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証言03 .357マグナム弾で妥協する(証言者:GOU)

 作業を終えた俺は、溶接ゴーグルを外した。


 この世界において、生産技能(perk)を主軸とするビルドで生き延びられるかどうかは……運や巡り合わせに依る所が大きい。

 無論、直接の戦闘力で劣るからだ。

 ファンタジー世界の勇者や冒険者パーティの装備を支えるのであれば、相対的に弱いからと言って前触れもなく切り捨てられることは無いだろう。

 パーティに参加出来ないとしても、それなりに法整備された人里で開業すると言うロールプレイも出来ただろう。

 ミリタリージャンルや近未来SFであれば、整備士やメカニックと言うれっきとしたポジションが与えられただろう。

 だが、この末法(と言う設定)の、無法者として生きる前提の世界にあって、誰かに頼らねばならないと言うのは、それ自体がハンデだった。

「ゲームが半ば遊びでは無くなった」昨今。2010年代頃に幅を利かせていた青臭い“友情”論だとか“仲間意識”だとかは死語と化した。

 これは“仕事”なのだ。

 力不足は、即ち、仲間を皆殺しにする事と同義だと言う事だ。

 それで無くともロールプレイは人間を酔わせる。

 最先端のAIで動く隊商や入植者、正義のユニークエネミーは、注意しなければ人間と見分けが付かない程に精巧だ。

 それらを長期に渡って殺し、奪い続けた結果、プレイヤー同士のモラルや容赦も無くなった。

 唯でさえ現実とゲームの区別が希薄になりがちな時代。

 そもそも野盗としてプレイする趣旨のゲームタイトルを選んでいる時点で、問題児の素養がある人間が多いのだろう。

 勿論、斯く言う俺も含めて。

 

 生産戦力(ビルド)として運の良い方と悪い方。俺は、短期間に両方を体験したと思う。

 いや。

 或いは、今、“この場所”にいる事が幸運であるのか、まだ分からないのかも知れない。

 少なくとも、セブンイレブンに併設されたガソリンスタンド跡を丸ごと工房として使わせて貰えているのは破格の待遇だろう。

 尤も、発電機をサルベージ・修理し、アジトに細々ながら電気を通したのは俺ではあるが。

 生産系技能(Perk)とは、修得して即、望みの物が作れるような便利能力では無い。

 この発電機の例で言えば、発電機そのものを直したり造る技能は存在しない。

 発電機を直すのに必要な情報を複数の生産系Perkの組み合わせによって探り当て、現実と同様、手作業で目的を果たすのだ。

 言うなれば、脳にジャンル毎の情報記録群(アーカイブ)をインプラント、或いは、ゲーム中のネット検索を限定的に解禁されるものとも言えるだろう。

 たかがプレイの片手間にインターネットが出来る程度の技能、と言うと安っぽく思われるかも知れない。

 しかし、現代のVRMMOとは、他のアプリケーションとの併用が禁じられている。

 且つ、おいそれとログアウトしたい時に出来るものでは無い。

 手続きが非常に煩雑で、かなり長期の拘束を受ける。

 今使っている肉体(アバター)での状況が“詰む”などしてキャラクターを作り直す時か、引退・休止して別ゲームへ移住する時くらいだろう。

 現実(リアル)に帰る時もこれに該当するが……事実上、そんなプレイヤーは殆ど居まい。リアルへの帰還についてまで言及すると論旨がずれるので、理由は別の機会か、他の誰かに証言させよう。

 兎に角。

 Perk毎の専門分野のアーカイブにアクセス出来るのが、このゲームに於ける“生産スキル”と言う事だ。

 仮に現実で発電機を一人で造れるだけの技術を持って居たなら、無用の能力ではあるだろう。

 現実から必要な情報を全て持ち込めるだけの、超人的な記憶力や経験があれば、の話だが。

 

 残念ながら、俺が今の一つ前に所属していた“一族”の連中は、そこを理解していなかった。

 俺がアジトに電気を通し、手製のジャンク武器を人数分作り、リーダー格が持つ伝説級の銃を改造して。

 それらのノウハウの端くれだけでも奴らの中で共有されるや、俺は“追放”を宣告された。

 曰く「ネットで調べりゃわかることしかできない奴は、穀潰しだ」との事。

 このゲームでの“追放”とは、単にリストラと言う意味に留まらない。

 ゲームの性質上、単独で生きる事(ソロプレイ)が特に困難だ。

 何処にも属していない根なし草は、たちまち入植者NPCと同様の略奪対象と見なされるのだ。

 無政府状態の世界では、それを処罰する抑止力も存在しない。

 装備を奪われ、丸腰で世紀末の世界に再び投げ出される。

 そうした素寒貧(すかんぴん)のプレイヤーは、奪う物が無くとも遊び半分に殺され、時には酷い拷問や虐待に曝される。

 面白半分になぶり殺されては生き返りの繰り返しとなる。これが、このゲームで最もポピュラーな“詰み”だ。

 加害者達は口を揃えて言う。

「そう言うゲームだ。嫌なら辞めるか作り直せ」

 

 それが生産ビルドともなれば、尚更、絶望的だ。

 放浪が始まってすぐHARUTO(ハルト)の一派と遭遇した時点で俺は“詰み”を覚悟した。

 だが、彼等は、俺との初コンタクトを対話から始めた。

 どうやら結成して間もない、人員の欲しい一族であった事が、お互いの利害に噛み合ったようだった。

 俺の案内に従い、HARUTO(ハルト)達は俺を追放した連中のアジトを急襲した。

 義憤や、新たな仲間への心遣いでは無いだろう。

 彼等にそんな心理は無いし、俺にも彼等に対してそんなものは無い。

 ただ、仲間の一人であり、俺達の尖兵でもあるKAZU(カズ)は、俺がそうなりかけたように、殺した連中の身ぐるみを全て剥ぐ事を提案した。

 この世界は何事も実益ありきだ。そこは共感出来た。

 そして、

 それに対してHARUTO(ハルト)は。

 

 連中の四肢を切断し、“回復アンプル”による止血だけを施した上で他勢力のアジトが立ち並ぶアスファルトの荒野に放逐したのだ。

「……こう言うゲームだ。自分で選んだのだろう?

 嫌なら辞めるか作り直せ」

 

「そろそろ.50AE弾が在庫切れじゃないのか」

 HARUTO(ハルト)が俺に依頼するよりも先に、用件を言い当ててやった。

「次に切り換えるとしたら.357マグナム弾か?」

「……流石だな。頼む」

 そう言って、彼は俺にデザートイーグルを手渡した。

 銃のパーツを組み替える事で、手持ちの弾薬の消費をコントロールする。この世界では基本の節約術だ。

 俺は、仲間全員の残弾数をほぼ正確に把握している。

 これはゲームのPerkでも何でも無い、俺が僅かでも使い勝手が良い事を示す、仲間から捨てられない為の小さな処世術の一つだった。

 だからこそ、数字の変動から個々の性格が見えて来る。

 HARUTO(ハルト)のそれは、完璧だ。

「……威力は妥協する事になるが、恐らく熊あたりを相手取る事は当分あるまい。不意のユニークエネミー出現(スポーン)で一発を無駄にした」

 今の話は何の変哲もない、当たり前のローリングストックの事である。

 ……俺の人間不信が完全に払拭されていないのは確かだ。

 だが。

 この男は、何処か気味が悪い。

 

 心と手は、切り離して動かすべきものだ。

 俺は脳にインプラントした手動加工支援システムと、構造分析システムをオンにし、デザートイーグルの分解に取り掛かった。

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