一難去ってまた一難、そして更にまた一難でした。
放ったナイフは1匹のゴブリンの腕に刺さります。
『暗殺術』と『投擲術』の効果でDEXが上がっていましたが、常に成功する訳ではないので、このように一撃で仕留めることが出来ないのもしばしばあります。
加えて、毒状態にもなりませんでした。
けど仲間が突然攻撃を加えられたことに他のゴブリンも反応します。
だから僕は先程手に入れたスキルを使うと共に声を張り上げます。
「“こっちだ、来い!"」
敵の注意を引きつけるスキル『挑発Ⅰ』と合わせた呼び声でゴブリン達は一斉に僕の声の方へと顔を向け、こちらへと走り出しました。
僕は慌ててここから離れるため走ります。
2〜3匹ほどはまだ女騎士さん達の所にいますが、おそらく大丈夫でしょう。というか、そうであることを祈るしかもう僕には出来ません。
なにせ、これから僕の方にきた15匹のゴブリンを相手にしないといけないのですから。
ーーーーーーーーーーーーーーー
油断した。
まさか、このタイミングで突発性イベントが発生するなんて。
ゴブリン自体の強さはこの森林エリアにいるモンスターの中では強い方だ。けど、そこは大して問題ではない。私自身のレベルから見れば大したことはない。
後ろの二人も生産職とは言えレベル的に見ればさほど問題はない。
けど、数が多すぎる。
さっきから倒しても倒しても湧いてくる。
数が多ければそれだけ攻撃を受けてしまうリスクが生じてしまう。
微量とは言え受け続ければやられてしまう。
私はまだ耐えているが、後ろの二人では私ほど長く耐えられない。
戦闘に使えるスキルをほとんど有していない二人では殲滅速度にも私には劣る。
だから逃げた。
二人を先に行かせて、私は殿を務めた。
だけど、想定外の事態が起きた。
いつもは道となっていたはずのルートに大木が倒れ込んでいて容易に通れなくなっている。
私は慌ててゴブリンの方へ向き直る。
剣を構えた私に奴らは警戒を示すも時間の問題だ。
このままでは私達は物量で負けてしまう。
もう、私には無意味な慰みの言葉を二人にかけるしかなかった。
そんな時だ。
何処からかゴブリン目掛けてナイフが一本飛んできた。
鋭く速く飛んだそれは明らかに意図的に放たれたものだと分かる。
多分、アーツスキル『スローイング』によるものだ。
仲間が不意打ちを喰らって、ゴブリン達が僅かに動揺していた。
今度は、
「“こっちだ、来い!"」
思わず引きつけられるような張り上げた声が耳に入る。
その声の方へすぐに視線を向けた。
茂みが揺れ、すぐに背中を見せて走る人影。
ゴブリン達はその人影を追いかけていく。
私がその時、ちらっとだが確かに見た。昨日見て印象的だったあの瓶底眼鏡を。
“ギイィ"
私は慌てて視線を正面へ向ける。
先程の人影はおそらく、『挑発』のスキルで誘導してくれたのだ。
けどそれでも全てが誘導される訳ではないから、こうして少しだけ残っている奴がいるのだ。
でも、この数なら問題はない。
私は気持ちを落ち着かせ、あの瓶底眼鏡の人物に感謝しながらゴブリンの方へと駆け出した。
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必死に走る僕の少し後方でゴブリン達はギイギイ騒ぎながら僕を追いかけていました。
さほどSPEのない僕ですが、それでもまとまって動くゴブリン達よりは速く動けているようなので何とか距離を取れています。
僕はカーソルを操作し手に『ゴブリンのナイフ』を持ちます。
そして走る勢いを殺さぬように振り返り様に投げつけ、また前へと走っていきます。
倒せたかは確認しません。というよりは確認していられません。
さっきからこの状態を保って少しずつ敵を削っています。
とはいっても走り続けると息が切れそうなのでそれも打ち止めです。
手に槍を持って改めてゴブリン達の方を見ます。
ゴブリン達の数は13匹。
どうやらさっきまでに2匹倒せたか逃げていったようです。
このゲームを始めてまだ二日ですが、分かったこともあります。
まず、このゲームにおける戦闘は敵の急所となる部分を突けるかが大事だということ。
昨日のイノシシ達やこのゴブリン達のように、頭部や首、心臓があるだろう左胸といった現実でも急所となる所を突けさえすれば、大きなダメージとなります。
加えて、ここは初心者向けの森林エリアのため、敵もさほど強くなく、基礎能力の低い『遊び人』の僕でも急所さえ突ければほぼ一撃で倒せます。
だから僕は槍でまたゴブリンの頭部を突き刺し、一撃で倒します。
次に分かったこと。
このゲームのモンスター(少なくともこの森林エリアに限るかもですが)には、『逃げる』という選択が基本的にないようです。
普通の野生動物なら自身に危険をもたらすものと認識すれば逃げます。
大型の動物でもそう理解さえすれば逃げます。
でもモンスターは違います。
目の前に敵がいる。その敵を倒す。
それは生物ならではの生存本能ではありません。言うなれば闘争本能。
だからこそ、目の前で仲間を殺されても動揺することなく迫るのです。
『挑発Ⅰ』により引き寄せられているゴブリン達は真っ直ぐに僕へと迫ろうとするから、足下に転がる仲間の身体に足を取られるのです。
動きが止まったものは一旦放置。敵の数が多すぎる以上、動ける敵を減らすことを優先していきます。
「“ウェポン・チェンジ"ッ!」
槍から棍棒に替え、続けて『スローイング』します。
棍棒はゴブリンの1匹の顔面に直撃すると共に砕けます。まだ倒せてない。
「“ウェポン・チェンジ"ッ!」
だからもう一度棍棒を出して『スローイング』するのです。
それでまた1 匹倒れ、あと11匹。
『ゴブリンのナイフ』を手にします。
すぐ傍にいる1匹からの攻撃を盾で受け止めます。
そこから盾を着けた腕を振るって、相手の体勢を崩します。
そこから首目掛けて、
「“スラッシュ"ッ!」
ナイフで切り裂きます。
これで10匹。
けどもう1匹傍にいたゴブリンが棍棒で脚を殴ってきました。
衝撃が走ります。
追撃を受ける訳にはいかないので咄嗟に腕を振るって殴ります。
そこで僕はほとんど使用していなかった『レザーナックル』を装備しました。革製のグローブは指の根本部分や根本と第二関節の間部分が厚くなっており、殴ったことで拳を傷めないようにと作られています。
なので今度は思いっきり、丁度鼻を殴られたことで怯んでいたゴブリンに再度拳を叩き込みます。
素人ですが、なるべく大振りにならないようにと気をつけて殴り、更にもう一度殴ります。
悲鳴を漏らし、倒れるゴブリン。あと9匹。
剣や槍のように現実では使うことのない武器を振るよりは、ほぼ生身での動きなので意外とやりやすかったですね。でも威力が不安で手数が必要になりますね。
囲まれないように位置取りし、一番近い1匹を殴ります。今度は首の辺りを試してみます。
すると上手く当たったようで一撃で倒れました。
残り8匹。
ゴブリンが2匹、それぞれナイフと棍棒を振るってきました。
辛うじて盾で受け止めます。その代わり、盾の縁が欠けてきました。
大分無理をさせたせいで耐久力が減っていますから。
どれくらい保つか...
「“ウェポン・チェンジ"ッ!」
流石に複数を拳で倒すのは無謀なので剣に持ち替え、2匹まとめて切り裂きます。
1匹倒れて1匹はまだ生きています。だから蹴り飛ばしました。それで運良く倒れました。これで6匹。
けど、残りの6匹との距離が近いです。
走って距離を取るのは難しいでしょう。先程と比べて数が減った分動きも速いでしょうし。
だったら...
「よっと!」
木登りです。
現実ではこんなに速くいかないですが、アバターの身体能力のおかげで思ったよりもすんなりと登れます。
「あれれ?」
そこそこの高さにあった枝に腰掛ける形となった僕が下を見ると、ゴブリンは届く訳もないのにナイフや棍棒を当てようと振り回しています。
なるほど、登れない、いや登るという発想がないのですね。
だったら...
僕はメニュー画面を開き、『ウェポン・チェンジ』の設定を直します。
棍棒やナイフが消滅して空きとなったので今の内にやっておきます。
続けて手には装備し直した『ゴブリンのナイフ』を構えます。
今持っているナイフはあと5本。出し惜しみはなしです。
消費が少ないとはいえ、『ウェポン・チェンジ』と『スローイング』で大分MPも消費したのでここから普通に投げます。幸い、敵はここから離れる様子もないので狙うのは簡単でした。
おかげでナイフ5本を使ってなんとか3匹倒せました。
残りは僅か3匹。
今度は『ゴブリンの棍棒』を選択。
こちらもあと2本しかないので使い切ります。
これで更に1匹倒して、あと2匹。
もう投げられる武器がないです。
だから飛び降ります。その勢いのままゴブリンの頭を踏みつけ、そして手に持った剣で無傷の1匹を切り捨てます。遂にあと1匹。
踏みつけられたゴブリンに剣を刺します。これで全滅です。
◆◆◆◆◆◆◆
レベルが上がりました。
スキル『盾術Ⅰ』は『盾術Ⅱ』に上がりました。
スキル『槍術Ⅰ』は『槍術Ⅱ』に上がりました。
スキル『暗殺術Ⅱ』は『暗殺術Ⅲ』に上がりました。
スキル『投擲術Ⅰ』は『投擲術Ⅱ』に上がりました。
スキル『格闘術』を獲得しました。
スキル『グローアップ・リカバー』を獲得しました。
◆◆◆◆◆◆◆
おお、スキルのレベルアップに新しいスキルを獲得出来ました。
中々に疲労しましたが、僕は頑張ってそこいらに転がるアイテムを拾います。
◆◆◆◆◆◆◆
『ゴブリンのナイフ』×8
『ゴブリンの棍棒』×5
を入手しました。
◆◆◆◆◆◆◆
これで投げる武器は手に入りました。
おっと、ポーションで回復しないと。
これでポーションはあと3本ですか。
『ゴルルルルルッ!』
ん? 唸り声?
その声のする方を見ると、新手のモンスターが出てきました。
デカいですね....
見た目はゴブリンと同種と思われますが、体格が全然違いますね。
ゴブリンが子どもくらいで少し痩せ気味な体躯でしたが、このモンスターは身長がざっと180cmほど、腕や胸板の太さ厚さはプロの格闘家みたいですね。
それに、あの剣。
大きく反っていますけど多分、僕の剣よりリーチがありますね。
僕は槍を取り出します。
リーチの差を少しでも埋めるとすると僕には槍しかないですから。
『ゴルルルアッ!』
大ゴブリン(仮称)が雄叫びと共に走り出してきました。
僕は迎撃のため槍を突き出します。
けど、大ゴブリンは走る勢いそのままに剣を上から下へと振るってきました。
結果、槍がへし折られてしまいました。
しかも刃先が僅かに僕に当たり、吹き飛びました。
思った以上にリーチがありますね。
「ぐっ!」
背中が木に激突し、かなりの衝撃を感じます。
今のでHPが二割ほど減りました。
これ、直撃だったらどうなっていたのでしょう?
何とか立ち上がる僕を、大ゴブリンは余裕綽々といった様子で見ています。
僕はゴブリンのナイフを出します。そして大ゴブリンの周囲を走ります。
グルグルと大ゴブリンの剣を間合いに入らないように気をつけて走ります。
でも、大ゴブリンは棒立ちして正面から背後に回っても何もしてきません。
まさか....
僕は再度背後に回るとそこから方向転換して大ゴブリンの背中へと迫ります。
両手でナイフを持ち思い切り突き刺せるようにします。
けど、大ゴブリンは突如振り返りその勢いを活かして剣を横薙ぎに振るってきました。
両手でナイフを持つようにしたことで、振るってきた剣を盾で辛うじて受け止めましたが、勢いを殺せる訳なく、さっきよりも更に後方へと吹き飛びます。
「がっ!」
今度は地面に激突し転がってしまいます。
両手には壊れたナイフと、これまで僕を守ってくれた盾のベルトが腕に巻きついたままでした。
肝心の盾はバラバラに砕けた末に辺りに散らばっていました。
HPはもう三割程度しか残っていません。
盾で防御してもこうなるとは....
よく見ると大ゴブリンは僕を見てニヤリとしていますね。
やっぱり、僕が背後を取ると予想してのカウンター狙いでしたか。
これまでの攻撃二回、明らかにこちらを格下と見ている表情。
・・・・・・
だったら...
「ふぅー」
では、いきましょうか。僕は初期装備の短剣を出します。
僕はまた走ります。今度は背後に回らず正面から。
大ゴブリンは笑みを浮かべています。そして何もしてきません。
やはり....
そして短剣が届く間合いへあと少しという所でその手に持つ剣を振り下ろしてきました。
僕の推測通りに。
だから僕は慌てず騒がすに作戦を実行します。
「“ウェポン・チェンジ"」
手に持つ短剣は剣に替わります。
そして剣のリーチは短剣よりも遥かにあります。
よって、刃は大ゴブリンのガラ空きのお腹に刺さるのです。
『ゴルルルアァッ!!!』
一気に苦悶の表情に変わる大ゴブリン。
こいつは相手の武器のリーチに合わせてカウンターのタイミングを決めていました。相手の武器が届こうという所で自慢の剣で迎撃すること一択の戦い方。
自分は強いという自負から来る傲慢な戦い方ですね。
だから短剣の間合いギリギリの所まで入れると分かれば、『ウェポン・チェンジ』でリーチのある剣に替えてしまえばこちらのもの。
予想外のダメージに困惑する大ゴブリンは剣を振るう余裕がないようですので、トドメといきますか。
「ふんっ!」
お腹に突き刺した剣を抜かずに強引に振り上げました。
おかげで剣は折れてしまいましたが、大ゴブリンは完全に倒れました。
◆◆◆◆◆◆◆
レベルが上がりました。
スキル『剣術Ⅰ』は『剣術Ⅱ』に上がりました。
称号『大物喰らい』を獲得しました。
◆◆◆◆◆◆◆
ふぅ、またレベルアップですか。経験値が凄いんですね。それに、称号ですか。
どれどれ...
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『大物喰らい』
[概要]
圧倒的な格上相手に逃げずに戦い、勝利した者が得る称号。
この称号を持つ者は自身より強い相手との戦いにおいて自らの力を高めていく。
[効果]
1.自身よりステータスが高い敵との戦闘時のみ、全てのステータスが増加。
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おお、また中々に嬉しい効果ですね。
それと、あれがドロップアイテムですか。
僕は大ゴブリンが消えた跡に残っているそれを手にします。
◆◆◆◆◆◆◆
『ホブゴブリンのタルワール』×1
を入手しました。
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あの大ゴブリン、『ホブゴブリン』というのですね。
そして、この剣は...
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『ホブゴブリンのタルワール』
[性能]
POW:+30
Durability:10
[解説]
長剣の一種。ホブゴブリンが持つタルワール。ホブゴブリンのサイズに合わせてあるため、一般のタルワールよりも長めで重いがその分威力も高い。
ただし、ゴブリン同様手入れはしていないため割とすぐ壊れるのでそのまま使うのは不向き。
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残念。これからの新しい武器にと思いましたが壊れやすいのは...
とにかく、これで戦闘は終わりですね。
ポーションを使って回復を...あれ?
HPが全回復している。いや、よく見たらMPも?
どういう....あ、もしかして...
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『グローアップ・リカバー』
[概要]
自らを成長させ続ける者が得る恩恵。成長の度にその肉体は癒される。
[効果]
レベルアップ時HP・MP全回復及び状態異常の回復
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やっぱり、今の戦闘でもレベルアップしたから回復したんですね。
ふぅ、よかった。ポーションを使い切らずにすんで。
それでは、帰るとしましょうか。
『ハハハハハ、すごいねーキミ! ボクと遊ぼうよ!』
「っ!?」
突然聞こえてきた声。
でも何処にも人の姿はありません。
思わず身構えてしまいました。
同時に、僕は背後に悪寒を感じて振り向きます。
「えっ?」
驚きを隠せませんでした。
なにせ、僕の影があり得ない動きでウゴウゴと波打っているのです。
そして、今度は僕の影から『ソイツ』が出てきたのです。
「『一難去ってまた一難』とは言いますけど、更にもう一難ですか..」
僕は『ソイツ』を見ながら流石に苦笑せざるをえませんでした。
本当に、このゲームは中々に楽しませてくれますね。