罠抜けられたあああ!!!」


 レクトは目を✕にしながらあまりのも早い速度に振り回されている。


 そして聖女を横切り、西汰はリクを拘束している腕ごと蹴りを入れる。


 飛び散った白色の無数の腕は黒く溶けてゆく。


「西……汰さん……」

 地面に両手をつき、今にも意識を失ってしまいそうなリクに、レクトは近づく。


「リク…!ごめん……!落とすまでは順調で余裕あったから上から煽ってたら、いきなり変なマスクつけたと思った矢先あいつ急に壁を走り出して……!!」


「って!リクなんでこんな瀕死なの……!」


 レクトはリクの絞められた傷と、残りHPを確認し驚く。


「まぁちょっと色々……あって……」


 リクがそう言うと、レクトは視線を後ろに向ける。


「あいつ……何だ……!」


「逃げろレクト……あいつはここにいちゃいけないレベルの敵だ……早く逃げるんだ……」


 リクは聖女を前に固まったレクトの頭をひねり、元来た道へ向ける。

 しかしレクトは再びリクに顔を向ける。

 

「でも……リクは……」


「俺はいい…近くに置いてるリスポーン地点で待っとけ……」


「でも……頑張ってこの洞窟まで……」

 

 レクトは生気を失ったリクの顔を見ながら涙をうかべる。


 そして聖女は再び歩みを進める。


「あなた……強いね……」


 またも不敵な笑みを浮かべながら聖女は言う。


「……?」

 レクトは分からないと言った表情だ。



「なるほどな、状況はだいたい分かった」


「西…汰…さん…?」

 リクは顔を上げ、鉄の短剣を取り出す西汰を見る。


「相手にとって不足なし……まぁ後できっちり説明してもらう」


 そういい西汰は自身のインベントリを開く。


「それより今、俺はこれを試して見たいんだ……」

 


 ニワトリ頭が取り出したのは銀色に輝く指輪だった。 

 



 

 

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