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第3話「カール」

ギルド内メンバー総課金額『69億1000万円』


 デュアルコア・オンラインの「警察」と呼ばれるそのギルドは、構成人数39人。超層大陸レデンにあるアベルカイン城に本拠点を構え、その別称の通りいくつもの国家や都市に根を通し、不祥事を働く輩に制裁を加えている。


そんなキルド、デュアコアの警察こと【ディアマント】の4大幹部である「4金」の内の1人、「イヴァラ・トーチ」


 総課金額4億9800万円であり、彼女が仕事をこなす際、多くの現場で白金に輝く甲冑を着用していることから、そして、知る人ぞ知るその美貌から「白金の姫君」と呼ばれていた。


 そんなイヴァラには裏の顔があった。

 

 イヴァラの趣味である「アイテム収集家」としての熱量は、初心者狩りギルドに正体を隠して、新規、そして復帰プレイヤーから目新しい物を強奪する程のものである。


 そんな彼女はたった1人の古参勢に敗北する。


 それもニワトリ頭の


 

 (私の……ダークシダーが……)

 

 イヴァラはニワトリ頭が振るった雑魚剣に弾かれ、黒い砂とかした"元"大剣だったものを横目に、インベントリに大剣「ダークシダー」が表示されていないことに落胆する。


【悪・閃紺のダークシダー】

 デュアルコア・オンラインに存在する、魔人族の生息域である超層大陸の第D区域で採掘できる希少鉱石で活性化可能な、その排出確率、脅威の0.00001パーセントであるシーズンプレミアムガチャから排出されるレア度【悪】を冠した超絶高級武器であり、デュアコア内で唯一の所持者であったイヴァラの代名詞でもあった。


 そんな物を物理的に消され誰がブチ切れないのだ!


 そう、心の中で叫けぶイヴァラだが体が言うことを聞かず、膝をつき正座姿で絶望する。


 そんな彼女が放ったスキル「デッドオブリアリティ」

 彼女が装備している黒甲冑「断罪の鎧」のパッシブスキルであり、発動者の状態異常を検知すると自分以外の周囲50m内を一定期間現実化リアリティスキルする効果がある。

 現実化に伴い、範囲内は限りなく現実のデータに近くなるため、装備品の重量、移動速度などの行動制限が課せられる一方、対象に痛覚が出現するため、現実化スキルはタブーとされている。


 しかし、黒甲冑は動かない。

 

「な、なんか…ごめん…」

 そう目の前のニワトリ頭が言い放ち、再びありえない速度で森の奥へと消えていった。


 なぜそんなに早く動ける!?

 

 普段のイヴァラならそう言っていた事だろう。

 しかし愛剣がこの世を去った現実は、非情に彼女の全ての行動にNOを、突きつける。


 「返せよ…」

 そう言いイヴァラは兜を脱ぎ、涙を拭う。


  


 その時、イヴァラのディスプレイが誰かからの着信をアラームで知らせる。

イヴァラはそれに気づき、急いで自身の白い長髪を鎧へしまい、再び漆黒の兜を被り直す。


 「要件…」

 少々鼻声、かつ不貞腐れたようにイヴァラは問う

 「要件って…言ってるじゃん…」

 今にもグスん、と泣き出してしまうのでは無いかと心配になるそのかすれ声に、相手の女性は分かった分かったとイヴァラをなだめ、話を続ける。


 「あんた覚えてる?今日招集日よ、今どこにいるの?」

 「なにそれ…」

 「…嘘でしょ?あなた今何してるのよ?」

目を丸くする女性にイヴァラは答える。


 「何って……別に」

 

 「あのね…だから…」

 「...いいやイヴァラ、あなた早く来なさい。第4支部、いつもの場所よ」


 「また急に……」

 

 「急ってあのねぇ…まぁいいわ早く来ること」

 そう言うと女性はイヴァラとの通話を一方的に切る。


 イヴァラは【かけ直しますか?】という画面のまましばらく放心状態でいた。


 


「ダークシダー……」

 

そう呟くイヴァラの肩には小鳥がとまっていた。



 ―――――――――――――――――――――――


「やっぱり無い…」


 そう呟く西汰は王都ミットラスの噴水の横のベンチに座りながらディスプレイを操作する。


黒甲冑から爆速で逃げてきた西汰は、とりあえず戦闘で使用したアイテムの効果や入手方法を詳しく調べるために図鑑を開いていた。

 

 デュアコアには全てのアイテムやペット、素材や武器などが記載されているアイテム図鑑がメニューに存在する。入手したことが無い状態では入手方法や詳細は確認できないもののその外観、いわゆるシルエットは確認できるようになっている。


 しかし先程の戦闘で使用したニワトリ頭の装備がどこにもないのである。


 あの戦闘時、ニワトリ頭の入手方法を最初のリリース記念ログインイベントだと思い出した西汰は、ディクショナリーの図鑑番号が若いゾーンに再び目を通す。


 「くそー!疲れたぁ!!」


 小一時間ディスプレイとにらめっこした西汰の眼球は限界を迎えた。


 「なんで無いんだ…?あの速さと身体能力はじゃあ何だったんだよ…」


 ディスプレイを閉じた西汰はしばらくの間、夕方になり赤く染まる街中を眺めていた。

 

 そしてしばらく経ち、西汰は先の戦闘を思い出す。


 「待てよ…あの時あいつの武器を粉々にしたのは何だったんだ…?」


超人的な身体能力と俊敏さを手に入れたのはニワトリ頭だと結論ずけていた西汰だったが、どう考えても強敵であった黒甲冑の大剣をいとも簡単に粉々にしたシーンに疑問を抱く。


 「確かあの時使った剣は特に普通の鉄の剣だったよな…?」


 西汰はインベントリからニワトリ頭を取り出し見つめる。

 

「まさかそれもこいつが…?」


 西汰はなにかに気づいたかの様に素早い動きでニワトリ頭をインベントリへしまう。

 

 そして周りを警戒し、周囲に怪しい者がいないことを確認し、己の拳を強く握る。


 (これは…!!戦えるぞ…!!!)


 

────────────────────────


 ここスパイン王国

酒の名産地として知られ、王都ミットラスでは深夜でも城下町は昼並みに賑わっており、そこらじゅうからお酒の匂いがするほど酒の名産地の名は揺るぎない。


 「ギルドか持ち家か…うーん…」


 デュアコアでは多くのプレイヤーが野宿やログアウトし夜を越すことが多いがデュアコアに生活を置いているプレイヤーは、自身が所属するギルド施設や宿屋、持ち家などで夜を過ごす。


 新大陸に本気で挑むプレイヤー達はログアウトや危険な野宿をせず、まず基盤となる衣食住の為にギルドに所属したりローンを組んで持ち家を購入し、安全なデュアコア生活を送ることに注力している。


 それは西汰も例外ではなく、オンライン掲示板や街中のプレイヤーに聞くことによって新しいデュアコアの多くの情報を得た結果辿り着いた結論である。


 そんなあてもなく街を眺めながら夜の道を闊歩していた西汰は立ち止まる。


 「酒場……?」


 ある程度離れた場所からでもガヤガヤと声が聞こえてくるその酒場に、西汰は無意識に吸い込まれていく。


「妙に騒がしいな…」

 西汰は近づくにつれ声の内容が鮮明になっていく中、酒場の扉を開ける。



 「野郎共ォ!!ついにこの時が来たァ!!俺たちが求めていたものはなんだァ!?!?」

 「新大陸だぁぁあ!!」

 「そうだァ!!負けを恐れるな!!新大陸への挑戦ン!!そしてなんと言っても1兆円!!俺たちの時代が来たんだァァァ!!」

「うおおおおおおおおおお!!!!」

 「来たぞぉぉぉぉお!!!!」


 オドオドとする店員を横に、カウンターに仁王立ちし、そのいかにも切れ味が悪そうな大刀をかざす大男は、総勢30人はいるだろうか、部下達と思われる有象無象を前に大声を荒らげ、部下達も負けずとその男に続き大声で叫ぶ。

 

 その光景に西汰は軽い目眩を起こす。


 しかし、その集団からよろよろと頭を抱えて出てきた男がいた。

 弱ってそうな緑髪の短髪はそのまま呆然と立ち尽くす西汰の肩に手を置く。


「じ…地獄すぎる…」

 「今日の朝からずっとこのテンションなんだ…」


 「だ…大丈夫ですか…」


 何となく事情を理解した西汰は彼の肩を持ち、酒場の外へと移動する。

 店の向かいにある石の階段に緑髪を座らせた西汰は、彼に名前を聞く。

 カールと名乗った男はどうやら冒険者クラン「ガンデイラ」の一員らしく、新大陸が公表された矢先、興奮したクランリーダーと、それにつられたメンバーに巻き込まれたらしい。


 「それは大変ですね…」

 西汰は大学仲間との飲み会を思い出しながら深い共感を示す。


 どうやら酒をまだ飲んでいないらしく、酒場の連中と比べ、カールの表情は沈んでいた。

 

 「勝てるわけない…本当に…みんなは何も分かってない…」

 両手を膝に置き、俯いたままカールは続ける。

「新大陸が発表されてから今じゃ大陸の至る所で騒動が起きてる…俺達だっていつ混乱の影響で拠点が襲われるかなんて分かったことじゃない…」


 「騒動って……」

 西汰はやはりという表情で呟く。


 「騒動は騒動だ。お前も知ってるだろうがあの新大陸発表の影響がデカすぎる。あらゆるギルド、国、団体が既に情報戦に入ってる。要注意人物を集団で先に潰したりその中での裏切りもあるだろう。国の上にたってるプレイヤーがそそのかされて国を売るって話もでてる…」


「そんな新大陸に俺達が挑んだところでかてっこない。負けて所持品0で頑張ってあげたレベル削って再スタートなんて俺はやってられねぇよ」


 「そんなに新大陸ってやばいんですか…?」

西汰は額に手を当てため息をつくカールに質問を投げる。


 「ヤバいってもんじゃない…トップのプレイヤーが直々に動くんだぞ……。こんなインフレしたゲームでそいつらに挑むなんて、言ってしまえば頭がおかしいとしか思えねぇ…」

 

そう言うとカールは額から手を離し、西汰を見て続ける。


「せいぜい俺らは下層大陸でかわいい冒険者生活をおくることに精を出して楽しむだけだよ。威勢だけじゃどうにもならないこともあるんだよ。何億って金があれば、まぁ上層大陸では生きていくことはできるかもな…」


 「その下層……?上層大陸ってなんのことですか……?」

西汰は新たに聞く単語に興味を示す。

 もちろん西汰が昔やっていた頃にあった言葉、コンテンツではないことは西汰自身理解していた。


 「あぁ…?お前なんも知らないのか…。まぁ見た感じ初期の初期って感じの装備だしな。いつのだよそれ」

 

 西汰は笑って誤魔化す。


 「まぁ要は運営の粋な計らいってやつだろうよ。下層、上層、超層、それぞれの大陸に分けることによってそれぞれの大陸が上のプレイヤーに潰されねぇようになってるのさ。」


 「国、ギルド、団体、職業、生活。そういうのには上の大陸にいる奴らは干渉できない。まぁ移動はできるがな……。オマケに戦闘行為だって行える。それじゃあ分ける意味ないって顔だな?実際意味なんてあんまりない。暗黙の了解ってやつだよ。実際そんな事できる、するやつなんて俺らと円の縁もない廃課金者のやつらだしな……」


 「まっ!俺らがどうこう言えたこっちゃないってことだな……!」

 

 カールは西汰の肩を叩き軽く笑う


 「カールさん。新大陸ってどうやって行くんですか?」


 カールは吹き出す


 「おまっ…!人の話聞いてたか!?」


 「だから――」


 「行きたいんですよ!」


 西汰はカールの話を遮る。

その西汰の覚悟を決めた目を見せられたカールは少し驚く。


 「俺がその大陸に行かなくちゃいけないんです」


 「な、なんだよいきなり……。まぁ深くは聞かねぇがあれか…?か、金とかか?」


 「金もあります」

西汰は即答する。

 

 「か、金かぁ……ま、まぁ俺も欲しいな?金……は。」


 「欲しいです。」

西汰の目は更に燃え上がる。


 「まぁ……教えてやってもいいか…?なんか圧倒されたなお前には……若いっていいな…深くは聞かねぇよ」

西汰は清々しく感謝を言うとカールはいいか?と切り出し説明を始める。


 「まず定期的に下層大陸エルゾから上層大陸マグナへの通行チケットが獲得できるイベントが開催される。これはマジの不定期だ。内容も様々だったと記憶している。」


 「だが所詮俺もエルゾの人間でな。マグナから超大陸の行き方は分からねぇんだな…。まぁそんな難しい話じゃないと思うけどな。」


 「なるほど…じゃあまずはそのイベントにしっかり参加することが重要と…!」


 「あまり油断するなよ。下層大陸といっても上のやつらは異次元だ。強えやつは死ぬほど強い。もちろん次の大陸への切符を手にする場だ、上のやつらのちゃちゃも入る。次の大陸に入るやつらが決まるんだ、マグナの情勢が変わる前に介入しときたいのさ。」


 「なるほど……カールさんは参加とかされたことはあったり…?」

 西汰はゴクリと唾を飲み込む


 「ある。ぼろ負けさ。1年前だったか?そん時の内容は単純なトーナメント戦だったな…。1回戦目で敗退だよ。これでもそこそこ強いほうなんだぞ?自信はあったんだけどな……。もう折れて普通にこのゲーム楽しんでるよ。」


 2人は煌めく星が埋め尽くす夜空をしばらく無言で眺めていた。


 「まぁそんなもんかな…まぁ参加すんなら健闘を祈るよ」


 そう言うとカールは立ち上がりズボンの誇りを払う。


 「カールさん!」


 「なんだ?」

 話を締め、酒場へ戻ろうとするカールを西汰は振り返らせる。


 「差し支えなければ…課金額を…」


 


 「ああ……1000万くらいかな」


 

 

西汰はカールが背中を向けて酒場へ向かう姿を目に焼きつける。

 

そして彼が酒場へ入った途端、更に騒がしさに拍車がかかったのを西汰は感じ取る。


 「カールさん…このゲームヤバいですね……」


 


 

 

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