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第9章: 悪魔を教育する任務


- 「…下ろしてくれない?電車で帰りたいんだけど…」

 リョウは明らかに震えていた。


- 「人間に戻ったから、恐怖も戻ってきたってわけか?」

 そう言ったが、彼はまだ受け入れられていないようだ。

 「でもさ、こんなふうに空を飛べる機会なんてそうそうないし、 それに君、俺のせいでお金がなくなったんだろ?せめて家まで送るくらいはするよ、へへ…」


- 「…そ、そうか…」

 飛行を続けてしばらく沈黙があった。

 「君は“自分を世話してくれた”って言ったけど、俺は君のことを知らない…」


- 「え?私は、自分の家の押し入れで君に見つけられた子だよ。悪魔の記憶を見た限り、世話をしてくれたのはあいつだけど、君はその記憶を受け継いでいる。だから君に感謝してるんだ。」


- 「…つまり、悪魔の魂は殺されたってことか…」


- 「いや、あの爺さんに浄化されたのは確かだけど、私が君の悪魔の魂を喰ったんだ。」


- 「……」

 リョウは言葉を失い、俺を見つめた。


- 「なに?どうせ君の魂は破壊される運命だったんだ。それに、君だって“マリー”とか、あの魔術師に同じことをしただろ?」


- 「それは…っ!」


- 「悪魔の記憶を持ってるのに、君自身は別人みたいだね。本当のリョウってことか。」


- 「…なるほど。でも、君はどうしてそんなことまで知っているんだ?」


- 「君の魂を喰ったんだよ?記憶や知識、経験は全部取り込んだ。前世のものも含めてね。封じられていたけど…君の本当の名前は“提灯お化け”だったんだ。」


- 「…なるほど。じゃあ俺を憑依したあの悪魔は、実は幽霊というか妖怪だったってことか。」


- 「いや、確かに悪魔だよ。ただし最弱クラスのね。」

 ため息をついた。

 「つまらないなぁ。いつになったらこの夢は終わるんだろ。家を壊したりしたいのに…」


- 「ちょ、ちょっと待て。“夢”ってどういう意味だ?これは夢じゃないぞ…」

 リョウに摘ままれて少し痛みを感じ、俺は急停止した。


- 「でも…ほら…君を生き返らせたんだよ?そんなの不可能だし、理屈に合わない…」


- 「はぁ!?俺を…“生き返らせた”って!?俺自身も驚いてるんだけど!」

 「とにかく俺の家に行こう。そこで色々話す。」


- 「え…うん、わかった…」


---


- 「どれだけ心配したと思ってるの!?電話もメッセージも返さないし、最悪のことまで考えたんだから!あんたは…!」


- 「ふん…まぁ、まずは色々話し合う必要があるな。」

 リョウは、俺のことを叔母のサヨリに話すつもりのようだった。

 彼女は悪魔や魔術師の存在を知っていて、保護者としてはリョウにかなり甘かった。その結果がこれだ。彼の命は一度失われた。

 しかし――悪魔の記憶によれば、彼は絶対にサヨリに知らせたくなかったらしい。自分が一人の少女を破壊衝動を持つ悪魔にしてしまったことを。

 まぁ、確かにそれは良くないことだけど…いずれ俺は本能を抑えきれなくなるだろう。


 リョウが妖怪だったのと違って、俺の力はどんどん蓄積される。どこかで発散しなければならない…。でも、何もない場所で放出してもつまらない。


- 「ああもうっ!この忌々しい悪魔の本能!」

 仕方ない、普通の少女…いや普通の女の子として散歩でもするか。

 それにしても不思議だ。服まで一緒に成長してるなんて、はは。


 リョウのスマホが鳴り始めた。返すのを忘れてた…。

 メッセージ34件、着信68件…全部サヨリからだ。

 まぁ、話し合いが終わったら返してやろう。


 歩いて、リョウがよく行っていた公園にたどり着いた。

 特に何もない公園だ。遊具すらない。

 でも、夕焼けの景色は少しだけ綺麗だ。


- 「……」

 今日一日で起きたことはあまりにも異常だ。

 「認めるよ。これは夢なんかじゃないってね…」

 少しの間そこに座り、休息を取った。


---


気づけば眠ってしまい、夜になっていた。

リョウの家に戻る途中、見た目の悪い、汚れた、酒臭い男に路地裏へ突き飛ばされた。

そこには同じような風体の男が二人いて、そのうち二人はナイフを持っていた。

人間が本能を満たすためだけにここまで必死になるのは本当に驚きだ。


「言うことを聞けよ、美人さん。そうすれば指を失わずに済むぜ…」

「断る…」と私は答えた。

「おい、自分の状況がわかってないのか?俺たちと一緒に閉じ込められてるんだぞ。逃げ場なんてないのに、断るだと。」

「でも抵抗しなかったところで、大して変わらないでしょ?」――三人はただ笑い、ひとりが私の喉にナイフを突きつけた。――「わかってないね。閉じ込められているのは、あんたたちの方だよ…」――ほんの少しだけ私のオーラを解放すると、彼らはその場に崩れ落ちた。――「あら…即死しちゃったのね…」――どうやら、人間に使う力の加減をまだ学ばないといけないようだ。少し解放したつもりが、死なせてしまった。次は気絶させる程度にしておこう。


ここでは何も起きていない。リョウが知る必要はない…でも、なぜ私が彼の考えを気にしなきゃならないのかしら?まあ、きっとサヨリとリョウの話し合いも終わった頃だろう。


あの二人の家に戻ると、やはりもう口論は終わっていた。インターホンを押すと、しばらくしてサヨリが出てきた。

「わあ…」思わず声が出た。サヨリの目は腫れていて、耳当てをつけたまま、眠っていないのが一目でわかる。奥にはリョウがいて、居心地悪そうに落ち込み気味だ。――「私が言うことじゃないかもしれないけど、少し休んだ方がいいですよ。心配しないで、あなたの甥っ子が変なことしないように見ておきますから、ふふ…」――それでもサヨリの表情は変わらず、真剣で譲る気配はなかった。

「入りなさい…」かすれた乾いた声でそう言った。私はため息をつき、素直に従った。リョウの隣のこたつに座る。しばらくしてサヨリが入ってきて、私たちの正面に座り、お茶を注いでくれた。


「それで? あなたの話を聞かせてもらうわ。」――私の話?リョウを見ると、緊張してお茶をすすっている。リョウはきっと、彼女に『甥が少女を悪魔に変えた』なんて知られたくないだろう。

「私は…あなたの息子の中にいた悪魔です。」

「甥からもそう聞いたわ。やっぱり嘘じゃなかったのね…」

「その通りです。ただ、彼が殺されたことで私は外に出たんです…」――リョウがお茶を吹き出してむせた。――「あ、言わない方がよかったですか?ごめん、ごめん…」――サヨリの目が大きく見開かれる。

「じゃあ…」

「いいえ。リョウはリョウで、生きています。私は体から出て、彼を蘇らせたんです。」――半分は本当。でも、なぜかサヨリを心配させたくなかった。――「リョウは私の力を使っていましたが、魂が人間だったので、ほんの一部しか引き出せなかったんです。」

「なるほどね…」彼女はため息をついた。――「色々と筋が通るけど、それはつまり…もうその力はないってことよね?」

「悪魔としての力はもうありません。でも魔術師としての能力は残っています。ただし今の状態で使えば、生命力を削るだけです。初めてのジムでいきなり100キロを持ち上げるようなものですよ。」――リョウはその言葉に耳を傾け、自分の手を見つめていた。考え込んでいるようだ。

「そういうことね…」サヨリは答えた。

「もう私が体から離れた以上、彼が悪魔と戦う理由もなくなりました。」

「その点は賛成するわ。――で?」

「で?」――思わず聞き返してしまう。

「あなたの名前よ。」

「あっ、失礼しました。私はハナと申します。」――サヨリはため息をつき、立ち上がった。

「私は休むわ。変なことはしないで。接触とか、そういうのもね。」――その言葉はリョウに向けられているようで、まるで私に釘を刺すようだった。

「え?私は別に構わないけど…」と言うと、二人に変な目で見られた。

「…甘えるって意味じゃないの?」――再び二人が顔を見合わせ、クスッと笑った。言葉なしで通じ合えるなんて不思議だ。

「そうだったわね、あなたはまだ子どもだった。」――彼女は少し考え込み、リョウと私を見比べた。――「でも、甘える相手は私にしなさい。」――そう言ったが、その笑みは少し不気味に見えた。――「リョウから聞いた話を踏まえると、あなたはここにしばらく居た方がよさそうね。…私が間違ってなければいいけど。」

「わかりました、ふふ…」――と私は言ったが、なぜかリョウは落胆したようだった。


サヨリは寝室に向かった。本当に休むべきだ。残されたのはリョウと私。しばらくすると、彼は立ち上がり台所へ行った。

「まだ、何か壊したいって考えてる?」――冷蔵庫から物を取り出しながら彼が聞いてきた。

「さあね。もう優先事項じゃなくなったよ。それより、何を作るつもり?」――私は近づいて尋ねた。彼は少し居心地悪そうにこちらを見たが、それ以上は何も言わなかった。

「豆腐の味噌汁と、卵焼きと、ロシア風サラダかな…」と、彼は野菜を切りながら言った。

「その点が理解できないな。優先じゃなくなった? じゃあ今の優先は何なんだ?」


「さあね…」と私は答えた。

「今はただ、悪魔になった今の私が、食べ物の味をどう感じるかが気になるだけ。」

――本当はやりたいことがたくさんある。悪魔の力を手に入れた今だからこそ、逆にヒーローみたいなことができるんじゃないかって。父がよく観ていた“夜の騎士”の映画みたいに、スーツを作って犯罪と戦うとか。


「それは…驚くほど普通だな…」と彼は呟いた。

「でも、何が正しくて何が悪いかは分かってるんだろ?」


「うん、分かってるよ。でもね、心のどこかではどうでもいいって思ってる。

“共感”って感情、多分私は完全に失ったんだと思う。でも――約束する!私はいい子でいる!」


そうは言ったけど、正直この約束を守れるのは意志の力だけだ。

私の本能は“食らえ、壊せ、恐怖を撒け”と叫んでいる。まるでホラー映画の怪物みたいに。

でも、できる限り頑張る。


「はぁ…なんか心配だな。時々、お前を“パンデモニウム”に重ねてしまうよ…」


「パンデモニウム?」と私は聞き返した。


「いや、なんでもない。ただ昔オタクだった頃を思い出しただけさ。」


「そっか…」


その後、夕食をとった。料理は美味しかった。前よりも味がはっきり分かる気がする。

それとも、彼が料理上手なのかな。

食後、リョウは自分のベッドを譲ってくれて、ソファで眠った。


              ***


「確かに見た目はもう思春期の子供みたいね…」とサヨリが言った。

「学校に一人で通わせるのは…危険だと思う。」


「それはそうね…」と私は答えた。

「でもあなたたちと一緒なら抑えられる。チョウチンの記憶が、あなたたちを傷つけたくないって思わせてる。」


「チョウチンって誰のこと?」とサヨリが問いかける。

しまった、彼女はそれを知らない。私はリョウの中にいた悪魔、ということになっているのに。


「うっかり、あなたたちを守っていた妖怪を食べちゃったの…」と私は視線を逸らして答えた。


「そう…。隠し事があるのは分かってる。でもこれからは、もう隠さないで。」

サヨリは私を見透かしていた。

リョウは片手で顔を覆っている。


「そんなに分かりやすかったか…へへ…」と私は頭を軽く叩いた。


「甥が一度死んで生き返ったって話と、悪魔の魂を持った少女が目の前にいるって話…どっちが信じられるかしらね。」とサヨリが言った。


「それに加えて、私はその甥を食べちゃったし…え?」

私の発言に二人は固まり、顔を見合わせた。


「その正直さ、時々問題だと思うわ。」とサヨリ。

母も“嘘をつかずに本当のことを言いなさい”ってよく言ってたけど…。


「僕もそう思う…」とリョウが付け加えた。

まるで裁判にかけられているみたいだ。


「しばらくは外出禁止ね。少なくとも一人では。」

私はただうなずいた。


              ***


「忍野の近くで謎のクレーターが発見され…」


「ブフッ――」


「もう、リョウ。お茶を吹く癖やめなさいよ。」


              ***


そうして、日々が過ぎていった。

私はまだ外に出ていないけれど、家事を手伝っている。

洗濯も掃除も私にとっては簡単だ。風を操れば、洗濯機でも落とせない汚れを落とせるし、箒が届かない家具の下や隅のホコリも飛ばせる。


サヨリはその度に褒めてくれる。

時々彼女の隣で甘えたり、アイスやお菓子をもらうこともある。

でも、もっと欲しいと言うと「体に悪いからダメ」と言われる。


「私は悪魔だから病気にならないよ」と言ったけど、彼女は首を振った。

――時間が経って分かった。サヨリには絶対に議論で勝てない。


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