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トプカプ戦記 ――半端名門魔導師は小さな人馬に求婚される  作者: 伊佐良シヅキ
トプカプでの日々と、ニニエル高地の戦い
18/69

ようこそ、トプカプへ・下

 諸々の手続きのあと、再びテオはメルの背に乗り、リヒトは馬を借りて司令部の裏手に広がる隊舎に趣く。

 第一〇九独立混成大隊はその名の通りの各科混成大隊で、最前線での白兵戦に特化した部隊とメルセデスに教えられた。

「軽砲と擲弾筒槍と小型の回転機砲ガトリングガン、それに小銃や剣や槍などの白兵装備が主ですね」


「魔法は?」


「高位魔法を少し使える人が一人。あとは中位魔法を使える人や治癒魔導師ですね。ただテオのように格上の相手との白兵戦を行える魔導師は居ません」


「なるほど」


 それはテオドールが異常なだけであって、本来は魔導科は火力支援や制圧が主だ。


 しかし聞けば聞くほど、混成大隊はザイサー流の防戦を支える機動的部隊だと言うことがわかってくる。

 あえて機動性と速射性の高い軽火力で固めた機動力の優れた混成部隊を作り、火消し役として敵陣の浸透を防ぐ。個体差や群れの数がまちまちなマンティコアとの戦いを念頭に置いていると思うが、おそらくはトプカプと国境を接している南のメアリス王国の侵攻も想定しているのだろう。


 隊舎は他の隊舎と同じく背の高いギャンブレル風屋根をした白と青塗りの木造建築で、どこかトプカプのあちこちにある畜舎を思わせる雰囲気だった。

 その事をリヒトが口にすると、メルセデスは「大工さんが手慣れている建て方なので、あえてこうしてるんです。意外と居心地も良いんですよ」と答えてくれた。

 確かにトプカプの気候には煉瓦の兵舎よりはこちらの方が向いているのかもしれない。


「ただ、我が混成大隊の隊舎は特にそう悪い風に呼ばれがちなんですけどね」

 あはは、と苦笑いするメルセデス。

 

 青のギャンブレル屋根の隊舎の中に、『第一〇九独立混成大隊』の文字の踊る建物が眼に入ると、テオドールはメルセデスの背から、リヒトは馬の背降りて、リヒトの手でがらがらと扉が開かれる。


「テオドール=ミュッケ魔導科少佐、主任参謀として着任致しました――」


「あー! 貴女がメル中佐のお婿むこさんですかー!」


 元気の良い黄色い声とバサバサと言う羽音が屋根組の上から振ってくる。

 見れば、洋酒色の制服の上着から袖を破った服装の人鳥ハーピーの娘が、翼をはためかせてテオドール目がけて降りてきた。


「うわぁ! ちょっと頼りなさそうですけど、顔も良いし頭も良さそうで、いい人じゃ無いですか! いいなあ、メル中佐、いいなあ!」


 床に着地した人鳥はテオドールをあちこちから観察しながら回転機砲ガトリングガンのごとく言葉を飛ばす。

 年の頃は多分リヒトと同じくらいなのだろう。跳ね気味の短い黄色みの濃い金髪と小さな体格の割に妙に大きな胸を揺らしながら、ひょいひょいと頭を伸ばしては引っ込め、テオドールを憧れの玩具でも値踏みするように眺めている

 

「アルマ、離れなさい」


 メルセデスが明らかに苛立ちの籠もった声で人鳥の少女を窘める。

 その言葉の圧に渋々アルマと呼ばれた人鳥は「はーい」と生返事を返し、器用に鉤爪の足で離れていった。


「突然ごめんなさい。あの子、本当にかしましくて私も手を焼いてるんです」

 メルセデスの謝罪に、テオドールは「ああ、うん」と頷く。

 褒められて良い気分だった、などと付け加えると多分、メルセデスの刺すような視線が飛んできそうなので、それは口にしなかった。


 テオドールは隊舎の吹き抜けの隊舎の真ん中へと通される。

 集まった者の数を見ても第一〇九独立混成大隊は大隊にしては小所帯で、恐らく見積もっても三五〇人程度。そして亜人種の特技兵や下士官の割合も多く、まさに少数精鋭部隊と言った様子だ。

 メルセデスの口でテオドールとリヒトが紹介される。

「テオドール=ミュッケ魔導科少佐です。部隊の主任参謀を務めるにあたり、皆さんをよく知っていきたいと思っております」


「ミュッケ少佐」


 一人の中年の猪人ザウマンが前に出てくる。巨大な蒸気牽引機(トラクター)を思わせる頑丈そうな体格の彼は、低く煙草焼けした声でテオドールを試すように言う。


「オットー=ギルマン准尉、重装兵科です。歩兵科と重装兵科の兵と下士官の纏め役を務めております。何か聞きたいことや要望があれば、何なりとご用命ください」

 准尉――准士官であり、下士官における最高位を持つ猪人の重装兵に、テオドールは敬意を払って礼をする。

 少佐であるテオドールの方が階級は上だが、単に魔法が使える若造でしかないテオドールと前線を長く経験してきた歴戦の兵のギルマンでは、真に敬意を払うべきはテオドールの方なのだ。

 実際彼の後ろには、歩兵や重装兵に交じって、彼に頭が上がらないと見える若い士官の姿も見えるのだから。

 

「ありがとう、ギルマン准尉」


「自分はパウル=ノイチュ。魔導科大尉です。シュリーフ中佐のお話するミュッケ少佐ほど魔法の扱いは上手くないですが、足を引っ張らないように頑張っていきたいと思います」

 ノイチュと名乗った素朴な様相の純人の青年はテオドールより少し若いくらいで、恐らく士官学校ではテオドールの数期ほど後輩に当たるのだろう。

 ノイチュの腕はわからないが、メルセデスの誇張した話で謙遜しているとしたら、もしかしたら自分の方こそ足を引っ張るかもしれない。テオドールはそう思いながら、彼に頷いた。


「インギー=ジャイム……砲兵科准尉だ。砲の扱いは任せろ」

 特別仕立ての小さく厚手の制服を纏ったまばらな白髪の生えた親分鉱山鬼ホブマモブリンのジャイム准尉は、部下の鉱山鬼マモブリン猪人ザウマンに純人に人馬、それに珍しい森人エルフの混じった砲兵隊を後ろに従えてぼそりと呟く。

 これだけの種族を纏め上げて機動的に火砲を運用する准尉というのだから、相当に人望のある男なのだろう。


「そしてこのわたし! 大隊の偶像アイドル、斥候・伝令のアルマ=ファイト上等兵と、ゲルダ=ティーレ上等兵の二人でっす! 新鮮な情報を伝えますんで宜しく少佐!」


「アルマくっつかないで! わたしまでバカに思われる!」


 さっきのかしましい黄色い金髪の人鳥の少女・アルマと、ゲルダと彼女に呼ばれた長い黒髪に眼鏡の純人の少女。ゲルダの首には魔素通信用のヘッドフォンがかかっていて、伝令科の兵と一目でわかった。

 そしてなんとなくこのゲルダという少女とは自分と同じものを感じられる。ひょっとしたら良い話し相手になってくれそうだ。とテオドールは心中思うのだった。


「彼らが我が部隊の精鋭たちです。どうぞ戦いぶりを見て、存分に采配を振るってください」

 隣に立つメルセデスが告げた。

 そしてメルセデスは高らかに声を張り上げる。

「それではテオドール=ミュッケ少佐と! その従兵のリヒト=ヴァッサー二等兵に、ご挨拶を!」


 メルセデスの声を合図に、兵舎が割れんばかりの挨拶がテオドールとリヒトに降り注いだ。


「ようこそ! トプカプへ!」

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