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ライバル

 東京の住宅街、ボブカットの少女が歩いていた。一見すると普通の人間の少女だが、少女には人間にはないものがあった。狸の耳と尻尾が生えているのだ。コスプレではない。本物である。彼女は狸の妖怪なのである。

 狸娘が歩いてると、いきなり道端に落とし穴が出来て、穴に転げ落ちた。

「痛ったあ……」

 狸娘が頭をさする。

「引っかかった~」

 上から声がして、狸娘が顔を上げる。

 狐の耳と尻尾が生えた少女がにやにやと悪戯ぽく笑っていた。

「またお前か、狐娘!」

 狸娘が怒った。

 この二人顔を合わせてはお互いに悪戯を仕掛けてるのだ。

「さらば!」

 狐娘が尻尾を揺らしながら、ダッシュで逃げる。

「あっ待て!」

 狸娘が穴から跳んで出て慌てて追う。

 タイムロスで狐娘と距離が開いてしまった狸娘は諦めて、妖術を使って足止めすることにした。

 狐娘が踏み込んだ先の地面に穴が開いた。

「え?」

 どさんと狐娘が穴に落ちた。

「痛い……」

「ふふ、ざまあみろ」

 涙目を浮かべる狐娘に狸娘は仁王立ちで薄い胸を反らして、勝ち誇った微笑を浮かべる。愉し気に尻尾と耳が揺れている。

 むかついた狐娘は印を組んで再び妖術を発動させる。

 狸娘の目の前に見上げるほど巨大きな入道がぬうっと現れた。

「うお、見上げ入道!?」

 いきなり目の前に現れた見上げ入道に狸娘が驚き、足を崩して、そのまま狐娘がいる穴へ落ちた。

「よっと」

 落っこちてきた狸娘を狐娘はお姫様抱っこでキャッチした。

「なっ!? 降ろせ! 触るな女狐!」

 ライバルである狐娘にお姫様抱っこされ、恥ずかしくて狸娘は暴れる。

「折角受け止めてあげたのに、失礼やね」

「落っこちたのはお前の幻術のせいだからな!」

 狐娘の言葉に狸娘が突っ込む。

 狐娘はお姫様抱っこしている狸娘を下ろす。

 すると狸娘が穴の外に跳んで、狐娘から距離を取った。

「覚えてろよ!」

 狸娘が顔を赤くしながら、小悪党みたいな捨て台詞を吐いてその場を去った。


 〇


 翌日。

「リベンジよ!」

 狸娘が仁王立ちで狐娘を指差す。

 喫茶店の屋外スペースで珈琲を飲んでいた狐娘を見つけて狸娘がいきなり言った。

「あ、おはよう狸娘」

「うん、おはよう……ってそうじゃなくて!」

「なによ……」

「昨日のリベンジよ! また勝負しなさい!」

「いいけど、何で? また妖術戦?」

「それもいいけど、誰が一番人間を脅かせるかとか?」

「いいね、楽しそうや」

 狸娘も狐娘も科学が発達した現代の人間たちは妖怪や神に対する信仰心が薄くなってるのでたまに怖い目にしてやらないと、と思っていた。

「順番で?」

「ええ」

「負けた人は罰ゲームとかどうや?」

「面白そう、ノッた!」

 狐娘の提案に狸娘は賛成する。


 先鋒は狸娘。

 場所は新宿歌舞伎町。ビルからは怪獣が顔を覗いてる。

 都会であればより多くの人々の注意を引くので脅かすのに最適。

 狸娘は妖力を練って、幻術を発動した。

 すると顔だけのはずの怪獣がビルの外にいた。身体もちゃんとある。

 それに気づいた通行人たちが慌てて逃げ始める。

 しかし、その怪獣は次の瞬間跡形もなく、姿を消していた。

「あ、アレ?」

 通行人の1人が目を擦ってもう一度確認してみるも、怪獣はいない。

 幻覚だったのかとその通行人は思ったが、その場にいた人たちはみな怪獣を認識していた。

 その後SNSで「新宿歌舞伎町で集団幻覚」というニュースが流れたのだった。


「どう? 大分脅かせたんじゃない?」

 狸娘が鼻高々に言った。

 狐娘がスマホで撮った動画で逃げてる人の数を確認する。

 ざっと100人くらいいた。

「やるやん」

「でしょ?」

 ドヤ顔で狸娘が鼻息を荒くする。


 次は狐娘のターン。

 狐娘が選んだのは渋谷。

 狐娘が幻術を発動する。

 スクランブル交差点のど真ん中に巨人が現れた。

 巨人が暴れる。

 とはいえ幻なので何も起きないが、そんなこと知らない人たちは大混乱である。

 歌舞伎町のようにビル群に囲まれて、確認できる場所が限られているわけではないので、東西南北にいるどの人からも確認できる。要するに周囲にいる人たち全員に見えてるわけである。

 一瞬で狐娘がその数を上回った。

 というかもう数字をカウントするのもめんどくさい。

 狸娘はスマホ画面と調子づく狐娘を見て悔し気な表情をした。

 しかし、狸娘の対抗心は逆に上がっていた。

 

 次は狸娘のターン。

 池袋でがしゃどくろを出現させて大混乱にさせた。

 そして、今回も数字はカウント不能。

  

 そんなことを都内数ヶ所で二人は実行。

 最初お互い対抗心を燃やしていた二人だったが、そのうち人間たちが幻術で逃げまどってるのを見るのが楽しくなり、最終的に勝負のことなんか忘れて、二人そろって仲良く人間脅かすのを楽しんでいた。

「いい気分だわ」

「ざまあ」

 物陰から幻術に怯える人々を見て狐娘と狸娘にやにやと嗤う。


「あっ勝負だったの忘れてたわ」

「私も……もう数とかぶっちゃけ覚えてない……」

 楽しみ過ぎて勝負であったことを忘れ狐娘も狸娘も勝敗が分からなくなっていたのだった。

「ねえ、あなたたち」

 狐娘と狸娘が仲良く愉悦に浸っているところ狩衣を着た平安貴族みたいな少女がいた。

『げっ!?』

 狐娘と狸娘が仲良くはもる。

 その場から全力ダッシュしようとする。

「逃がさないわよ。オン・ビシビシ・カラカラ・シバリ・ソワカ!」

 捕まった。

「いい加減にしなさい! 人間に迷惑かけるの」

『ごめんなさい』

 狐娘と狸娘は揃って霊縛された状態で、正座させられ、陰陽師の少女に説教された。

「まったく、いつもいつも」

 陰陽師の少女は呆れた。

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