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贖罪の恋  作者: Zeno
第1章 始まりは、ここから
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01 嚆矢

朝6時。タイマーをセットした時計が、規則的に音を鳴らす。


「…時間か」


布団から手を伸ばし、タイマーを止める。

朦朧としているものの、そのまま布団から身を出し、制服へと着替える。


着替えが終われば、朝食だ。カウンターに置いてある食パンの袋から、1斤を取り出す。マーガリンを塗り、冷蔵庫から保存しておいたベーコンを1枚乗っけ、トースターに入れる。

その間に、棚から2つ皿を取り出し、1つに、切り刻んだ野菜を盛る。


「今日は…暑くなりそうだな」


テレビを付け、天気予報を見ながらそうつぶやく。一昔前であれば梅雨の季節である今日も、今ではすっかり猛暑日である。


出来た朝食を食べ、その他の家事をこなす。その後、わざと長めにしている髪で目元を少し覆うようにセットし、家を出る。

学校まではそう遠くないが、家事をするとなると、あまり遅くに起きては間に合わない可能性がある。とはいえ、6時は早すぎるのだが、既にそれが当たり前となっている芥は、眠たそうな様子もなく、ただ通学路を歩いていた。



「…まぁ、誰もいないよな」

自身の教室の扉を開けるが、誰もいない。当然だろう。まだHRまで1時間半もある。そんなに早く学校に来るのは、部活の練習や、芥のような変わり者以外いないだろう。


獅堂芥は、いわゆる完璧人間である。成績優秀、スポーツ万能。顔立ちもよく、性格にも問題ない。自慢をするようなことも無く、騒がしい訳でもない。


だがクラスメイトは、成績優秀ということ以外、知らない。

顔は、男子にしては長めの前髪で隠れ気味であり、体育などでは目立たぬように、平均的な成果を出している。

彼自身、根暗なこともあり、モテる条件を全て持っている芥だが、告白などの経験は1度もない。それどころか、友達すらまともに居ない。


「予習するか」


早く学校に来るのは、ただの習慣であって、何か目的がある訳では無い。故にほぼ毎日、芥は時間を持て余している。芥自身、勉強は嫌いでは無いので、こうして予習などをしているわけであるが、傍から見れば、ただの"陰キャ"である。



「相変わらず早いこった」

暫くして、教室に人が来はじめる。その中に、彼の数少ない友人-衛藤遥真(えとう ようま)がいた。


「お前みたいに、ギリギリに来て遅刻するよりマシさ」

「失礼なやつだな。今日は余裕を持って来てるだろ」

「どうせ、たまたま目が覚めて、寝ようとしても眠れないから来ただけだろ」

「う…。…お前、鋭すぎるだろ」

「いつもに比べて妙に目が冴えてる。少し考えれば分かりそうな事だ。…それに、お前の性格もよく理解してる」

「流石にそこまで来ると怖いんだが…、まぁ、俺の事を理解してくれてるのは嬉しいこった」

「そういうお前だって、俺のことは詳しく知ってるだろ」

「ん…、まぁな」


一瞬、暗い表情をする遥真。芥の境遇を知っているからこそ、素直には喜べない。

遥真は芥の、中学からの友人だ。故に、彼のことは他のクラスメイトの誰よりも知っている。


暫く遥真と喋っていた芥だが、ふと教室の中心に視線を向ける。

芥と遥真の席は窓際で、1番後ろが芥、その前が遥真だ。


「どうした芥…って、ああ、あれか」

「…相変らずの人気だな、九鬼は」


九鬼一夏、この学校一の美少女と称される、大人気の生徒だ。幸か不幸か、芥はその一夏と同じクラスである。他の生徒からしたら喉から手が出るほど欲しいのだろうが、生憎、芥はそういった事に興味が無い。


「ほんっと、芥はそこら辺淡白だよなぁ」

「俺からしたら、アイツらが濃すぎるだけだがな。ああいう、圧倒的な美人ていうのは、鑑賞するだけで良い」

「お前の場合、その鑑賞すら興味無いだろうに…。それに隠してるけど、お前も相当だぞ?」

「お世辞が上手なことで」

「世辞じゃねぇよ」

「…にしても、九鬼も大変だろうな。作る気はないって言ってるのに未だに告白の呼び出しが絶えないとか」

「そんなもんだろ。それに、あの表情を見たら、誰だって魅了されるさ」

「あの表情…ね」


確かに九鬼は、誰にでも穏やかな表情で接し、時折見せる笑顔は、破壊力抜群だろう。

だが、芥は気付いている。


(あいつも、同類なんだろうな)


そんなことを考えながら、入ってきた担任のHRを受け、1日を過ごした。

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