第16章:努力と他者の経験
生命エネルギーのバリアを展開したが、男はただ触れただけでそれを一瞬で破壊した。彼は生命エネルギーを一点に集中させ、その衝撃でバリアを粉砕したのだ。男はすぐに距離を詰め、私は刀でその刃を受け止めようとしたが、それでも彼は一歩も引かなかった。理屈で考え、私は後方に跳び、壁を蹴って男の足の下をすり抜けた。振り向いた瞬間、再び横に跳ばなければならなかった。こいつ、速い……しかも私の刀を無視して通り抜けてくるなんて。
「本能がない割には、いい動きをするな」男は苛立ち気味に言った。
「そっちこそ。生命エネルギーが少ないくせに、動きも速いしね」
――結局のところ、限られたリソースを最大限に活かす方法を知っているらしい。こいつ、死ぬほど訓練してきたんだろう。私は?マリーともう一人の術師の経験しか持っていない。でも、だからこそ分かる。勝てないって。
「―――ああああっ!!!」叫びとともに純粋な生命エネルギーを放出し、部屋の中で小さな爆発を起こした。
窓を突き破って飛び出すと、男もすぐ後を追ってきた。私たちは同時に地面へと落ち、私は爆発の衝撃で走り出した車の上に着地した。ケンジは道路に落ち、バスに轢かれかけたが、ギリギリで飛び退き、バスの屋根に飛び乗った。そのまま走る車へと飛び移り、銃を構えた。
「……この男、正気じゃない!」
再び生命エネルギーのバリアを張り、弾丸を弾く。窓越しに叫ぶ。
「死にたくなければスピード上げなさい!」
「!!」運転手が何か叫んだが、銃弾が窓を貫いた瞬間、アクセルを踏み込んだ。
私は生命エネルギーの刃を数本呼び出し、ケンジの方向へ撃った。だが、軌道は大きく外れた。車は加速を続け、彼との距離が広がっていく。ケンジはそれでも狙いを外さず、車から車へと飛び移りながら迫ってきた。
タイヤの悲鳴、そして衝突音。ケンジはコントロールを失い、住宅街の壁に激突した。私はすぐに飛び降り、バリアで衝撃を和らげる。車の男は重傷だった。私は走り寄り、ドアを蹴破って彼を引きずり出し、生命エネルギーで止血した。
「Stand up, go…」
そう言うと、男は小さく頷き、よろめきながらも走り去った。私はため息をつき、背後を見た。そこには再び、銃を構えたケンジがいた。
「そんなことで俺の考えは変わらないぞ」
私は何も言わなかった。だが、今の男――私の命令一つで自分を犠牲にした彼に借りを作った。その借りは必ず返す。私を殺そうとした相手には、同じく報いを与える。
私たちの周囲では、何人もの人間がスマホで撮影していた。だが突然、奇妙な感覚に包まれた。瞬きした次の瞬間には、通りの人々は全員消えていた。残ったのは車と建物だけ。まるで世界が隔絶されたようだった。
――結界か。あいつ、街中に封印式の護符を仕込んでいたのか。
戦いは、もう避けられない。
ため息をつき、私は街灯を二度斬りつけ、金属の軸を武器として握った。横に切り払って先端を尖らせる。マリーの得意武器は槍――ならば、これで十分だ。生命エネルギーを宿し、刀を消して街灯の槍を構える。
ケンジは静かに息を吐き、短い刃――脇差ほどの刀を抜いた。投げる気はないようだ。左手の掌に生命エネルギーを集中させる。
次の瞬間、彼は私に向けてではなく、足元の地面に向けて一発撃った。
弾丸が着弾すると同時に閃光が走り、視界が白く染まった――たった2秒の間に、ケンジは一直線に距離を詰める。私の槍を押し上げ、滑るように地面を抜けてくる。足に鋭い痛みが走った。あと少しで切り落とされていたかもしれない。金属の落ちる音が響き、私は跳び上がって再び武器を構え直した。
「いつまで他人の武器で戦うつもりだ?マリーの槍、チューチンの戦術……記憶はお前のものじゃない。ただの鎖だ」
ケンジはそう言いながら、もう一枚の短剣を投げた。狙いは――私の影。私はすぐに身を翻したが、転んでしまった。
「ちっ……」素早く立ち上がり、距離を取る。「どうしてそれを……ああ、そうか、あの飲み物のせいか。だからそんなに自信満々なんだな」
状況は完全に不利だ。私は生命エネルギーの短剣を数本放つ。だがケンジはまるで動きを読んでいるように避ける。
「――あああっ!」叫び、地面に生命エネルギーを叩きつけた。爆発が起き、煙と瓦礫が舞う。煙幕の中に向けてさらに短剣を撃ったが、何も爆ぜなかった。
――ケンジが私のエネルギーを打ち消した!?
彼はすぐに接近し、蹴りを放った。私は腕で受け、衝撃を殺す。
なるほど、低周波の生命エネルギーを周囲に放って……音波のように感覚を探っているのか。まるで地上ソナー。これなら私の動きも読めるわけだ。
「天心境界」
その言葉とともに、空間全体が震えた。刃を放とうとしても、生命エネルギーは霧のように消える。腕も痺れてきた。
「お前の力は借り物だ。その本質はまだ自分のものじゃない。それが、お前の弱点だ」
「ふっ……じゃあ、どうする?」
生命エネルギーを魔力に変換しようとしたが、すぐに消えた。あの忌々しい飲み物の影響か。
私は下を向き、呟いた。
「借り物の力ね……」
腕を握り、槍を構え直す。視線を上げ、恐れを捨てて笑う。
彼が引き金を引くのと同時に、私は横へ跳び、生命エネルギーを手に集中させた。
飛んできた弾丸を指先で掴み、そのまま軸を回転――十倍の生命エネルギーを込めて撃ち返した。
不安定なエネルギーを帯びた弾丸は、ケンジの目の前で大爆発を起こした。
衝撃波は確かに彼を捉えたように見えた。だがその直前、ケンジは左の踵を後ろに滑らせ、両方の刃を地面に叩きつけていた。彼は生命エネルギーを皮膚全体に拡散させ、衝撃を大きく軽減したのだ。それでも吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。鈍い音が響いた。
「ははは……」
私は笑った。息はある。だが肩口から血が滲み、壁には赤い染みがついた。それでもケンジは生命エネルギーを流して出血を止め、足を引きずりながら立ち上がる。
「弾を返されたのは初めてだ……理屈ではありえないな」
彼がそう呟いた瞬間、私は動いた。即席の槍を構え、生命エネルギーが唸りを上げる。空気を裂くような鋭い音とともに突きを放つ。真正面からの突撃。ケンジはギリギリで刃を交差させ、右側へ弾いた。金属が彼の前腕をかすめ、血が散る。しかし彼の表情は乱れない。
私は軸を回転させ、二撃目を腹部へ。ケンジは直前で身を低くし、左の刃を路面に突き刺して、回し蹴りで私の足首を狙った。体勢が崩れるが、後方に宙返りしながら槍を引き戻し、胸元を狙って構える。
だが――やつの方が早かった。瞬時に距離を詰め、刃の柄で私の胸を強打。息が詰まる。反撃に槍を突き立てようとしたが、ケンジは体をずらし、肩から体当たりしてきた。私たちは同時に地面に倒れ込む。
転がりながら立ち上がり、槍を失ったまま蹴りを放つ。ケンジは腕で受け止め、反撃の拳を腹に叩き込んできた。胃の奥から唾が飛ぶ。彼が刃を首に突き立てようとした瞬間、私はその首筋を掌で叩いた。ケンジの体がぐらつき、刺突が逸れる。痛みに顔を歪めながら後退する。ケンジの眉から血が流れ、私の唇も切れていた。
再びぶつかり合い、私は生命エネルギーの刀を生成してその刃を受け止めた。どうやら彼ももう、これ以上エネルギーを無駄にはできないようだ。私は跳び上がって首元を狙おうとするが、ケンジは素早く私の太腿を掴み、横へと投げ飛ばした。
「……っ」
息が荒い。体中が汗で濡れている。ケンジも同じだ。
「……」
――なんだ、その顔。まさか……そうか、生命エネルギーが残りわずかなんだ。
「はあっ!」
叫びながら刀を振り下ろす。だが鈍い音とともに、刃が何かに弾かれた。
「……」
何も言わず、私は背を向けて走り出した。ケンジはもう戦えない。だが、もしあの結界を破ろうとすれば、彼は再び息を整え、私は体力を失う。逃げる方が賢明だ。
「……」
ケンジは歯を食いしばり、悔しさを隠せなかった。彼が命を削ってまで鍛えた力――その少なすぎる生命エネルギーこそが、彼を裏切ったのだ。確かに彼は熟練の戦士だ。だが、だからこそ正式な術師として認められなかったのだろう。
彼は死ぬかもしれない。どれほど優勢に見えても、最後の瞬間にエネルギー切れで終わる。
「必ず見つけ出して殺す……お前は俺のブラックリストに入ったぞ、化け物が」
ケンジは顔を歪め、拳を握る。
「ふふ……」
私は笑いながらその場を去った。分かっているはずだ、ケンジ。殺せなかったのなら――次は、私が行く番だ。
今は考えている場合じゃない。逃げるんだ。
隔離結界を抜けた瞬間、街の喧騒が戻ってきた。人々の声、車の音。私は路地裏に身を隠し、人目を避けて走り続けた。夕暮れが終わり、夜が落ちるころには、街の外れにたどり着いていた。
地面に倒れ込み、拳で地面を叩く。
「……くそっ」
私は息を荒げながら呟いた。
――私は、ずっと逃げ続ける運命なのか。
……セバスチャン。お前が私の力を封じた報いは、必ず受けてもらう。
殺してやる。呪って、何百、何千回でも殺してやる。
「もう誰も信じない……」
私は静かに呟いた。
「もう、許しも、絆も、友情もいらない。人間の感情は、ただ判断を鈍らせるだけだ」
――今なら分かる。
私が悪魔の本性を封じていた頃、なぜ感情まで封印されていたのかを。




