表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/16

第11章: 狩人たちの裏にあるアリバイ


「大きくなったらお医者さんになりたい。そうすれば人を助けて、みんなを元気にできるから」

「そうだな、花ちゃん。きっと一番いい看護師になれるよ…」

「医者って言ったの!看護師じゃない!」

「はいはい、じゃあ一番の女医さんだね…」― 母はとても優しくて、可愛くて、綺麗な人だった。

「えへへ…」― 一方で、私はただの夢見る子供。けれど、夢を語るたびに母は少しだけ悲しそうな顔をしていた。

「どうしたの?」

「なんでもないよ。お父さんが帰ってくるから、一緒にお昼ご飯を作ろうね…」

「うん!パパに一番おいしいご飯作ってあげる!」


私たちはごく普通の生活を送っていた。母はいつも「絶対にあの小道を渡ってはいけない」と厳しく言っていた。誰もその道に近づかないのが不思議だった。


「いつまでこんな生活が続けられるのか…外には出られないし、土地も痩せ始めている…」

両親の会話をこっそり聞いた。二人はいつも小道と作物のことを心配していた。


やがて私は気づいた。私たちは閉じ込められている。何かから。けれど、それが何かは分からなかった。


「子供が小道に入ったぞ!」

ある日、友達の春が小道に入ってしまった。その瞬間、なぜ誰も近づかないのかを知った。


恐ろしい化け物たちがどこからともなく現れた。醜悪で、咆哮が響き渡った。母は私をクローゼットに押し込み、水の入ったボトルを渡した。


「その咆哮が止んだら小道を渡って、できるだけ速く走るのよ。忍野に着けば安全だから、いいわね?」

私は何が起きているのか分からないまま、ただうなずいた。けれど化け物の声は消えなかった。その後のことは…もう歴史の一部だ。悪魔が私を見つけ、悪魔に変えられた。死ぬ前に。でも私は消えなかった。感情は消えたはずなのに、私は私のままだった。もっとも…夢だと思い込んで大惨事を起こしかけたけれど。


***


「……」― ここはどこ?そうだ、思い出した。私は戦っていた。いや、虐殺されていた。異世界の少年、セバスチャンに。

「…!うっ…!」― 突然、殺された魔女の姿が頭に浮かんだ。生温かい血の臭いが鼻をつく。吐き気を抑えきれず嘔吐した。それは血の臭いだけではなく、私のオーラで人が死んだ記憶のせいでもあった。


「クララ!モップを持ってこい、悪魔の子が吐いたぞ!」

セバスチャンの声がどこかから聞こえた。


「……」― ここは…ああ、この檻か。あの少年に閉じ込められた檻。でも今の私は…悪魔の子じゃない。魂を喰らう衝動もない。ただの私だ。


顔を上げて周囲を見渡す。どうやら倉庫か車庫のような場所。暗くてよく見えないが、この檻が私の悪魔の本質を打ち消しているのは間違いない。提灯の記憶には何もない。けれど提灯は、あの異世界の少年に関わる何かを探っていた。


「それでよし…」― 聞き覚えのある声。セバスチャンと一緒にいた狩人の女だ。私が思考に沈んでいる間に、彼女は床を拭き終えていた。

「さて、どうしてここにいるか分かっているわよね…」


「え…まあ…なんとなく分かる…」― どうせ私は解剖される。力を得るためなら、あらゆる実験をされ、生かされたままにされる。

「お願い…は…放して…」


「ふふふ…」― 狩人は笑った。

「悪魔からそんな言葉を聞くなんて思わなかったわ」


「私は望んで悪魔になったんじゃない!ずっと悪いことをしないようにしてきた!悪魔になったら私じゃなくなる…やりたいことができなくなるのが辛いの…ただ、理性に従うしかなくて…」

私は服を握りしめ、目から涙がこぼれた。


「……」― 狩人は黙り込んだ。顔を上げると、彼女の嫌悪の表情が目に入った。私は後ずさり、檻の鉄格子に背中をぶつけた。


「は…放して…」― かすれる声で言った。


「脅かすのはやめろ。もう言っただろう、今は悪魔の影響は無効なんだ」

セバスチャンが口を挟み、檻に入って私の前に立った。


「や、やめて…」― 何かされると思い、目を閉じた。だが意外にも、温かいものを感じた。目を開けると、セバスチャンが私を抱きしめていた。堪えきれず泣き崩れた。


***


しばらくして、落ち着いた私にセバスチャンがクッキーと牛乳を持ってきてくれた。食べながら気づいたことがある。

確かに悪魔の本質は封じられている。けれど提灯の記憶は残っているし、彼が喰らった人々の体験も消えていない。


もう一つ、物事の捉え方はそれほど変わっていない。ただ今は人間として、私自身として理解している。それでも悪魔のように冷静に分析はできる。だがそれは本能ではなく、理性で簡単に捨て去れる考えだ。


「もう大丈夫か?」― セバスチャンが尋ねた。私はうなずいた。

「よし。君はなぜ異世界の者がここにいるのか聞かないな。悪魔やらそういうものに興味があって…まあ、君に悪魔として話してみたいんだ」

そう言って、彼は檻を開けた。


「ほ、本当に大丈夫なの?」

もちろん理解している。彼はとても強い。私との力の差は圧倒的で、勝ち目などない。ましてや、彼が私の悪魔の本質を封じる力を持っていると分かった今は。


檻から出ると、不安は一瞬で消え去り、複雑な感情もすべて薄れていった。私が外に出るやいなや、檻は光の筋となって消えてしまった。


「まあ、それは当然の疑問だな…異世界の者がお前たちの世界に来た理由は何だと思う?」

そう言って彼は小さな机の上にノートパソコンを置いた。


「はい。でもその前に一つ言わなきゃならないことがある…」

私はじっと画面を見つめた。彼がファイルを開くと、一枚の画像が表示された。


「酒呑童子…?」

「その通り。昔、源頼光に“討たれた”とされているが、実際には異世界に送られたんだ」


「なるほど、そういうことか…」

私は思った。歴史を通じて強大な悪魔が人間に倒されたとされてきたのは不自然だ。本当は倒されたのではなく、他の世界に“押し付けて”いただけなのだろう。悪魔の大半は簡単に倒せる存在ではないのだから。


「奴らは私の世界ではもっと強力だ。こちらの世界で見せる力とは比べ物にならない。あまりに強すぎて、怪物や悪魔たちの頂点に立ち、常に世界の平和を脅かす存在になる。私の世界では“魔王”と呼ばれている。お前たちの世界にも似たような物語が残っているだろう」


魔王か…なるほど。提灯の記憶にはこの真実はなかった。


「まあ…」私はため息をついた。「その悪魔は斬首されたと聞いている。斬った英雄は僧に扮して、酒呑童子の洞窟に潜り込んだはず…」


「それがどうした?」セバスチャンが尋ねる。彼の話は日本の神話と食い違いが多すぎる。


「たとえ鬼の王でも、首を落とされてすぐには死ななかったはず…」

もちろん、悪魔は心臓を失ってもすぐに死ぬわけではない。だが――「やがては滅びる…」


「その通りだ。しかし、この伝承では首を落とされた鬼がまだ動いて、源頼光の頭に噛みつこうとしたとあるだろう?」


「……」確かに。悪魔の中には触れるだけで呪う者や、遠距離から呪う者もいる。だが酒呑童子はそうではない。

「魂を滅ぼされなかったの?」


「ビンゴだ」セバスチャンは言った。

「結局、奴は源頼光に憑依し、この世界の最初の術者たちによって私の世界に送られた。彼らはそれを浄化の術と呼んだが、実際は転送の術にすぎない」


「……」一理ある。でももしそうなら、神話に何かしらの記述があるはずでは?


「疑うのも分かるが、記録の大半は伏見城にあったんだ…」

提灯の記憶によれば、その城は大地震で崩壊し、周辺の建物も破壊された。それは鯰によって引き起こされたものだ。


「うーん…で、結局私は何の関係があるの?」

情報が多すぎて頭が痛くなってきた。


「何週間も探しているんだ。再びこの国に大災害をもたらすかもしれない悪魔を。京都大学で暴れたのもそいつだ…」

ああ、そういえば私も探すべきかもしれない。提灯の記憶がそれを求めている。

「私は奴を倒したい。私の世界に送られる前にな」


「もし私があなたの世界に行ったら、もっと強くなるの?」

「そうだ。だからこそ奴らは厄介なんだ」


なるほど。セバスチャンほど強大な存在でも、悪魔が彼の世界に渡ればさらに力を増して手に負えなくなるのか。


「お気の毒に。私はその悪魔の正体を知らない。でもおそらく鬼の類だろうね…」

提灯を大学で襲った男は異様に屈強で、マリーを容易く殺した。


「分かっている。だから君に協力してもらう。奴は各地を転々とし、悪魔を狩って力を蓄えているんだ」


「……」どう返せばいいか分からない。

悪魔の本性は常に破壊や悪意、あるいは快楽へと向かう。提灯の記憶でも、他の悪魔や妖怪を狩って力を求めるような存在はいなかった。

「つまり、私を餌に使うつもりね…」


「まあ、そう…」


「断る!この世界の問題なんて私には関係ない!ましてやあなたの世界の問題なんて!」

私は被害者ぶるつもりはない。でも世界を救うとか滅ぼすとか、そんなことに関わる気はさらさらなかった。


「なるほど、ならば仕方ない…」


「奴隷にでもするつもり?力で私を屈服させる?それならこの世界の悪魔と何が違うの?」

私は言った。彼の右手に魔法陣が現れ、こちらに向けられる。

「やれば?唱えている呪文を放ちなさい。攻撃するなら死ぬまで抵抗する。誰も助けないし、信じない。人間も、悪魔も、異世界のあなただって。結局、人間と悪魔は大して変わらない。争いのない世界になったらどうなる?人間は必ず新たな争いを作り出す。共通の敵がいなければ団結できない種族に未来はない…」


「……」

セバスチャンの目が、カーテンで覆われていた窓のように大きく開かれた。何も言えずにいるが、それでも私から視線も銃口も外さない。


「どうしたの、異世界の勇者?君には私を殺す力があるのに、なぜためらうの?」

セバスチャンが動揺している隙に、背後から狩人が近づき、拳銃の銃口を彼の後頭部に突きつけた。


「これが契約だったはずでしょ、このクソ野郎…」

どうやら利害の衝突が起きたようだ。セバスチャンは私に狙いを定め続けるが、狩人の圧力にも屈しない。


「これはどういうことだ、クララ嬢?」

ようやくセバスチャンが口を開く。


「尋問が終わったら殺して解剖すると言ったじゃない。だけど、私を騙すつもりだったんでしょ?小さな猫ちゃん…彼女を逃がす気だった」

クララの引き金にかけた指が震えている。いつでも撃ちそうだ。


「……」

その瞬間、濃い煙の幕が辺りを覆った。


「撃てぇッ!」

クララの叫びが響く。だが銃声を聞くより先に、下から強烈な衝撃を受けた。


「ぐっ…!」

内臓がかき回され、下腹部の敏感な場所まで激痛が走る。言葉にならない。もし宙に吹き飛ばされていなければ、地面で転げ回っていたはずだ。


「くそっ…」

落下先は湖だった。


下から銃声がいくつも響く。セバスチャンが弾丸を避けているのだろうか、確かめる余裕はない。


やがて私は水面に叩きつけられ、深く沈んでいった。胸の圧迫感で深さが分かる。


どうにかして、提灯がマリーやあの術師から奪った能力を使い、頭の周囲にバリアを展開した――

だが、うまくいかなかった。息ができず、水を飲み込むばかりだ。


「!?!?!?#+""」

苦しい。水しか入ってこない。私は……


だが、不思議な静けさに包まれた。

ふっと、心が落ち着いていく。

「ふふ…なんて安らぎ……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ