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贖罪の恋  作者: Zeno
第1章 始まりは、ここから
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03 奇妙な同棲生活

「荷物はそれで十分なのか?」

 家に着き、空き部屋へと案内した後、芥は一夏に尋ねた。

公園では敢えて触れなかったが、彼女の座っていたベンチの隣にはスーツケースが2つ、並べて置かれていた。彼女の荷物だろうと、ほぼ確信していたが、確証的ではなかったため、触れなかったのだ。


「ええ。丁寧にも、私を追い出す時に荷物は全てまとめてもらいましたから」

「そうか…」


 追い出す割には優しいな、と思いつつも、彼女に、この家について改めて説明する。


「九鬼は、2階のここと隣の部屋を自由に使ってもらって構わない。俺は全く使ってないのでな。 普段から掃除はしていたから汚れとかなら大丈夫なはずだ。風呂は自由な時間に入ればいい。ただ、入る時は一言かけてくれ。不要な問題は起こしたくないからな。洗濯も自分の好きなタイミングでしてくれて構わない。俺のものと一緒に洗うのは嫌だろ?」

「それは…まぁ…」

「気にするな。それが普通だ。…で、飯に関してだが―」


元々は、2人でそれぞれ分けるつもりで提案したのだが、一夏としては家事ぐらいはする、との事だったため、芥としてどうするべきか悩んでいることである。


「私が作ります。食材などは使わせてもらいますが…」

「そんなこと、いちいち気にしない。俺としてはありがたい話だ。…ただ、毎日作らせるのも俺としては気が引ける。他の家事―といっても掃除ぐらいだが、それは毎日やる訳では無いし、九鬼の好きなタイミングでやってくれれば良いが、料理は毎日作らなくちゃいけない。だから、交代でやろうと思んだが、いいか?」

「私が毎日作ればいいのでは…」

「だから、それだと俺が気になるんだ。お前は俺に申し訳なく感じるから家事はやると言ったんだろ。それと同じこと」

「………」


暫く考え込む、と言うよりも判断に悩む一夏。ここまでしてもらっておきながら更に優しくしてもらうのは申し訳ないと思う気持ちが大きいのだろう。ただ、この提案は芥が一夏を思ってのことであり、それを否定するのは些か憚られる。


「分かりました。私としては、少し納得いかないのですが貴方の厚意を無下にもできません」

「気にしすぎだ。…んで、そうなるとある程度のルールも決めなきゃいけない」

「と言いますと?」

「俺にもお前にも、予定はあるだろう。夜遅くなる時や、朝早くに出なくちゃ行けない時とかな。そういう予定があるってのがわかってる時は、お互いに前日までに伝える。―それと、作ってもらったのなら完食する。もちろん、無理にとは言わないがな。適当だが、こんなもんか?」

「あの……」

「ん」

「…食費は、その、どうすれば……」

「それは俺が出す」


はっきりと言った芥に、困惑と驚きの表情を浮かべる一夏。即答されるとは思っていなかったのだろう。勿論、それだけでは無いことは、この少ないやり取りでも何となく分かる。


「…あのな、ここまでで何回か言ってるが、これは結局俺の自己満足だ。あの時、九鬼を放っておかなかった俺の責任であって、本来、九鬼には一切の責任はないんだ。それでも、相手に遠慮する気持ちは俺もわからなくは無い。だからこそ無理強いするつもりは無いし、お前にはあくまで普通に暮らして貰いたいからこそ、申し訳なさを改善するためにも家事はしてもらう。…だが、金銭に関しては流石に出させる訳にもいかないだろ。俺には多額の貯金があるし、親戚からの仕送りもある。問題ないから、気にするな」

「でも……」

「お前はアルバイトしてないんだろ?持ってる金は自分のことに使え。こんな迷惑男に気にかけるために使うんじゃなくてな」

「め、迷惑だなんてそんな…」

「なら素直に受け取っておけ。言っておくが、将来恩を返そう―なんてこともしなくていいからな?」


言おうとしてた事が読まれたためか、またもや一夏の動きが固まる。だが、今度は割とすぐに平常を取り戻した。そして、微かな笑みを浮かべた。

 それは、嘘の表情では無い。芥だからこそわかったことだった。


「獅堂さん」

「ん…?」

「ありがとうございます」

「感謝は要らない―って言ってもお前は聞かないだろうからな。素直に受け取っておくよ」


 

 そうして、芥と一夏の、なんとも言えない奇妙な同棲生活が始まった。

とはいえ、家事や食事、他者の家という環境での相談以外では会話もしない。芥が最初に言った通り、最低限の干渉以外はしないし、一夏自信、望んでいないだろうと思っている。

 普段から自室に篭って生活している彼にとっては、部屋の外から別人の生活音が聞こえて、2日に一度、他人の料理が食べられること以外大した変化もない。それが大変化だと言われれば、そうなのだが。

自分から提案しておいて言えることではないが、やはり他者とのコミニュケーションは苦手であるし、好き好んでしようとも思わない。だが、だからこそ提案できたことでもあるし、芥には、この状況に何一つ不満は無い。寧ろ(苦手である訳では無いが)好きではない家事をやってもらえるのだから、芥にとっても得であった。

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