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トプカプ戦記 ――半端名門魔導師は小さな人馬に求婚される  作者: 伊佐良シヅキ
トプカプに立ちこめる暗雲
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半端魔導師と魔導参謀・二

「カルグ・パウナ! 我が杖より出でよ『業火ゴス・フランメ』!」


「イズア・ジェルタ、出でよ『迅雷ブリッツ』」


 橙色の炎弾が、地走りのように足場を這う白色の雷がテオドールに迫る。それが迫ってくる中でテオドールは起動文に続いて魔法の想像と共に、呪文の詠唱を口走る。

 

「我を守れ『厚魔盾デイヘクセ・シルト』!」


 テオドールの眼前に薄青色の圧縮魔素の盾が足場の編み目を突き抜けて現れ、炎弾と雷を防ぐ。

 魔素の閾の低いテオドールには防御魔法は中級のこれが精一杯だが、まずは様子見の中級魔法を撃ってくれたのが良かった。これがエリスのように上級魔法から撃ち込むような魔導師だったならば、自分は防御を貫かれて致命傷を負っていただろう。

 テオドールは二人の魔法を防御魔法で受け止めて、二人の魔導師を見やる。

 イザークは息を押し殺しながら大杖の魔法ダイナモの引き金に指をかけて、対照的にグロックナーは魔法ダイナモの引き金には一切指をかけず、こちらを見据えて出方を伺っている。

 一対二。しかもこちらが半端な魔法しか使えないのを戦術と体力でカバーする戦法で戦う半端者で、あちらは高位魔法を使いこなす魔導士官。もとより不利は承知だったが、こうやって実際に魔法を撃たれるとその格の違いを思い知らされる。

 特にグロックナーという男は、参謀飾緒を付けている魔導士官にしては相当の戦闘経験を積んでいる。わざとこちらに防護魔法を使わせるような地面を這う電撃魔法を使ってきて、防護魔法の力を計ったのだ。

 そして、圧縮魔素の盾が消えると同時に、テオドールは更にグロックナーの意図に気づかされた。


「貴方の『脚』は封じさせて頂きます。『脚』で飛び跳ねられ、騎杖で接近戦に持ち込まれるのは厄介ですから」


 やはり。とテオドールは騎杖を構えて、見計らう。

 恐らくグロックナーはヴァッケブルグの人魔国境戦線で有力魔族との戦闘経験がある。だからこそ普通の魔導師の戦術よりも魔族のそれに近いテオドールの対処方法を見計らえているのだ。

 そしてイザークには士官学校時代に嫌というほど手の内を明かしている。不利と言うほかない。

 それでも、と。テオドールは短く口にすると、『アッシャー・ヘイロー』を構える。溢れる魔素を取り込み、想像を巡らせる。


「ベアル・タルテ! 気まぐれなる風精の王よ、我が脚に貴方の加護を与えたまえ――『疾脚オルカン・ベイン』!」

 

 結局詰まるところ、テオドールには『脚』しかないのだ。

 自分の魔法の『脚』と、妻の無敵の『脚』。そのふたつしか。

 それに相手もテオドールの『脚』を無条件で封じられるわけではない。


 テオドールは鉄の足場を駆け出した。がんがんがんがんっ! と甲高い音を鳴らして足場を走って距離を詰める。

 はあ、と息を吐いてグロックナーは大杖を向ける。

 

「イアズ・ジェルタ。我が杖より出で、我が敵を貫き通せ。『雷槍ドンナー・ランツェ』」

 グロックナーの大杖から、通路を埋め尽くすように紫の長い尾を引く雷の槍が飛んでくる。中級の中でも上位に位置し、跳躍で回避することの難しい長さの魔法だ。グロックナーの技量なら下手な尉官魔導師の上級魔法を上回る威力だろう。

「貴方はもう少し賢く思慮深いと思ったのですが」

 グロックナーが残念そうに言葉を零す。


「生憎ですがグロックナー中佐、小官は他に武器が無く、案外影響されやすいもので」

 テオドールは突進するまま『アッシャー・ヘイロー』の刀身を突きだし、魔法の発生を思い浮かべて、周囲に漂う魔素をかき集める。零れた圧縮魔素を体内に急速充填する、魔法ダイナモを使っているような状況のせいか、胸を針で刺すような痛みが襲ってくる。

「ベアル・タルテ! 我が剣に纏え『厚魔盾デイヘクセ・シルト』!」


 絶叫と共に突き出された灰銀鋼の刀身が槽の中身のように青白く発光する。圧縮魔素の盾をさらに『アッシャー・ヘイロー』の刀身に圧縮したものは、雷の槍とぶつかると、激しく火花を散らして、雷の槍を真っ二つに切り裂いた。

 跳んで防ぐよりも盾を押し出して突進すれば良い。メルセデスが以前エリスとの戦いで氷柱を手甲で防ぎ、銃弾やマンティコアの針を鎧で防ぎながらじりじりと前に進むギルマンを見ていたからこそ思いつけたのだ。


「……デタラメだ、昔より戦い方がデタラメになってる」


 イザークの呆けたような呟きは、剣先と雷の槍がばちばちと音を立てる中でもテオドールの耳に入っていた。テオドールも自分でも無茶が極まっていると思う。

 昔からマインツ叔父などを見て魔導師らしくない戦いばかり見てきたが、トプカプに来てから、さらにム無茶苦茶な考えが出来るようになった気がする。

 

 テオドールは「はぁっ!」と一振りして雷槍の尾を真っ二つに切り裂き、グロックナー目がけて突進する。


「イアズ・ジェルタ。『龍魔盾ドラッヒェン・シルト』」


 しかし、渾身の突進はあと一歩でグロックナーに届かなかった。龍銀並みの硬度を誇る強力な防護魔法を展開され、刃は湾曲した防護魔法によってあらぬ方向に弾かれる。


「まさか雷槍を斬って進むとは思ってもいなかったです。本当に貴方は魔導師として相応しくない戦い方をなさるお方だ」

 グロックナーは「イアズ・ジェルタ」と呟き、防護魔法を自分の周囲に張り巡らせたままイザークを伴って上空へと飛ぶ。

 魔導師にとって、空へ逃げるのは負けと同義語。そんなのはグロックナーだって百も承知だ。

 それでもグロックナーの技量とこの『クレスタⅨ』の圧縮槽の通路の地の利を生かすならば、空へ逃げた方が良いと判断したのだろう。テオドールも、イザークも、彼が上空へ逃げることが悪手とは思えず、逆にテオドールの『脚』に対抗するにはそれしかないと思えた。

 

「生憎ですがグロックナー中佐! 小官は上級魔法を撃てない半端者で、ここ暫く魔導師らしい戦い方をする者とはとんと無縁だったもので! 魔導師らしい戦い方とはどんなものかを失念してしまいました!」


 テオドールは『アッシャー・ヘイロー』を握り直し、がぁん! と足場を蹴り、槽の鋼鉄の檻を蹴飛ばして空中を舞うグロックナーを追う。

 テオドール、イザーク、グロックナー。お互いの牽制に放つ初級魔法が、躱され、防護魔法に弾かれ、はたまた切り裂かれてゆく。

 慎重でどこか躊躇いの混じるイザークと対照的に、グロックナーは終始落ち着いていて、それ自体を教本にしても良いような、経験を重ねた上でより模範的な答えを見つけた者の魔法の撃ち方をしていた。

 だからこそテオドールは基礎の上に無茶苦茶を重ねた自分の戦い方に突破口があるのではと、思ってしまう。それこそ強力な魔導師を相手に無茶苦茶を重ねた一途を貫いた小さな人馬のように。

 

「自分は魔導師らしい戦い方よりも、妻の突貫ぶりの方が頭に残っているもので!」 

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