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最初の死者

 俺は殺死冥導拳(さっしめいどうけん)達人(マスター)レベルまで会得した拳士だ。

 瓦礫が無秩序に小山を連ねる、荒涼とした廃墟が果てしなく続く中、俺は淡々と歩を進めていた。

 頬を撫でる風が冷たい。

 その風に乗って、石質な臭いが運ばれてくる。

 粉塵が全身に纏わり付き、ザラザラしている。

 音。

 断末魔の絶叫が、四方の瓦礫を跳ね返りながら、俺の耳朶に刺さった。

 この世に命を繋ぎ止めようとする、なりふり構わない叫び。

 これまで、嫌と言うほど聞かされてきたものだ。

 きっと間に合わないだろうが、俺は時速にしてガゼルにも迫る脚力で走り出した。

 

「……やれやれ、三匹も揃ってこれっぽっちか。不景気だな」

 やはり手遅れだった。

 俺が駆け付けた頃にはもう、罪の無い隊商は皆殺しにされ、モヒカン狩りの男に荷物を漁られていた所だった。

「おい。荷物から手をどけろ」

 不意打ちで始末してやっても良かったが、一応声をかけてやった。

「……ほう?」

 モヒカン男の野盗は慌てた様子もなく、ゆらりと立ち上がって俺に向き直った。

 力を誇示するためか、粗末なボウガンをこちらに向けて来る。

「……一応、声掛けして来るのか。最近の木偶は礼儀があるな?」

 知らないと言うのは恐ろしいものだ。

 冥導拳はヒトを超越した拳。

 そして、この流派に武器の型はない。

 武器とは、ヒトが種族としての弱さを補うために編み出した小細工に過ぎん。

 ちょうど、この小悪党が証明しているように。

 ボウガンの弦が跳ねた。

 俺自身がそれを認識したと同時に、不随意に動いた手が、ボウガンの短矢(ボルト)を掴み取っていた。

 これも冥導拳の技能(Perk)が一つ。虚心燕止(きょしんえんし)。無意識に矢や投石を受け止める技だ。

 モヒカン男は舌打ちすると、ボウガンを投げ捨て、鉈のような刃物に持ち換えた。

 雑魚にしては利口だが。

 俺からすれば、非常にスローな動きで袈裟斬りを繰り出して来た。

 その、何ら武術的術理の無い哀れな一撃を最小限の歩幅で躱すと、手刀で弾き飛ばしてやる。

 続けざま、俺は貫き手を奴の喉目掛けーーモヒカン男は、左手を俺の眼前にかざすフェイントの後、右手で別の武器を抜き放っていた。

 馬鹿な!? これは、伝説級の、

 

 音が、鼓膜を突き刺した。

 火線が俺の心臓を貫き、破砕したのが全身の骨の振動を通してわかった。

 意識が、たちまち剥ぎ取られる。

 俺は、死ぬ。

 

 何故、こんな雑魚が、伝説級の武器を隠し持って居ーー、…………。

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