お説教
東京のとある喫茶店。狐娘と狸娘は一緒にいた。
だが今回は勝負目的ではない。
「で呼ばれた理由はなに?」
「そろそろあの真面目ちゃんウザくない?」
「あの陰陽師のこと?」
「そうや」
「まあ」
狐娘の問いに狸娘は頷く。
「一杯喰わせたない?」
「なるほど、いいわね」
狐娘と狸娘は普段は対立しているが今回は一時休戦して共同戦線を組んだ。
〇
陰陽師の少女はここ最近、怪奇現象が起きているという人通りの少ない路地にいた。目的は、人に害為す存在であるか確認。もし有害であると判断した場合は調伏する必要がある。
「このあたりね、噂の場所は」
聞いた話ではどれも大したことのない噂話だった。
火の玉を見かけたの、二宮金次郎像が走ってただのというよくある怪談話だ。
寂れた路地裏で陰陽師の少女はあたりを見回す。
人気のない路地裏は確かになにかしらの妖が出てもおかしくない雰囲気がある。
「ちゅう」
「ひゃッ!?」
後方から鳴き声がしたため、陰陽師の少女は驚き、振り向いてみるが、ただのドブネズミだった。
陰陽師の少女はほっと安堵する。
陰陽師の少女は妖怪の類は全然問題ないのだが、幽霊は苦手なのだ。
曇り空から雷が鳴り始める。
その音に陰陽師の少女はびびる。
彼女、実は雷も苦手なのだ。
雷鳴が稲光すると同時に、見上げ入道が彼女を見下ろしていた。
状況が状況で普段だったらなんとも思わないのに驚きで陰陽師の少女は気絶した。
〇
そんな様子を狸娘と狐娘は路地裏から覗いていた。
だが二人にとっても意外だったのが、陰陽師の少女が意外と怖がりだったことだ。
見上げ入道は狐娘と狸娘の仕業だが、雷鳴は何の関係もない。
本当であれば見上げ入道は陽動で、狐娘と狸娘は後ろから悪戯を仕掛けるつもりだった。
「どうするのあれ?」
「どうするって、あのまま放置しておくわけにもいかないやろ」
「そうだよねー」
めんどくさそうに狸娘と狐娘は嘆息した。
陰陽師の少女が目を覚ました。
目の前に狐娘の顔があった。
「おはよう」
「は!? なんでお前がここに!?」
「ずいぶんな言い方やね、倒れたあなたを狸娘と一緒にここに運んで介抱してあげていたのよ」
「そうだったの? ありがと」
陰陽師の少女は起き上がると狐娘と狸娘にお礼を言った。
「てか珍しいわね、あなたたちが一緒にいるなんて。またなにか企んでるんじゃないでしょうね」
『ないない』
狐娘と狸娘は同時になんでもないと言わんばかりの微笑で答えた。
「じー」っと陰陽師の少女が二人にそれぞれ視線を送るが、狐娘も狸娘もまったく表情を崩さない。
陰陽師の少女はなおも怪訝そうな視線を二人に向けるが、相手は狐と狸である。化かしあいのエキスパートのポーカーフェイスを見破るのは彼女でも難しいであろう。
だが、
「それにしてもわたしが倒れた時に2人が『偶然』いてくれたのは助かったわ」
「でしょう、有難く思うことね」
狸娘が薄い胸を張って言う。
だがその額には薄っすら冷や汗をかいていた。
「やっぱりなんかしようとしてたわよね?」
「考えすぎや」
狐娘が否定する。しかし、狸娘同様薄っすら額に冷汗をかいていた。
「じー」
陰陽師の少女がジト目で狐娘と狸娘を見る。
「そう、偶然たまたまあそこにたということね」
「ええ」
「うん」
狐娘と狸娘がそろって頷く。
「じゃあ、あの見上げ入道、あなたたちの仕業よね?」
「ち、違うよ」
「ええ、あれはわたしたちの幻術とかではなく、モノホンの見上げ入道や」
「知ってる狐娘、見上げ入道やみこし入道ってね、大半の妖が狐狸や貂、貉とかの幻術らしいわよ」
『……』
陰陽師の少女に言われて、その狐狸ふたり、冷汗だらだらで視線を泳がせる。
「何かしたわよね?」
『ごめんなさい』
シュバッと狐娘と狸娘揃って土下座した。
「お仕置きね」
陰陽師の少女が目を光らせて言う。
『ひえーーーっ!?』
狐娘と狸娘の悲鳴が辺りに響いた。