第1話【古参勢】
暑い夏の8月のこと
「今日午前11時、デュアルコア・オンライン、通称【デュアコア】内の最新情報がが発表されました」
「新バージョンで追加された大陸に最初に到達したプレイヤーには賞金1兆円が贈与されるという噂があり、ゲームでは歴代類を見ない金額の賞金となっております」
お昼のニュースで速報として報道され、キャスト陣の反応は皆揃いも揃って唖然としている。
た。
それはテレビも見ている者も同じだ。
口をポカリと開け、垂れるアイスに一瞥もくれない。
東村 西汰。
病院のベッドで正面にあるテレビを見ている男、西汰は20年前、ある交通事故を境に昏睡状態となった。
しかし20年間の生死をさまよった後、1週間前奇跡的に回復し、動けるようになったのだ。
しかし、軽度の記憶障害を患ってしまい、体も弱っているため回復後はリハビリ期間として1ヶ月間の入院を勧められ、1週間経った今も病院暮しを続けている。
その彼の耳に入った単語『デュアル・コア・オンライン』
リリース3日目にしてログインを始めた古参勢ということなど断片的なことしか覚えていない彼はその単語に反応する。
そして彼は追加された新大陸に"行かなければならない"ことを思い出す。
「新大陸アルカンパニア…」
西汰は奮い立つ
そして覚悟を決め、西汰はベッドから降りる。
「西汰さーん!まだ安静にしててくださいねー!」
「あっ…はい…」
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騒がしい街の音は次第に耳を支配する。
パレードの音、物売りの客呼び声、様々な音がその街の活気を表していた。
西汰は目を開く
《ログイン成功》
プログラム音声が、デュアコアにログインしたことを告げる。
「うおおおおお!久しぶりだァ!!!」
西汰は両手を空に突き出し、約20年振りのデュアコアに感嘆する。
周りの視線が一気に自分に向くのを感じ、咄嗟に西汰は両手を下ろし、咳払いをしてから周りを見渡し状況を察する。
「まずい…オフラインゲームって訳じゃなかった…恥ずい恥ずい…」
西汰は周りに聞こえない程度に恥ずかしがる。
あれから1ヶ月後、大陸追加を含む大型アップデートまで3ヶ月となった今日9月14日。
西汰は近所にあるデュアコア店から肉体データを送信し、デュアコアにログインする。
街には人が溢れかえっており、プレイヤーやNPCが様々な交流を行っていた。
そんな西汰は、空中に表示したパネルからログインボーナスを受け取る。
「操作体系変わりすぎじゃないか?…」
慣れない画面に少し困惑しながらも、11月12日のログインボーナスを何とか受け取る。
【光明星の欠片×2】
「昨日は欠片5個だったのか…なんか損した気分だな」
欠片5個でガチャを回せることを思い出した西汰は、不貞腐れながらも、自分の所持品に光明石の欠片が追加されたことを確認する。
「さて…なにから―」
インベントリを閉じた西汰は街灯に吊るされている【祝!新大陸登場!】の看板を見つける。
「そうだ…俺は新大陸に行くためにここに来たんだ…う〜ん……でもなんでか思い出せねぇ…!なんでだ…!」
西汰は両手で頭を押さえ込みながらもだえる。
「いや、まずそういえばこの街はなんて名前で俺はどこにいるんだ…?」
さっきしまった透明なパネルを空中で操作し再び出現させる。
パネルに表示された地図を慣れない手つきで操作し、どうやらここがスパイン王国の王都ミットラスであることを確認する。
「ふむふむミットラス……」
「知らんな……」
もちろん知らなかった。
「地図はどんくらい広がってるんだ?」
好奇心で確認した西汰は、その当時では考えられない程に広がったマップを、目を輝かやかせながらスクロールする。
「おぉ!?おぉ!デュークの禁書庫エリア!?メルザン山地!?タルコ共和国!?なんだこれはぁぁ!!!」
あまりの情報量に感極まった西汰を、再び周りの視線が冷まさせる。
バリエーションを加えた咳払いに静まり返った周囲は再び活気を取り戻す。
「まぁ!とりあえずアプデまでは3ヶ月ちょっとあるし目新しそうなクエストでも受注して様子でも見るか!」
西汰はマップ上に表示された冒険者ギルドに青いピンを刺した。
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王都ミットラスの冒険者ギルドに到着した西汰は、クエスト受注版を見るやいなや顔色を急変させる。
「おいおい待ってくれよ…!なんで最低受注レベルが150からなんだ…!?」
「お、おかしい…というか、なぜそもそもドラゴンの討伐や魔人族アジトの偵察、ベール海の魔物討伐なんて高難易度のクエストしかないんだ…?」
困惑し焦る西汰には、受付嬢の首を傾げる姿は視界に入らなかった。
「ハハハハハッ!あいつあんな装備でレベルAの受注版みて嘆いてるぞっ!」
「お前はまずレベルDの薬草採取からだろ!」
後ろから聞こえる2人目の発言でさらに周りの笑いに拍車がかかる。
西汰は知らなかったのだ。
17年前のアップデートで冒険者ギルドのクエスト受注の際に、ランク別に掲示板が分かれるようになったことを。
「冒険者様、こちらはレベルAのクエスト受注版となっております…宜しければこちらの受注版もご活用してみてはいかがでしょうか…?」
西汰は顔を真っ赤にし、そして額に汗を流しながら、おどおどと気を使う受付嬢に手で礼を言いながらレベルDのクエスト受注版の前に立つ。
「……って!」
(なんだよそれぇえ!!知らねぇよ!!確かに条件レベルが昔はバラバラになってて、目当てを探すのにみんな苦労してたよ!さすがにみんな困ってるから、そろそろ次くらいのアプデで入るのかなぁ?って期待されてたのに、草原の葉っぱの揺れ方の修正がメインだったアプデが来た時にとっくのとうに諦めてたよ!!)
周囲の笑いが徐々に小さくなる中、西汰はボードに両手をつきながらレベルDのクエストに目を通す。
【カルバン中央通りの清掃】
【メドラス草の採集】
【ゲルゲドスの討伐×3】
「ラインナップは変わってないんかい」
西汰は渋り顔でゲルゲドスの討伐の受注用紙を受付嬢に渡し、建物を後にする。
―王都南西の鎮守の森―
「グアアァ!!」
魔物から溢れ出る血の鮮明さが、このゲームの水準の高さを表していた。
「はぁ…はぁ…残り1体…」
約20年振りにプレイするデュアコアは、戦闘面の機能も変わっており、理解し順応しなければいけない西汰には、ザコ敵であるゲルゲドスは余りにも強敵であった。
「やばい……疲れた…」
血のついた剣を地面に落とし、膝をつく西汰。
完全フルダイブシステムを導入したデュアコアは、他のフルダイブゲームと比べ物にならない程、戦闘がシビアになっていた。
「…まぁ徐々に慣れていけばいいか…それより武器はこれ以外なかったか…?」
西汰は地面に横たわる剣を拾い上げインベントリへしまい、アイテム欄を開く。
「確か1周年配布イベントの―」
西汰が思い出したようにスクロールを始めると、微かに背後の茂みが音を発する。
「誰だ…!」
聞き逃さなかった西汰はすぐさまウィンドウを閉じ、再び血のついた剣を構える。
音は次第に大きくなってゆき、西汰の剣を握る力が最大になった瞬間、音はピタッと止んだ。
西汰は安堵した。
茂みの中から出てきたのは2人の人間だったからだ。
「おおいたいた。やっぱり俺の耳の方が良いんじゃないすか?」
「バカ抜かすな。殺すぞ」
「ひい怖い怖い」
どうやら二人の間には上下関係があるらしく、全体的に黒い革を主軸に装備した長髪の赤髪は、横に立ついかにも下っ端みたいな装備のハゲに割とガチな殺意の目を向ける。
その物騒な会話と立ち姿にどうやら穏やかでは無い人達だと悟った西汰は、再び剣を握る手に力を込める。
「こ、こんにちは…」
西汰はなんの用かと問いたかったが、彼らの会話を聞いた上で、それ以上の言葉は出せなかった。
「どうするよ?こいつの装備全く金にならなそうだが。」
「おい、口の利き方に気をつけろ。まじで殺すぞ」
「うほッ…怖い怖い」
再び赤髪はハゲに殺意の籠った目を向ける。
(今なんて言った…?まさか俺を殺して装備を奪いに来たのか…)
西汰は謎の2人のコントを視界に入れたまま考える。
西汰の知っている昔のデュアコアでは、全員が身内であった為、PKとは無縁であった。そんな西汰の常識は現在世界一のゲームとなったデュアコアには通用しなかった。
(初心者狩りってやつか…20年前の1章5話までの革装備でどこまで太刀打ちできるか…どうする…。)
(いや…待て1周年記念イベントのアイテムがあるか…!)
西汰がデュアコアを辞めたのはリリースからちょうど1年のときであり、彼が交通事故に会う5日前に周年を迎えたデュアコアのイベントで獲得したアイテムがあった。
西汰は考えた末、素早くディスプレイを開き、所有アイテム欄に目を通す。
その瞬間、ハゲの方が西汰に飛びかかる。
すぐさまディスプレイを閉じた西汰は間一髪、左手に持っていた剣で攻撃をかわす。
激しい金属音が響きわたり、西汰の目の前には火花が散る。
「初心者にしては悪くないな」
ハゲは敏捷なステップで後ろに下がり、再び剣を構える。
(22年振りの戦闘…しかも対人経験はあまりにも数が少ない…)
「これは避けれるか!?」
ハゲの足に赤い円柱状のエフェクトが2本かかったことを視認した西汰は、瞬時にそれが無印バフスキル、レベル2の『ブースト』であることを理解する。
(くっ…!早い!)
キィィン!!
しかし、西汰はハゲの剣が宙に舞うのを眺める。
「こいつ…」
ハゲの額には無数の汗がしたっている。
西汰は荒い呼吸で
剣をハゲの喉元に突き立てる。
(危なかった。ブーストのランクが1つでも高かったら俺は今やられていた…。)
「フン…」
「それで…?勝った気か…?」
喉元に片手剣を突き出されたハゲは、余裕顔で西汰を睨む。
西汰は何かに気づいたかのように急いで周りを見渡す。
(そういえばあの赤髪は…!?)
「油断した…!」
西汰は振り向くと同時に、視界の全てが振り下ろされた斧で埋まる。
カキーン!!
斧で人を切る音では無いのは確実だ。
西汰は恐る恐る瞑った目を開ける。
「なんだそれは!?俺の斧が…!」
斧を握っていたはずの手を見て驚く赤髪と、砕け散った斧を横目に西汰は、自身の周りに展開された水色の球体を目にする。
【パッシブスキル発動 レビアの監檻】
(これは…!)
「貴様何を…した…?これは…。」
「気をつけろカルア!一旦下がれ!」
赤髪がハゲに指示を送る。
(これは…リリース1周年記念ログインイベント2日目の配布アイテム…レビアの監檻…)
(使い切りだったけか…?何にせよ助かった…)
少しの沈黙を、赤髪が破る。
「おい貴様…その装備はブラフだったということか…?」
木を背もたれに赤髪は起き上がる。
西汰はすぐには返答せず、状況を推察する。
(なるほど。レビアの監檻を知らないか…ならこれも知らないとみた…!)
「忘れてただけさ…!」
西汰はそう吐き捨てると、ディスプレイから赤の柄、そして白金に輝く短剣を取り出す。
「動くな!2対1ということを忘れたのか!」
(これも知らないか…。焦りが目に見えるぜ…赤髪!)
前方を赤髪、後ろをハゲに挟まれた西汰は、再び1周年ログインイベント配布アイテムである、「聖福の剣」に視点を移す。
(どんな武器でも防具でも24時間に1回、この剣の攻撃が全てその防御値を無効化する…!だったか…?)
その瞬間、バリアが消えたと同時に、後ろにいたハゲが拳を構えて飛びかかる。
「生き急ぐな!カルア!」
(拳…!?)
すぐに反応した西汰はすぐさま振り向くが、剣を振るう途中で、ハゲが背中から何かを取り出す動作に気づく。
(フフフ…剣を降ったな…しまいだお前は…。さっきは謎のバリアで少し驚いたが、どうやら使い切りらしい…あとはカルアが盾で受け止め、俺が後ろからトドメを刺すだけだ。)
「烈炎のた…!!」
ハゲがそう叫ぶと同時に、いや…叫ぶ途中で、西汰の聖福の剣は、ハゲとその赤く燃える盾ごと切り裂く。
(何…!?)
ハゲの体が真っ二つになり、オブジェクト化するのも束の間。
西汰は剣を振るう体をそのまま捻り、視界には赤髪が再び映る。
(そのまま回転斬りだと!?!?)
飛び切りの体勢を元に戻せない赤髪は、刹那の間に死を悟る
(クソッ!このクソガキがァァ!)
ガキィィィイン!!!!
鈍い音が森の中に響き渡る。
それはバリアで剣を弾く音でもなければ、盾で防いだ音でもない。
剣が剣を弾いた時の音だ。
それも特大な剣が。
「ゴホッ...ゴホッ...一体…次はなんだ…?」
砂埃は西汰の視界を奪う。
(何が起きたんだ…?防具に防がれた…?いや…、この感触は防具じゃない…)
砂埃は徐々にはけてゆき、赤髪の前には西汰の身長3倍近くはあるであろう深紅の大剣が大地に突き刺さっており、その奥には漆黒の甲冑を着た謎の人物が立っていた。
「拠点へ戻れ。こいつはデュアコアの…」
赤髪は急いで割れた斧をインベントリへしまう。
「古参勢だ」
1週間に1話投稿を目標に続けていければと思います。
初めてですので改稿多いと思います。
1話あたり5000文字前後に収めようと思います。
感想、応援よろしくお願いします。
7話までできてるのでゆっくり投稿来ていきます




