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証言19 堕ちた世界へ捧げる滅砕流星殺(証言者:LUNA)

 まさしく最終戦争(ラグナロク)の様相だった。

 敵味方が激しく入り乱れ、凶弾が網の目のように飛び交う。

 メインエントランスのチケットブースだった地獄門(ゲート)を越え、進軍の波に乗る。

 広場に出た。

 青とゴールドの尖塔で装飾された城が現れていた。

 ……いくつかの尖塔が折れ、ツタが巻き付き、往年の姿は見る影もないが。

 無粋に置かれた装甲車や土嚢などの遮蔽物を盾に、アタシとHARUTO(ハルト)はそれぞれ最前線に着いた。

 プレイヤー側の進軍は、ここで大きく膠着していた。

 地上にも屋根にも、並ぶのは偽りの無垢を演出した白一色の敵影ばかりだ。

 やはり、銃の保有率=弾幕の格差が激しすぎる。

 これでは、アタシ達のような近~中距離レンジの戦力は手出しが出来ない。

 それでも、僅かな隙を縫って着実に一体一体始末しているHARUTO(ハルト)は流石と言うほかないが。

 GOU(ゴウ)も、どうにか敵陣後方を狙撃しているが……考える事は敵も同じだ。廃古城の屋根から狙撃されかけ、彼は咄嗟にバリケードへ転がり込んだ。次瞬、彼のいた位置が焼き菓子のように砕けた。

 そうこうしていると、真っ白なやつらの中でもひときわ大柄な、タンクを背負った部隊が突貫してきた。

 火炎放射器部隊だ。

 燃料が勢いよく飛び出し、灼熱の紅蓮となって、戦場を包装しはじめた。

 たちまち大火に巻かれた前線から、誰もが慌てて退避せざるを得ない。

 パワードスーツを着ていても、あの火力に捕まればただでは済まない。

 チッ、まずいな。

 戦線が目に見えて押されてきている。

 不利ながらも、せっかくいいトコまで押してたんだ。このまま諦めきれるものではない。

 玉砕覚悟で、アタシの“左手”の封印されしチカラを解放すべきかーーいや、そんなことをして何になる。

 昔のアタシであれば、特攻しただろうが……今は目端に彼がいる。

 アタシが真っ先に倒れたら、誰が彼の背中を守る?

 ……わかってるよ。彼自身は、それを要らないとも言わない。けれど欲しいとも言わない。ただ、何も拒まないだけ。

 それでもあたしは、三つのゲームを、彼と駆け抜けてきたんだ。

 ……一瞬でも躊躇したのが、結果的によかったよ。

 モノレールが通った。

 そこからミニガンによる掩護射撃が来た。

 バラまかれた無限NATO弾が、火炎放射兵のタンクをことごとく撃ち抜き、やつらは盛大に爆散。

 命を火薬とした花火だ。……もっとも、やつらのような木偶に命などあるものかは知らないけれど。

 HARUTO(ハルト)が、誰よりも(はや)く、バリケードを飛び出した。

 まず、野蛮に斧を振りかざしてくる木偶へ真正面から襲い掛かる。

 野太い風を纏った餓狼のごとき鉄塊を、彼は何の恐怖も感じていないように最小限の動きで回避。素早く木偶の首に腕を回して拘束すると、後続の前衛木偶どもが一瞬怯んだ。

 一方の彼は、少しの遅滞も無く、二体の頭をフッ飛ばした。

 彼に締められているやつも黙ってはいない。強化された腕力任せに腕から抜け出そうとしてーー逆にHARUTO(ハルト)はあっさりそいつを手放した。まさか解放されるとは思っていなかったらしい木偶は、抜け出そうと力んだ状態でつんのめった。

 彼はそこへ足払いをかけて、前のめりに転倒させる。その後頭部を全力で踏みしめ、カバーに入った別の木偶を冷静に射殺した。

 頭を踏みつけられた程度で死ぬはずもない。

 半ば人質に使われていた木偶が性懲りもなく、彼の足を払って飛び起きようとするがーーもう、用済みなのは明らかだった。

 HARUTO(ハルト)は、拾われる前にやつの斧を横取りすると、それで今度こそ頭をカチ割って殺した。

 やはり、伊達にファンタジー系のRPGをやり込んで来たわけではなかった。

 別世界の剣士として鍛えた【ステータス】や【スキル】こそ持ち越せないものの、“魂”そのものに刻まれたエクスペリエンスは決して無くならない。

 敵の前線に、充分すぎるほころびが生じた。

 アタシをはじめとして、プレイヤー勢が一つの鉄砲水がごとく木偶どもをなぎ倒していく。

 

 象のキャラクターをあしらった、空中回転木馬に乗った木偶どもが、地上を掃射していた。

 螺旋状の弾幕が、アタシ達の立つ大地を間断無く蹂躙する。

 敵の位置が高所・高速回転している・象の乗り物自体がバリケードになっている、と言う三重苦だ。

 流石のHARUTO(ハルト)も攻めあぐねている。

「任せろ」

 アタシは、手頃な瓦礫を見つけると、スリングショットでアトラクションそのものを砲撃した。

 何度も何度も何度も。瞬きするごとに、アトラクション全体が傾ぎ、あちこち粉砕されて行く。

 名付けて|終焉をもたらせし滅砕流星殺《エンデンデ・ツェアシュテールング・メテオール》!

 アタシを二割程度本気にさせた報いだ。

 電気系統から宝石のごとき火花を散らし、回転木馬は完全に崩落ーー、

 

 ーーした瞬間、残骸が消え、

 

 アトラクションが無傷でリスポーンした。

 

 ……呆れた。

 世界に、失望もした。

 リスポーンを直接目視してしまう“事故”は、ゲームの仕様上仕方がないとは言え、興醒めを招く。

 だから運営は、むしろそれを極力見せないように努力するものだし、今まではこのゲームもそうだった。

 いくらカネにならなくなってきて、フェイタル・クエストで処分しようとしているからって、これは、ほんの一時でもこの世界を愛したプレイヤーへの冒涜、裏切りではないのか。

 とは言え、別の木偶が乗り込むのを阻止すれば良い。

 アタシが奥義の一つを開帳した事は、無駄ではないはずだ。

 

 アタシは、彼と肩を並べて往き続ける。

 世界の不条理に抗い続けてやる。

 アタシは、敵にとっての“死”の擬人化。

 そして彼には勝利を。

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