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贖罪の恋  作者: Zeno
第1章 始まりは、ここから
7/17

07 天女との語らい

 全国の学生が嘆き、嫌がるであろう定期考査を終え、いよいよ夏休みが始まる。

 普段から力を入れ、加えて勉強がそこまで嫌いでは無い芥にとってはなんら問題なく、結果も前回と同様に不動の1位をたたき出している。

 

 一夏もまた、勉学が得意なこともあり、今回は4位である。


(有言実行というか…、しっかりと上げてきたな)


 芥という格上の存在がいることによって、一夏のやる気は上がった、らしいが本当に順位を上げてくるとは思っていなかった。

 一夏のやる気を馬鹿にしているわけではない。ここまでの上位勢ともなると、順位は僅かな点数差で変わってくる。なので、順位が上がっても、それは自分が上手く解けた、もしくは他の誰かがあまり上手くいかなかっただけなことが多い。


 だが、今回の一夏の点数は、明らかに前回よりも上がっている。多少のミスでは開きえない点数差だった。だからこそ、芥は一夏に少し驚いたのだ。


(…まぁ、俺には関係ないか)



 高校に入って初めての夏休み―もとい終業式だったが、中学と大きな変化もなく、芥達は夏休みに入った。

 強いて言うなら、宿題の量と、その内容の濃さだろうか。芥にとっても一夏にとっても、然程問題では無いのだが。


「九鬼」

「はい?」


半日の終業式を終え、昼食を共にしたあと、芥達はソファでのんびりと過ごしていた。

 勿論、宿題は大量にある訳だが、何も終業式の日からやるほど必死になる必要も無い。


「4位、おめでとうさん。正直、本当に順位を上げてくるとは思わなかった」

「またまた全科目満点の1位に言われても、嫌味に聞こえますけどね」

「そりゃ失礼」

「いえ、貴方がそんな人ではないことは分かってますので。素直に受け取っておきます」

「ん、まぁな。俺がどんな順位であろうが、九鬼が努力して順位を上げてきたのは事実なんだからな」

「手加減はしなかったので?」

「お前がするなって言ったんだろ」

「そうですね。ただ、獅堂さんは目立つことが好きではないようなので、流石に今回はしないのかと」

「まぁ、目立ちたくは無いがな。成績は良ければ良い程いいから。…それに、勉強が出来ても、他の―例えば運動が出来る奴みたいに、分かりやすく目立ったり話題にされたりしないだろ?まぁ、そいつがイケメンだったり、明るいヤツならべつなんだろうが、俺みたいな根暗で地味なやつが点数を取ってても誰も話題にはしないさ」


 運動が出来る、顔が良いなどは、直ぐに他人に知られるし、何かと話題にされて目立つ。

 その一方で、勉強が出来ても、他のものに比べれば目立ちにくいのは確かだし、それが世間的に言う陰キャであれば尚更だろう。だからこそ、芥は勉強に関してはあまり手加減していない。

 とは言え、授業内ではあまり発言しないし、提出物も平均的な出来に留めているのだが。


「その言い方からするに、本当は運動も出来るのではなくて?」

「…さぁ、どうだろうな?」


 高校になってから、体育だけでなく、あらゆる運動事には本気を出していない。高校から知り合った九鬼が知る余地はない。

 芥の言うなれば本当のスペック、を知っているのは遥真だけだ。中学時代には、まだ加減していなかった時がある。


「運動と言えば、九鬼は体育も得意だったよな」

「自分で言うのも何ですが、まぁそうですね」

「流石は天女様。文武両道とはこの事か」

「…その呼び名、やめてください」

「なんだ、不満なのか」

「不満、というか勝手に私の評価を持ち上げられるのが嫌なだけです。私は天女でもなんでもないですし、貴方が知っているように、私は優しくない」

「優しくないのは少し違うと思うが…。…まぁ、当の本人が嫌がってるんだから、今後は気をつけるよ」

「そうして貰えると助かります」

「…学校のやつらが今の九鬼を見たらさぞ驚くだろうな。言い方悪くて申し訳ないが、あの可愛げの欠片も感じない」

「悪かったですね」

「怒るなよ。事前に謝っただろ。」

「まぁ、自覚してるので結構です」

「…九鬼って、結構毒舌というか、辛辣だよな」

「同じ場所に住んでるのですから、意見は率直に言うべきかと。勿論、居場所を提供して頂いているのは感謝していますが」

「まぁ、そうだけど」

「それとも、貴方にもあの笑顔や態度で接した方がよろしくて?」

「それは見てるこっちが息が詰まるから御遠慮願いたいね。まぁ、最終的には九鬼がどうしたいかが重要だが」


 素の一夏を知っている今、あの"天女"の振る舞いで接されては違和感しかない。それに、あの一夏を見てるのはこちらとしても苦しいものがある。


「結局は私に委ねるのですね」

「そりゃそうだろ。九鬼がそれを望んでいるなら無理強いしないさ」

「…私も、こちらの方が楽なので安心してください」

「なら良かった」


 学校で見る一夏は、全員に優しくしているが、その一方で誰にも心を開いていないのだろう。理由が違うものの、表情を作っているのは同じなので、見ていればすぐに分かる。

 彼女の、ありとあらゆる表情は嘘で出来ている。割と仲良く接している様に見える女子にでさえ、その表情からは、本当の楽しさや嬉しさを感じない。


「…苦しくないのか、あの振る舞いは」

「まぁ、慣れてますから」

(…慣れてる、か)


苦しいのは苦しいのだろう。

 学生である以上、平日は大半を学校で過ごすことになる。その時間を、常に嘘の表情で過ごし、好きではない他人と接し、時には異性からの呼び出しに答えなくてはいけない。


「…ここには俺しかいないからな。安心して充分にくつろいでくれ」

「既にさせて頂いてますよ」

「俺からしたら、まだどこか、俺に対しても()()()()いる気がするけど。…何度も言うが、俺は気にしないからな」

「………考えておきます」


 何を考えるんだ、と思いつつ、芥は手元のスマホに目を落とす。これ以上は、彼女の触れたくない部分に触れかねない。


(…まぁ、この過ごし方も悪くないな)


 一夏に提案されて呑んだ、新たな過ごし方だが、どうしても不安や拒絶の気持ちは拭えなかった。

 だが、こうして過ごしてみると、案外居心地がいいものである。

 

 ずっと1人で過ごして来た芥にとって、この生活は新鮮であるが、不思議とストレスはなかった。

 これも、一夏が天女と言われるような人格者だからだろう。彼女は否定しているが、一夏が優しいのは事実であるし、お互いに認識が似ているからこそ、下手に気を遣わずにすんでいる。


(…だからこそ、気をつけなくちゃな)

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