23 夢を見る日
この時期になると、芥は調子が狂う。体調や日々の週間が原因ではなく、この時期故の原因がある。勿論、誰かのせいでもない。
朝目覚めた瞬間から、それは現れている。体には不快な冷や汗が伝っており、睡眠を取ったにも関わらず疲労感が残っている。
「…っ」
顔を手で押え、自身を落ち着ける。
「変わらないな、俺は…」
その日は朝からずっと、不快な塊が体の中で燻っていた。だが、これを消す事も紛らわす事も出来ないことは、今までの経験から分からされている。
この日は、何をしても無駄だ。どれだけ気を紛らわそうとしても、それが消えることはなく芥を締め付けている。
「おはようさん」
自分の机でHRが始まるまで待機していた芥に、遥真が声を掛ける。
「ん…」
「ん?どうした―ってああ、そういえばもうすぐか」
「まぁな。毎年のことだから気にすんな」
「そういう訳にもいかないだろ。まぁ、かと言って俺が何が出来るって訳じゃないけど。…なんかあったら連絡しろよ」
「ああ。ま、何もないとは思うが」
「だと良いけど」
事情を知っている遥真からしたら、そう簡単に済ませられることでは無いが当事者である芥がそう言えばそれ以上は何も出来ることはない。芥としては余計な世話や迷惑をかけたくはないというのが本音だが、それを遥真も理解しているからこそ素直に退いてくれる。
1日の日課、その最中でも、その塊は芥の背中を這うように意識から外れることはなかった。消したくても消えないその不快感は、何かと芥を鈍らせる。
「…どうかしましたか?」
「ん、いや…なんでもない」
「……毎度のことですが、とてもそうには見えませんが。―と言っても、今日は特に様子がおかしいです。いつもに増して上の空と言うか」
リビングで過ごしていた芥と一夏。当然だが、他人をよく見ている一夏は芥の異変に気付いていた。
「…まぁ、それは否定しないが。実際何でもないから、気にすんな」
「そういう訳にもいきませんよ。原因がなんであれ、目の前で何かに悩む、しかもそれが恩のある人ともなれば放っておくことは流石に出来ません」
「……とは言ってもな。これに関してはどうしようもないというか、俺自身の問題だからな」
「…過去の事でも?」
「そんなところだ」
そう言って垂れ流しにしていたテレビに視線を戻す芥。他人である一夏に伝える必要などないし、それは彼女にとっても迷惑な話だ。あのような胸糞悪い話を聞かせる訳にもいかない。
だが、一夏は心配や不安な視線を向け続けてくる。暫くは無視していたが、こうも長い時間向けられていると流石に気になってくる。
「………この時期になると、俺は夢を見る」
「…夢、ですか?」
「過去にあった出来事が、鮮明に夢に出てくる。それのせいだろうな、俺の中はぐちゃぐちゃだ。感情の起伏が人より弱い俺だが、かと言って全く感情が変化しないわけじゃないからな。だから、この時期になると俺は調子が狂う。焦燥感とでも言うべきかな、そんなものがずっと朝から渦巻いてる。そんなことになれば誰だって、普段通りって訳にもいかないたまろ。……それだけさ」
「……そう、ですか―」




