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第5話「レベル上げ」

朝を迎えた王都には9時を回る頃には既にNPC、プレイヤー達が溢れかえっていた。


  そんな朝の陽射しを浴びながら西汰は王都ミットラスのB級ホテルの一室で目を丸くする。


 「まじか…」


 西汰が凝視するのは己のディスプレイ。

表示されている文言はこうだ。


 『新大陸追加記念!トーナメント戦を制し、マグナ大陸通過チケット獲得のチャンス!』


 そう、不定期で開催される大陸通過チケットを獲得できるイベントが、よりによってカールとその話をした次の日に開催が告知されたのだ。


 「これはついてるな…!」

 西汰は寝起きで力の入らない拳に精一杯力を入れる。

 

 片手でサンドイッチを食べながらイベントの詳細を隅から隅までディスプレイで確認した西汰は、最後の一口を頬張る。


 「ふむ……なるほどなパーティーか…」


 今回開催されるイベントは、新大陸追加の前夜祭イベントの1つであり、先に記されているようにトーナメント戦で勝ち抜いたプレイヤーに大陸通過のチケットが授与される。

 まず上限3人のパーティーを組む。1人でも参加可能であり必ずしも3人でなくてもいい制度を採用。

 3つのトーナメントで争い合い、各トーナメントを勝ち抜いた3チーム、つまり最大9人が通過チケットを獲得することになる。


 尚、参加するにあたってレベル条件があり、50レベルとするらしい。


 「ん……?」

 西汰は嫌な予感を感じ取る。


 「全然足りなくねぇか…!?」


 西汰の現在のレベルは22。

 もちろんこの数値は20年前、デュアコアを離れる際の最終的なレベルであり、昨日復帰したときから1レベも変わっていない。


 「まずい…1レベも変動してないなんて…いくら経験値を気にしなかったとはいえザコ敵は相当狩ったはずだぞ…」


 昔と今では経験値の仕様も変わっているのか?

 西汰はそんなことを思いながら重い腰を上げる。


 「やばいやばい!!!これ…いそがないとじゃなぇか!?」


────────────────────────


―エルゾ下層大陸 スパイン王国 王都ミットラス


 街に出て必要な装備を購入しレベル上げに赴く西汰。

 しかし彼の目にひとつの施設が目に入る。


 「あれは…?」


 数多くの人で賑わうその施設の正体は上の看板を見ればすぐに判明した。


 「前夜祭イベント受付…ってここでするのか?」


 思いのほか近くに受付があったことと人の多さに少し驚く。


 中に入ると多種多様な格好、種族のプレイヤーが交流を交し、受付カウンターの前で列を作るもの、そばに置いてある無数の円卓を囲い談笑するもの様々であった。


 前述の通り前夜祭イベントは大陸通過チケットが賞品であるトーナメント戦以外にも色々なイベントが実施される予定であり、それも相まっての人の多さだろう。


 「へぇ…こんなのもあるのか」


 西汰は横のテーブルに雑に置かれていた『上級装備突破素材ドロップ率3倍!』と書かれたチラシを手に取る。


 「まぁ俺は有り金はたいて中級装備だからな。関係ない関係ない。」


 そして西汰は腕を組み不敵な笑みを浮かべる。


 「まっ…俺には武器があるからな…うんうん…ハハハッ」


 「ちょっといいかな…?」


 「はっ…!はい!」

 西汰は不意をつかれぎこちない返事を返す


 「もしかして最近始めた方でしょうか…?」

 そう言い西汰に接触を図るのは眼鏡をかけた長身の男だった。


 古参アイテムのことを想像して愉悦に浸っていた所に、いきなり声をかけられ、西汰は少し焦りを覚えるが、まぁバレるはずがないかと返事を考える。


 「まぁそんな所です。ちょっと人が賑わっていたので気になって来てみたんですよ」


 「なるほど…すいません自己紹介が遅れましたね。私はリク。ちょうど一ヶ月前にテュアコアを始めましてせっせとレベル上げを頑張ってるところなんですよ。」


 レベル上げ。という単語に少し反応した西汰の表情をリクと名乗る男が一瞬鋭い目つきで覗き込んだのを西汰は気づかなかった。


 「俺は西汰といいます。リクさんと同様最近始めてシステムの複雑さに混乱中。といった毎日ですかね…ハハ…」


 西汰の愛想笑いにリクも合わせて笑う。


 「じゃあレベル上げにも苦労とかされてませんかね…?」


 「まぁちょっと何するにもレベル足りないなぁとは考えてますかね…」


 「なるほどもし良かったら一緒に経験値稼ぎにどうでしょうか…?」


 「経験値稼ぎ…?」

西汰は予想外の誘いに少し動揺するが彼の今の状況には好都合の誘いであった。


 「『カリビア廃村』という場所はご存知ですか?」


 「い、いえ知らないです…」

 もちろん西汰知るはずがない。


 「そこの村にある隠された洞窟。普段は入ることが出来ないのですが、そこには大量の経験値を落とす虹色うさぎというレア敵が出るという噂を仕入れまして…先日私が向かった際に洞窟自体はあったのですが、パーティー編成条件がありまして、1人では挑戦できないようになっていたんですよ…」


 なるほどだから俺をね、と西汰は心の中で納得する。


 (いや…でも何故それを俺に話す…?何か俺じゃ行けないことでもあるのか??)


 「そこで西汰さん。あなたに声をかけたんです。」


 「それは一体…?」


 「簡単です。先に謝っておきますね。気分を悪くさせる気は無いです。それは貴方が初心者だからです。それが潔白で何色にも染ってない貴方に声をかけた理由です。」


 「潔白ですか……」

西汰は何となく理解する。


 「ギルドやクランなどといった団体所属のプレートも無い、となると関わりの薄い人の方が安全なんですよ。こういう話を持ちかけるのは。」


 西汰は納得してしまった。そしてあまりにも都合の良い誘いに西汰はyesと返してしまった。

 

 「まぁ分かりました。それで私はとりあえず何をしたらいいでしょうか?申し訳ないのですが戦力にはなれないと思うのですが…」


 「その点は何も心配さず、そして言葉通り何もしなくても大丈夫です。先程も申し上げた通り、私は洞窟の挑戦権、そして潔白である同行人を望んでいます。幸いエリアレベルがそこまで高くないので私だけでも戦えるという算段になっています。」


 「お話は以上です」


 リクの表情に潜むなにかが先よりも磨きがかかっていたように感じた西汰は、ゴクリと唾を飲み込む。


 ───────────────────────



 その日の夜、西汰はリクに教えて貰ったカリビア廃村へと向かっていた。


 「おーい!こっちでーす!」


 西汰は手を振るリクの姿を視認する。

 昼間出会った時には装備していなかった大きな杖、そして紫色のローブを来ていた。


 (魔法職だったのか)


 「すいません遅れましたかね…!」


 「いやいや…私が早かっただけですので安心してください西汰さん」


 ゲーム版遅れましたか?やり取りを終わらせた後、2人は廃村の奥へと入っていく。


 場所はスパイン王国南。ベルーナ町の西ゲートを出て直線上に進み5kmといった所だろうか。


 こんな場所あったっけ?と口に出して言いたかった西汰だったが始めたばかりの初心者という名目上、しっかり自ら口にテープを巻いた。


 荒れ果てた廃村には様々な物が散乱していた。

 人が立ち退きを強制されたような感じではなく、何か大きな魔法や攻撃によって一撃で燃え尽きた。という表現がしっくりくるこの惨状に西汰は少しゾッとした。


 「ここです」


 歩いて大体10分くらいだろうか。村に隣接する森の入口付近に大きな穴があった。

 特に周囲に変わった物は伺えず、至って普通の洞窟穴がどっしりと2人をのぞき込む。


「意外に普通の洞窟ですね」


「そうですね。エリアのレベルが低いのもありますが最近発見されたばかりの洞窟ですので人工物などはまだ置かれてはいないようですね。」


 西汰はそう返され、周りを再び見渡す。

 辺り一帯は静まり返り、二人の会話だけが静かに響く。


「それでは行きましょう。」


 リクはそう言うと洞窟の入口の前に立ち、手をかざす。

 すると洞窟の入口の前、空中に大きくディスプレイと侵入不可のバリアが表示される。


 『廃村前 ベルト洞窟 』

 『これより先、1人での探索不可』

 『パーティー編成画面から操作してください』


 そうかかれたディスプレイを確認したリクは、自身のディスプレイを開き、なにやら操作を始める。


 西汰は20年前とは全く違う洞窟ディスプレイのクオリティの高さに少し驚く。



 

「お待たせしました。それでは入りましょう。」


 西汰は1分ぐらい待たされた後、自身の装備を確認している最中にリクの言葉に我に返る。


「俺は準備完了です」


 そう西汰は言うとリクは頷き、洞窟へ体を向け、自身の杖を光らせる。


 (魔法職ってこれができるのがいいよなぁ)


 西汰は自分の鉄の剣を見ながら思う。


「それでは行きましょう。」

 リクはそう言うと洞窟へと進んでいく。


 バリアは解けており、リクに続いて西汰も足を動かす。


「西汰さんはメールで送った通りにしてもらえれば大丈夫ですから。あまりに体に力を入れすぎずリラックスしてくださいね。」


 西汰は彼とあの後連絡先を交換したのち、メールにて役割を教えられていた。


 基本的には西汰の役割はサポートである。剣士職が魔法職をサポートする構図はいささか疑問に感じるが、リクと西汰の情報量、レベルには圧倒的に差があるため、西汰も納得していた。


 洞窟、ダンジョンに侵入する際は、普段使用しているインベントリは別の探索用のインベントリが必要となり、容量は少なく設定されているため、西汰は回復ポーションや呼びたい松などの携帯を求められた。


「了解です。」

 西汰はしっかりと街で購入したアイテムをインベントリで確認し答える。



 5分くらい道なりに歩くと、そこには人工的な石でできた扉が現れた。


「ここかな…」

 リクはそう言うと扉に手を当てる。


「西汰さん。ここからは敵が出現します。いわゆるダンジョン構造になっているのでとりあえず下を目指しながら進んでいきます。」


「分かりました…」


 20年振りもあってか少し緊張する西汰。


「まぁ何度も言いますが敵の強さ的には問題ありません。落ち着いて行きましょう。」


 リクはそう言うと右手で押していた扉に左手も加える。


「ズズズズ…」


 思い石像を動く時の音のように、扉は大きな音を立てる。


 中は一方通行の廊下のような構造になっており、両壁には松明が飾られている。


 そして2人はその薄気味悪い回廊を歩いてゆく。


「カラン…カラン」

 3つ目の松明を横目に通過した時、奥から何かが近づいてくる音が聞こえる。


 その音は徐々に大きくなっていくが、それよりも不可解なのは、その音の元凶である"それ"がいる付近の次々と松明が消えるのである。


 "それ"が過ぎ去った壁の松明は少しづつ灯火を取り戻す。


「あれは…!」

 西汰は剣を握り、その身を構える。


「スケルトン……いや…リッチですか…」

 リクは近づいてくる暗闇を凝視しながら言う。


「本来こんなところにはいないはずなんですがね…西汰さん少し下がっててください…!」


 リクは慌てた口調でそう言うと、杖を両手構え、先端を暗闇へと向ける。


「重力弾!」


 リクがそう言うと杖を囲う赤色の3本のリングが出現する。


 (3本…レベル3か…!)

 西汰は変わり果てたデュアコアで、変わらずシステムに少し嬉しくなる。


 いかにも「重力」と言わんばかりの見た目の魔法は暗闇へ向けて飛んでいく。


 8m位先でリッチと接触したその魔法は、ドゥゥンという鈍い音を出し、カラカラと骨が崩れる音が回廊に響き渡る。


 松明の明かりは復活し、そこには山積みとなった無数の骨が姿を現す。


「やはりリッチでしたか…」


西汰は力を抜き、鉄の剣をを鞘へと収める。


「さっきのここにはいないっていうのは…?」

 西汰は屈んでリッチの残骸である骨を触るリクに後ろから質問する。


「私の知っている限り、リッチはこの辺ではリーゼル城の中とその付近にしかいない様なんです。」


「しかし…ここにはいたと…?」


「はい。考えたくはありませんが召喚されたという線が一応あります…西汰さん、慎重に進みましょう……」


 西汰はこくりと頷き、2人はリッチの残骸を後に進んでいった。




 

 

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