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第2話「黒甲冑」

雑木をかき分け、森の奥へと消えていった赤髪を横目に西汰はゴクリと唾を飲み込む。


 (何だあの甲冑は…背は177cmくらいか…?何より気になるのはあの大剣…。)


 「た、大層な装備でいらっしゃるようで…」


 装備を褒めれば見逃してくれるという甘えが、西汰の脳内を駆け巡る。

 

(ダメだ…勝てる気がしない…。底知れないオーラがヤバすぎる…)

 

逃げるという選択肢が現実味を帯び、弱気になった西汰に黒甲冑は口を開く。


「いつからだ」


 (お褒めの言葉は無視か…ハハッ…)

 

 しかし西汰はその質問の意味をすぐに理解する。

 そして嘘をついても意味が無いことも。

 

(多分…聖福の剣の性能、リチャージ時間は知ってるな…ならばこれはもう…)


 彼が"古参勢"と口にしたことから推測し、先の1周年イベントアイテムである聖福の剣をインベントリへしまい、質問に答える。


 (いや…知らないことに賭けるか……)

 

 「1....10年前…の12周年イベントの時…です」


 しかし西汰は嘘をついた。

 本当は22年前の2027年11月27日のリリースから3日目である。

 西汰は彼と対峙する上で、リリースから1年以内のアイテムの情報を隠すことの優位性を考えたからである。


 「12周年からのプレイヤー…第4世代か」


 (第4…世代…?)

 西汰は知らない用語に少々戸惑う。


 するとその瞬間、深紅の大剣が独りでに中を舞い、西汰を目掛けて切りかかる。

 

 (クソッ!悪手だったか…!だからと言って本当のことを言うのは…!)


 とっさに回避した西汰は覚悟を決め、素早くディスプレイを操作し、インベントリから再び聖福の剣を取り出す。


 (危なかった…そこまで早くなくて助かったが、食らったら即死だった…)


 そして同じ姿勢のまま、黒甲冑は口を開く。


 「もう一度聞く。いつからだ」

 

西汰は再びゴクリと唾を飲み込む。


デュアコアは基本的にPKをすると、PKされた側のレベルに応じた個数を選択し、好きなアイテムを略奪できるシステムである。

特別なアイテムは基本的に選択できないが、ほぼ大抵の物が略奪可能であり、人口が少なかった当時からご法度であった。

 

 数々の思い出や仲間達と共に勝ち取った戦利品には、とうの昔にやめたこのゲームでも、思い出として愛着がある西汰は、何としてでもこの戦いに勝たなければならなかった。


 しばしの沈黙の後、覚悟を決めた西汰は吠える


 「100万年前からだ!かかってこい!!」


 その瞬間、再び深紅の大剣が西汰に向かって飛びかかる。


まるで巨大な壁が押し寄せてくるかのような圧に、西汰は足がすくむ。


 (大丈夫だ…やはり遅い…!)


しかし、西汰はその深紅の大剣から紫色のモヤが出ていることに気づき、大剣の軌道にそってモヤが充満する。

 

西汰の視界はあっという間にモヤで埋まり、焦った西汰は前方を大振りで切り裂く。


 (クソ…!逃げたか…)

 剣を振るったことによりモヤが晴れ、一瞬向こうの木々が見えるが、再び即座に視界は奪われる


 そして西汰はこのモヤの特性に気づく。


 「ゴホッ...…ゴホッ...毒…か…!」

 西汰は自身のHPバーが7割を切るのを横目で確認し、右手で剣を構え、左手で口を塞ぐ。


 (なるほど…何もしなくても俺の負けってことか…)


 (なら…!)


 西汰は勢いよく前方に走り、聴覚に神経を集中させる。


 (どこから来る…!?)


 西汰が走り出した瞬間、甲冑の擦れる音が背後からしたのを西汰は聞き逃さなかった。


 「後ろか!」

西汰は勢いよくターンし、自身の後方に向けて聖福の剣を振りかざす。

 しかし何かを切る感触はなく、さっきまで感じていた気配は消えていた。


 (まさか…!)


 悪い予感を感じた西汰は再び前方を振り向く。

 そこにはモヤをかき分け直進してくる漆黒の大剣があった。


 (回避は間に合わない…)

 

 西汰はコンマ1秒の中であらゆる手段を考慮し、聖福の剣で受け止める判断を下す。


 ガキィィイン!!


 漆黒の大剣を間一髪受け止めた西汰はその勢いに、後退りを強いられる。

 

 ギギギギッ…!!


 激しくひしめき合う2つの剣からは溢れんとばかりに火花が散る。


 (なんて…!パワーだ…!)

 

 22年前戦っていたモンスター、そしてプレイヤー達とは比べ物にならないほどのレベル差を感じる西汰は、再びかつての友人たちを思い浮かべ、より一層剣を握る手に力を入れる。


「クソォォオオ!!!!」


 己の手、そして腕の忍びに限界が訪れ、西汰は聖福の剣が大破する瞬間をその目に入れる。


 激しい金属の分解音が鳴り響き、軌道が少しズレた深紅の大剣は、西汰の横腹をえぐりとる。


 【《完治の祝》発動】


 横腹をえぐり取られたその瞬間、西汰のHPは0になったのを確認するが、再びHPが増えていく。

毒ダメージとHP回復が同時進行で計算されているため、数値の変動がおかしな挙動になっている。


 (またパッシブスキル…?アイテム効果か…?)


 西汰は把握出来ていないアイテムの存在に、この勝負の可能性をほんの僅かに感じる。

 しかし、HPが最大になったと同時にHPは再び先程と比にならない速度で減少していく。


 (くそ…何とか凌げたものの、この毒がキツすぎる…!蓄積によるダメージ量の増加か……)


勿論こんな展開を予想していなかった西汰は毒対策などして来てはおらず、物理的にこの状況を打開するしか無かった。

 

 「まだ…ゴホッ...何かあるはず…」


 インベントリを口を塞ぎながら操作する西汰は、あるひとつのアイテムを見つける―

 

 そのアイテムはデュアルコア・オンライン、正式イベント名称【リリース記念1週間ログインボーナスイベント】6日目のアイテムである。

 

 通称―『鳥神のマスク』


 被り物であるこのアイテムは、あらゆるデバフを一定時間無効化し、俊敏ステータスに現段階の最新Verの最高数値を付与。

 そして、触れたアイテム、武器や装備を『削除』する効果がある。


 登場したその日には、能力を持たなかったが、プレイヤーのインフレ、環境の変化により第1次大型アップデートの時にサイレント修正された歴史を持つ。

 しかしそのマスクは知る人には知られていたが、所持者が極めて稀であり、尚且つ使用された前例が無く、その真価を知る者は未だにデュアコア内では発見されていない。

 

 そんな『鳥神のマスク』の能力を西汰は勿論知るはずもなく、短絡的な考えで反射的に装備する。


 「これならどうだ…!」


 西汰はHPの減少が止まったことを確認する。


 「よしよしよし…!冴えてるぜ俺!」

 (危ねぇ何とか毒には対応した…しかしここからどうするか…!)


 そう、西汰はガスマスク的な効果を期待して被り物を選んだのだ。



 どう考えてもニワトリの頭だが。




 「さぁあ!かかってこい!甲冑野郎!」

 

 HP問題を解決した西汰は、その視界の悪い被り物を左右に振り、気配を探る。そして被っているマスクが「コケッー!!」と鳴いたが気がするがそれは無視する。


 (来るならこい…!)


 西汰はゴクリと唾を飲み込んだ瞬間、先程感じた気配を四方八方から感じ取る。


 (…なっ!)

 

誰が大剣は1本しか無いと言った。と言わんばかりの絶望的状況を瞬時に理解した西汰は、毒煙の中から少し、それもほんの少しの差で早く姿を現した大剣からかわす。


 その瞬間、西汰は圧倒的な俊敏さで2本目の大剣をかわし、尋常ではない速度で5本全ての大剣をかわす。


 西汰の圧倒的な速さにより、毒煙が晴れ、目の前には黒甲冑が再び姿を現す。


 一瞬の出来事を自らが理解出来ていない西汰と、彼が立っている周りの大地が円状にめくれ上がっている事が、その尋常さを物語っていた。


 (い…一体何が…)


 西汰は混乱の中、自身の足元に目をやる。

 西汰の足首には金色に輝くリング状のエフェクトが3層になって表示されていた。


 (俺の…意思で避けたのか…?…今のを…)


 西汰は現状理解の為に脳をフル回転させようとするが、目の前に再び黒甲冑が姿を現したこと、聖福の剣が破壊されたことを思い出し、速やかにインベントリから鉄の剣を取り出す。

 

(気を抜くな...まだ避けただけだ...)


 一瞬の沈黙の後、黒甲冑が先に口を開く。

 

 「避ける……か」

 

 「いや貴様…何だそのマスクは……?」


 答える義務は無い。

 先の瞬発力がこのマスクの能力の恩恵であるという考えに至った西汰は沈黙を選択する。


 (このマスクを知らない…?聖福の剣を知っていながら…?)


 いや、俺もいつゲットしたか覚えてないんだけどね。そう心の中で付け足した西汰は、このマスクをどこで入手したのか記憶を呼び起こす。


 (いや待て…このマスクは確か…!)


 「黙りか」


 西汰が思い出したタイミングで、黒甲冑はそう言いディスプレイでは無く、何も無い空間から禍々しいオーラを放つ大剣をゆっくりと取り出す。

 先の大剣とは似ても似つかないその禍々しさは見るだけで死を想起させる形相である。


 その瞬間、黒甲冑はそのシルエットからは想像できない程の速さで西汰との間合いを詰める。


 しかし西汰はすぐに対応する。


 その禍々しい大剣を大きく振りかざした黒甲冑の背後に一瞬で回り込む。

 まるで相手がスローモーション映像かのように。


 しかし黒甲冑も西汰の速度に追いつき、背後に回った西汰に向かってそのまま体をひねり、大剣を投擲する。


(ついてくるか…!!)


 ガキィィイン!!


 鉄の剣で受け止めた西汰は、目の前で起こった事象に目を丸くした。

 

 何にせよ彼の禍々しい大剣が粉々になったからだ。

 

 デュアコアのシステム上、物理的に破壊された剣や防具、素材等のアイテムはポリゴン化し粉々になる。しかし、インベントリ内には破壊されたアイテムは赤く表示され、修理や再精錬をすれば元通りとなり、例え課金アイテムであったとしても必要な素材を集めれば鍛冶屋で元通りに帰ってくる。


 しかし

 

 目の前の大剣はポリゴンの破片と化さず、まるで現実の砂のように崩れていく。


 「一体さっきから何が…」

 (これもアプデによる仕様……なのか…?)


 目の前の大剣が全て黒色の砂に変わり、西汰は黒甲冑に視線を移す。


ガタンッ


 「何故だ…無い」

 

 黒甲冑は膝をつき、自身のインベントリにあるはずの、いや、表示されるべき物が表示されていない事に気づく。


 (どうしたん……だ…?)


 状況をいまいち把握しきれていない西汰は、さっきまでの高圧的な態度からは想像もできないほど弱々しい細声に困惑する。

 

 するとその瞬間、黒甲冑の足元から円形状に黒いエフェクトが広がっていく。

 そしてその円が足元まで到達した時、西汰は自身が持っていた鉄の剣が、突然重くなったことを感じる。


 「重…!」


 まるで現実世界で剣を持ったような感覚を覚えた西汰は、今までゲームとして遊んできたこの世界、『デュアルコア・オンライン』に五感でリアルを感じとる。


剣、そして装備の傷、木々の揺らめき、そして音。

 その全てに36年間を生き培ってきた直感で「生」を感じた西汰は、微かな声で呟く。


 

 「まさか…な…」

 

 

 


 

 


 


 

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