トレジャーイベント〜お会いしたかった人に会えました。〜
※少々いかがわしい表現あり。
過去のエピソードと文章に矛盾があったので一部セリフを修正しました(2025/7/19)
「おやおや、お世辞がお上手ですね」
「何言ってるのよもお、あたしはお世辞は言わない主義よ」
「そうですか。だとすると照れますね」
本当にお上手な方だ。
「あら可愛い。ていうか、全く動じないわね?」
ん? 何がでしょうか?
こちらのスキンヘッドさん、何かしましたかね?
「普通、あたしみたいな見た目でこの振る舞いだと驚いたりするものよ。そっちのお嬢ちゃんみたいに」
「はい?」
よく分かりませんが、後ろを見るとポカンとした様子のたまこちゃんさんが。
どうしたのでしょうか?
「たまこちゃんさん?」
「あ、えっと、その...ごめんなさい! 失礼な反応しちゃって...」
ん? 何を謝っているのでしょうか?
「いいのよう、もう慣れっこだし。それに...」
「それに?」
何でしょう?
「お嬢ちゃんのさっきの反応は可愛いから眼福だったわよ。うふふふふ...」
「うっ、リアクションしづらい」
どうしたのでしょうか?
まあ、折角のご縁ですしもう少しお話を....
「動くな」
「っ!?」
「ん?」
首に何か...刃物ですね。このまま横にいけば切られますね。
誰でしょうか?
「・・動くなと言ったのが聞こえなかったのか?」
「あ、失礼しました」
後ろを見ると見知らぬ女性が僕とたまこちゃんさんの首に刃物を当てがっています。
目つきが鋭いですね。寝不足ですか?
「ウチの者に何の用だ? 返答次第によっては斬る」
「ひっ!」
「あ、すいません、たまこちゃんさんが怖がってますから刃物を下げてください」
「お気遣いありがとう! けど、緊張感持ってよ!」
「ちょっとグラブちゃん、その二人は大丈夫よ」
「本当か、キャロル?」
「ええ、保証するわ。特にそっちの色男さんはね」
スキンヘッドさん、キャロルさんというのですね。ウィンクまでして親しい人だと示してくれるなんて、いい人ですね。
「・・・チッ、そうか」
「舌打ち?!」
刃物を下げてくれましたが、女性、グラブさんはまだ警戒しているようですね。
「たまこちゃんさん、もう少し離れましょう」
「う、うん」
たまこちゃんさんは僕の後ろに回りました。
まあ、いきなり刃物を突きつけられるなんて現実でもまずないことですからね。
というか現実で経験あったら怖すぎますね。
「答えろ、何故ここに来た?」
手に持ってる刃物・・剣とかって感じではないですね。
なんでしたっけ、木を切ったりする....あ、鉈だ。
「おい」
「おっと、失礼しました。鉈と言う物をしっかり見たのは初めてだったので」
「....正確にはマチェットだ」
「スパナとも言うレンチでしたっけ?」
「それはラチェットだ」
「ああ、ご指摘ありがとうございます」
「気にするな...って、いやそうじゃなくてだな..」
あ、話が逸れてしまいました。
「ウォーカー...」
「うふふ、グラブちゃんを手玉に取るなんて凄いわね」
「はい?」
「ううん、改めて問う。一体何の用で来た?」
「では改めまして...美味しい匂いがしたので来ました」
僕はマンガ肉を指差します。
だって本当に美味しそうなんですもの。
「....お目が、いや鼻が高いと言うべきか?」
「グラブちゃん、真面目に捉えすぎよ」
「ん? まあ、敵対の意思はないのだな?」
「....何でですか?」
質問の意図が分かりません?
「ふ、いや、いい」
あ、鉈..じゃなかったマチェットをしまってくれましたか。
「それでは今更ですが自己紹介させていただきます。お初にお目にかかります、ウォーカーと申します」
「た、たまこちゃん。ちゃんも含めてのプレイヤー名です」
「あら可愛いわね。それに、ウォーカーね...」
「君が噂の...」
ん? 何か言いましたかね?
「それじゃこちらも。あたしの名前はキャロライナ。キャロルでもキャロちゃんと呼んでもいいわよ」
「グラブだ。キャロルの妻だ」
キャロルさん改めキャロライナさんとグラブさんのご夫妻ですね。
「え、妻?」
「そうだ」
「そうよ」
「え、リアルで?」
「当然だ」
「もちろんよ」
・・・・・・・
「ええええええええっ!!!!」
たまこちゃんさん、そんなに驚くことですか?
キャロライナさんとグラブさんのご夫妻を僕達の拠点へとお誘いし、先程のマンガ肉をご馳走になりました。
うん、切り分けてもらってもステーキより厚さがあるのに歯応えは意外と柔らかいですね。
それに、脂の甘みと仄かな香辛料の香りと刺激がいいですね。
こんなの、現実ではまず食べることがないでしょうから貴重な体験ですね。
それに何より...
「でもまさか、ウォーカーちゃんがあたしのカレースパイスを買ってくれてたなんてね。あれ、色々な素材を使ったから結構なお値段したでしょう?」
「そうですね、一般的な食材アイテムと比べても高かったですね」
そうです、以前僕が購入したカレー粉の製作者にこうして会えたのもまた貴重な体験です。
なので、それが分かった際は手を握りお礼を言わせてもらいました。いや本当に美味しかったのでお礼は絶対言いたかったから会えて本当に良かったです。
「え、それを復興支援の料理にしたんですか?」
「ウォーカーごめん、そんな貴重なアイテムを..」
「大丈夫ですよ。まるたちゃんさん、たまこちゃんさん」
だって...
「後日追加で買ったから、まだ在庫がありますので」
「「え?」」
「ウォーカーちゃん、もしかしてあたしがまた試しに卸していた改良スパイス10個、全部買ったの?」
「はい」
僕は[リュック]からカレー粉を取り出して見せます。
「・・・高かったんですよね?」
「はい」
「えっと、どんくらい使ったの?」
「確か、今の所持金の半分は」
僕は[メニュー]の所持金項目を開示して説明します。
「高っ!!」
「ウォーカーさん、せめて使った分だけ支払わせてください!」
ええ、別にいいのですが...
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あたしことキャロライナは愛する奥さんグラブちゃんと一緒にイベントに参加し、最初の夜を迎えた所だったわ。
彼、ウォーカーがやって来たのは。以前のバトルイベントでの活躍を見て気になっていたから正直驚いたわ。
でもまあ、あたしはいつものように挨拶してやったわ。
大抵の人は大なり小なりあたしの振る舞いに顔を引き攣らせるものよ。
現に、同行していたたまこちゃんはフリーズしてたわね。それはそれで可愛いからいいけど...ふふ。
けど、ウォーカーは違ったわ。
全くと言っていいほど気にする素振りも何も無かったわ。
正直、ちったあ反応しろよオイコラって思ったのは内緒よ。
でも、無反応過ぎるというのも却って新鮮な反応だから面白いわね。
まあ、その後あたしが作ったスパイスの件でめちゃくちゃ喜んでお礼言われたのはちょっとびっくりしたわ。
喜んでくれたのは嬉しいけど、両手を力強く握ってまで言われるのは流石にね...
危うくいけない道に走りそうになったわ。
危ない、危ない。
あのスパイス、ゲームでカレーを作れないかと試してみた物だけど、結構な費用がかかっちゃったから売りに出したけどお値段が高くなったのにまさか全部買ってくれていたなんて....
ほんと、世の中何が起きるか分からないわね。
でもこのイベント、色々と楽しめそうね。
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自分、グラブは愛する夫キャロルと共にこの宝探しイベントに参加した。
そして、夫婦水入らずの夜を過ごそうと思っていたのだが....
「おいしいですね、このお肉」
「でしょう、ウォーカーちゃんが買ったカレースパイスの素材にも使った香辛料を練り込んでるのよ」
「なるほど...確かに微かに覚えのある刺激かと思いましたがそういうことですか」
思ったのだが...
おのれ、ウォーカーめ...
夫婦二人っきりの時間を邪魔するどころか、キャロルの気を引きおる。
しかし危険だ。
奴が以前参加したバトルイベントで、その素顔が晒された。
その素顔にキャロルも歓声を上げてしまったとキャロル本人から聞いた時はかなり妬いてしまったのは今でも覚えている。
だから二人でログアウトした後はしっかり・・・
いや思い返して表情を緩めている場合ではない。
とにかく、男すらも虜にしかねない奴は危険だ。
もちろん、キャロルはそんなことはしない。
それは断言出来る。
だが、それでもキャロルの気を引いているのも事実。
やはり腹が立つ...
「グラブさんはキャロルさんが大好きなんですね」
「ん?」
「あらやだ、何言ってるのよもう!」
何だ、突然?
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こちらを見ていたグラブさん。
その視線方向は僕とキャロライナさん。
なるほど。
「グラブさんはキャロルさんが大好きなんですね」
「ん?」
「あらやだ、何言ってるのよもう!」
おっと、前振りなく言ってしまったのでグラブさんが首を傾げてしまいましたね。
キャロライナさんも照れてしまいましたし。
「いえ、グラブさんがこちらを見ているからキャロライナさんを見ているんだなと」
「うふふ、あらもう、そうなの、グラブちゃん?」
「ですから、キャロライナさんが大好きなんですね?と」
「そういうことか...当然だろう。妻が夫を大好きなのは世界の真理と言っていいからな」
「おお〜」
凄いですね。ここまで堂々と言い切るなんて...
男らしい...あ、でも女性には失礼ですかね?
「えっ...いただけじゃ...」
「...かに...がって...」
「まるちゃん...」
「...いっ...ど..」
ん、たまこちゃんさんとまるたちゃんさん、何をヒソヒソしているのでしょうか?
おっと、内緒話に聞き耳を立てるのはいけませんね。
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ウォーカーに着いて行った結果、何故か一緒にご飯を食べることになったキャロルさんとグラブさん。
失礼なのは分かってるんだけど、正直、見た目と言動の違和感がすっごいんだよね。
キャロルさんはなんかもう格闘技のプロとかボディビルダーとかって言った方がいい見た目なのに、言動が女の人らし過ぎる。職業も『料理人』だし。
対してグラブさん、モデルみたいなスタイルなのに立ち振る舞いがもう、正直かっこ良すぎる。
あれね、お母さんが昔はまってたっていう歌劇団の麗人さんだ。
まあ、あの二つのものが女性だと強調してるけど...
ってか、羨まし過ぎる!
あたし、未だに成長の兆しがないのに...
まるたちゃんはあるって分かるようになってきているのに...
しかもこの二人が夫婦だっていうんだからもう情報過多でフリーズしそうだよもう...
で、そのグラブさん...
めっちゃウォーカーのこと睨んでるんだけど。
いやまあ、目つきが元々鋭いから分かりにくいけど、なんか迫力があるんだよね。
あれ絶対嫉妬してるよ。だってウォーカーとキャロルさんさんがお喋りして笑う度になんか圧発してるもん。
あ、ウォーカーが気づいた...ええ?
違うよウォーカー!
火に油を注ぎかねないよ。
って、グラブさんもさも当然って顔で返してる!
「えっ、あれウォーカーを睨んでいただけじゃなかったの?」
「でも確かにキャロライナさんに視線が移ったと思う時は目尻が下がってたよ...」
「まるちゃん、よく気づいたわね」
「うん、でも一瞬だったんだけど...」
だよね、まるちゃんも気づいていたよね。
「そういえば、キャロライナさんが『料理人』なのはスパイスの件から教えてもらいましたけど、グラブさんの職業って何ですか?」
ちょ、話題あっさり変えてる!
「...『狩人』だ」
「ほお、どういう職業ですか?」
「ウォーカーちゃん、『狩人』ってのは素材確保にボーナスのつく戦士職系の職業よ」
「素材確保...つまり」
「ええ、あたしの料理開発のために選んでくれた職業なの。おかげで色んなレシピが開発出来たんだから」
「おお!」
「ふ、夫を支えるのは妻の役目だからな」
「どこまでも仲良しさんなんですね本当」
「まあな」
あ、グラブさんの機嫌良くなってる...
ウォーカー、気づいていないだろうけど、向けられていた敵意に対処しちゃってる。
うう、なんかもう疲れたよ...
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キャロライナさんとグラブさんとも楽しいお食事を終え、後はもう明るくなるまで休養するのみとなりました。
皆さんで談笑する傍ら、軽く情報交換といきました。
「そんな靴があるのか...興味深いな。ノーマルのモンスターを倒した時にもお宝が手に入るとは...」
「あたし達はまだそういったお宝は手に入れてないわね。まあ、食材になるものはたくさん手に入れたけど」
やっぱり、まだお宝を手に入れていないプレイヤーさんもいるようですね。
「あ、そういえば...」
「ん、どうしましたか?」
「ええとね、あたし達が今晩の食材を探していた時なんだけどね」
「ふむふむ」
「そこで、謎の洞窟を自分が見つけたんだ」
「おお〜」
なんと興味のそそられる。
「だが、暗くなっていたからな。キャロルを危険な目に合わせる訳にはいかないから中には入ってはいないんだ」
「そうなんですか...」
グラブさん、本当にキャロライナさんが大好きなんですね。
でも確かに、その洞窟がダンジョンの類だとしたら、生産職と戦士職と二人組は難しいですものね。
※以前、生産職との二人組でダンジョンに入ったロール職の人がここに一名。
「そこでだウォーカー。君がよければ...」
何でしょう?
「一緒に挑戦してみないか?」
「ふむ...」
これはこれは...
明日の予定が決まりましたね。
気づいている方もいるでしょうが、キャロライナとグラブの名前の由来は世界一辛い唐辛子と世界一甘いお菓子からです。前から考えていた二人ですが、ようやく出せました。
名前も合わさって混乱しそうな二人ですね。




