トレジャーイベント〜一息入れて、今後の方針を立てることとなりました。〜
木のお化けを倒した僕達は今、ティータイムと洒落込んでいました。
ちなみにこのお茶のセット、更にテーブルと椅子はノレパンさんが[リュック]から取り出してくれたものです。
紅茶に慣れていませんが、この紅茶の香りはいいですね。くどいという感じがしないのが素人としては好ましいです。
「美味しい紅茶をありがとうございますノレパンさん」
「ほっほ、何、一杯食わされたお礼じゃ」
「お礼はお礼でも、仕返しもされそうですね」
「ほっほっほ..」
「ふふふ...」
「ってえ、そうじゃなくて!」
「はい?」
「うん?」
どうしたのでしょうかたまこちゃんさん。
「あの、イベントの攻略はいいのでしょうか...」
「そういうことでしたか」
首を傾げた僕とノレパンさんにまるたちゃんさんが説明してくれました。
「そうですね...」
「ふむ...」
僕とノレパンさんは紅茶を傾けながら考えます。
「まあ、大丈夫ではないでしょうか?」
「大丈夫じゃろう」
「どうして?」
どうしてですか...
「たまこちゃんさん、夏休みの宿題はコツコツやる派ですか?」
「え、どういうこと?」
「いえですから、少しずつ宿題を進めていくのか、まとめて片付けるかを...」
「えっと、一応少しずつ進めているけど..」
「なるほど」
「ただ、それがどう繋がるのか?」
ああ、そういうことですか。
「そうですね、こちらの考えですが...」
このイベントは体感時間とはいえ、一週間という長い時間をかけて行うもの。
次に、このイベントのマップはイベント限定のもので事前情報は皆無であること。
そうなると、イベント期間中に情報を集めていかなければならないため、お目当てのお宝を見つけるのも困難。
加えて、このイベントでは一度でもHP0になるとリタイアなため、終始生存にも注力しないといけません。
として、大雑把にスケジュールを立てていくと...
〈1〜2日目〉
最優先事項。生存のための基盤作り。拠点、協力者、必要物資の獲得など。協力者がいるならそれぞれ目当てのお宝を列挙して整理。可能なら情報収集も。
〈1〜3日目〉
第二優先事項。イベントマップ内の各エリアに関する情報の収集。
情報として必要なのは、獲得出来るアイテムやスキルの傾向、出現するモンスターの特徴、他のプレイヤーの動向など。
おそらく、貴重なお宝はダンジョンやボスの類もいるでしょうから、その情報は一つでも欲しいですね。他のプレイヤーとの交渉材料にもなりますし。
〈4〜7日目〉
最終目標事項。宝探し。集めた情報を基に探索を行い目的のお宝を手に入れる。自身の活動地点と協力している他のプレイヤーの活動地点と擦り合わせて行い、後のトレードの場を設けておけば目的のものじゃなくても入手しておくのもありです。
〈イベント後〉
他のプレイヤーとお宝のトレード。これはそのための場を設けることが出来たらということで。
「という感じですね」
「なるほど...」
「大雑把でもなくない?」
「真面目じゃのう」
「そうですか?」
スケジュールを立てるならもっと綿密に立てないとなんですが...
「ていうか、夏休みの宿題云々はこのスケジュールを進めていけるかどうかの確認ね?」
「そういうことです」
「確かに、計画的に進められる人じゃないとこのスケジュールは難しいですね」
「ただ、問題が一つ...」
「ふむ、それは?」
そう、このスケジュールの問題。
それは...
「楽しめないんです」
「「え?」」
「ん?」
「効率性を求めるあまり、楽しめないのです」
行ってみたい場所、戦ってみたいモンスター、気ままなフィールドワークが一切出来ないのは勿体なさすぎる!
「そ、そう...」
「ああでも、何もせずにだらだら7日間過ごすのもいいんですよね」
「「それイベントの趣旨を無視し過ぎてない(ませんか)!?」」
たまこちゃんさん、まるたちゃんさん、若いですねその言葉は...
「お二人共、社会人にとって7日間も自由に出来る時間というのはとっても貴重なんですよ」
「うむ、確かにの」
ノレパンさん、やはり分かってくれますか。
「学生時代の夏休みのような長期休暇はなく...」
「授業と違って片付けなければならない業務のために定時を越して仕事をしなければならないことも少なからず...」
「日々の生活がかかる分、安易に仕事を休む訳にはいかず...」
「休みの日も何か趣味に打ち込もうという余力もなくなり...」
「生きるために働くだけなのか、働くために生きているだけなのかと思い詰め...」
「結果、精神を病む者が出てきてしまう始末...」
ノレパンさん、本当に分かってらっしゃる。
「た、たまちゃん...」
「め、目が死んでる...ウォーカーは分からないけど」
おやおや、何を怯えているのでしょうか?
「大丈夫ですよ、二人もいずれ迎える時はきますから。先に知っておきましょう、大人になるとは世の中の恐ろしさを知ることだと」
「目を逸らしても歳を取れば大人扱いされるからのう..」
「ちょっと、そのリアルトリビアやめて!」
「というか、二人ともその暗い影は何ですか? エフェクトですか? 怖すぎます!」
はっ!
おっといけない。働き始めの頃を思い出してしまいましたね。
「とにかく、僕個人としてはこのイベントを楽しみたいので、行きたい所に行くつもりです」
「あ、戻った」
「まあ、とにかく今は活動拠点作りをお勧めします」
「お勧めって、ウォーカーさんは?」
「とりあえず僕は、行きたい所に行きます」
いただいたお茶のカップとソーサラーを片付けてと。
「お茶ごちそうさまでした、ノレパンさん」
「うむ」
「それじゃ」
「いや、ちょっと待って!」
「自由過ぎますよ!」
「え、ダメですか?」
「ダメ!」
「危ないですよ!」
「おやおや...」
しばらく問答を続けた後、一先ず本日は情報収集ということで行動を共にすることになりました。
僕は別に途中でリタイアしてもいいんですが、まるたちゃんさんとたまこちゃんさんから二人だけだと心細いからと言われてしまいましたので。
「ノレパンさんもご一緒で大丈夫ですか?」
「ほっほ、折角の縁じゃからの。とりあえずしばらくということでの」
「それではよろしくお願いします」
「「よろしくお願いします」」
さて、それでは一先ずの拠点はこことしましょうか。
片方は岩壁、もう片方は森。
岩壁の方は上から来られたらお手上げですけど、森林の方に意識を割ける方が心理的な負担は少ないでしょうからね。
次は散策です。
本当ならバラバラになって調べていく方が情報の収集量が多いと思うのですが、このパーティーの職業編成は生産職二人、ロール職一人、それと...あ。
「そういえばノレパンさんの職業は何ですか?」
「ん? 言ったじゃろ『怪盗』だと」
あ、自己紹介の時...
「それって、盗賊系?」
「確か、戦士職の一種ですよね?」
「その通りじゃ。戦士職の盗賊系の上位職の一つ、それが儂の『怪盗』じゃ」
「なるほど。ちなみにどういう特徴があるのですか?」
盗賊が探索や奪取に長けているのは分かりますが、その上位職となると更にどんな特徴があるのでしょうか?
気になりますね。
「ならば、周辺調査を終えてから話すとするかのう」
「分かりました」
よし、まずは調査です。
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周辺調査を終え日が陰り出した頃、僕達は拠点とした場所へ戻り、雑談に花を咲かせました。
「『怪盗』という職業はなに、ひとの物を奪うことに長けているだけよ」
「ほうほう」
「このゲームを始めてまだ日の浅い頃、儂をジジイと言って侮る小童が多くてな...」
ああ、お年寄りだからゲームは無理という思い込みですか。
そういう偏見ってよく分かりませんね。
まあ、僕の場合は身近にゲームの得意な人がいたからでしょうけど。
「格好つけて武器を見せびらかして油断しておるから、掠め取ってやったわ」
「あ、しっかりやり返していたんですね」
「偉そうなことを言うだけあって店に持っていったらいい金額じゃったわ」
「本当に泥棒じゃん!」
「流石にまずいんじゃ...」
確かに、たまこちゃんさんとまるたちゃんさんの意見には同意します。
「いやいや、売ってはおらんよ」
「あ、よかった」
「一部はな。貴重なのはコレクションにしとる」
「全部じゃないだけか!」
「それって問題なんじゃ...」
「何を言う、奪うことが禁止されておるなら『スティール』のスキルも存在せんわい」
「確かにそうですね。仮にプレイヤーを対象にしてはいけないなら、製作の時点でそういう設定を組み込むべきですし、問題視されるならノレパンさんのアカウントは消されてますものね」
「そういうことじゃ」
けど、『スティール』のスキルはプレイヤーが対象となると成功確率はかなり低いはずなんですけどね。
それでもプレイヤーからアイテムを何回も奪ってみせるのはすごいですね。
「まあ、そんなことを何度もやりながらレベルを上げていたらクラスアップ先に『怪盗』が表示されたので選んだというわけよ」
「へぇ、そんなことが..」
「ウォーカー、職業のクラスアップには特定のスキルの成長が必要なのは知ってるよね?」
「ええ、ゲームを始めた時の説明でもそう言ってましたね」
「厳密にはある程度のレベルに至ることも必要なんだけどね。まあ、生産職とかは戦闘しなくても生産スキルの行使で多少の経験値は入るから職業の違いによるレベルアップの難しさは然程ないけど」
たまこちゃんさんの説明に僕は一人納得します。
確かに、レベルアップが戦闘のみだと、戦闘が苦手な職業には難しくなりますね。
そう考えると、『遊び人』が不人気なのもそこにもあるのかもしれませんね。
この職業は戦闘でしかレベルアップ出来ないようですし。
「でも、それ以外にスキルの対象の傾向とか専用のクエストをクリアすることが条件となる上位職があるんです。例えば、ジャンヌさんの『聖騎士』も確か、『騎士』の職業で専用のクエストを受けたりするんだって教えてもらいました」
「なるほど。ということはもしや...」
「ふむ、プレイヤーを対象として盗みのスキルを繰り返すことが条件なのかもしれんな」
「多分そういうことだね。バーネットさんの職業は今まで聞いたことないし。そういう偏ったスキルの利用でもないと手に入らないと考えた方がよさそうだし」
ふむ、なるほど...
「クラスアップも奥が深いですね」
「いや、そんな他人事みたいに...」
「いえ、僕の『遊び人』にはクラスアップがないようなので」
「「「あ」」」
あ、失念してましたか。
これも不人気の理由でしょうからね。
「そういえばそうだ」
「遊び人って本当は育て難いはず...」
「ふむ、そう言えばウォーカーのレベルはどれくらいだ。可能であればゲームを始めた時期も確認したいの...」
「レベルはですね...」
ええと、この前見た時で...あとゲームを始めたのが....
ーーー
ーー
ー
「という感じですね」
「ふむ、聞く限り『遊び人』のレベルが上がり難いという話にしては他の職業と変わらない気がするのだが...」
「ああ、それは..」
あ、そういえば僕、あの称号のことをガイさんに聞いたりするのすっかり忘れてました。
でも、ユニークシリーズみたいに不用意に明かすのはまずいですよね...
どう説明しましょう?
うーん...
「いや、よい。誰しも秘密はあるからの。明かさぬ方がいいじゃろうて」
「あ、すいません。お気遣いありがとうございます」
これは申し訳ない。
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このウォーカーという青年。
噂には聞いておったが、こうして会うことになるとは思わなんだ。
儂からスクロールを奪い返して(その時は気づけなかったが)お嬢さん達を助けに行きおったからこっそりと後を追って様子を見させてもらったが、中々に興味深いものよ。
昼間の時で見た限り、ナイフに投擲、盾、魔法に盗賊系スキルと多彩な...おっと、あの謎のピコピコハンマーもあったな。
一体、幾つのスキルと武器を有しておるのやら。
聞いたら答えてくれそうじゃが、それはそれで少し心配になるのう。
会って間もないこの老人にまで話そうか考えておるし、止めてやるとしよう。
というか、お嬢さん達より年嵩のはずなのに、お嬢さん達より心配になるのは何でじゃ?
お嬢さん達も自分達の安全確保のためというよりも、ウォーカーを心配して行動を共にという感じじゃし。
まったく、得体が知れんのう。
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わたしと親友のたまちゃんは、ウォーカーさんとバーネットさんという盗賊の方と今一緒にいます。
ノレパンさんはウォーカーさんからいきなりアイテムを奪ったということらしいですが、ウォーカーさんが気にする素振りを見せないので一緒にいます。
ウォーカーさん、もう少し警戒した方がいいんじゃ....
それに、イベントの過ごし方を教えてくれたのに、自分はそれとは関係なく動こうとしていて...
正直、自由過ぎて心配です。
こういうのって、あれですよね。
死亡フラグを立てやすいですよね。
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アタシとまるちゃんはウォーカーとノレパンっていう怪盗のお爺さんと一緒にいる。
ウォーカーは自分からアイテムを取ろうとした相手なのに気にすることなく味方扱いしてるし。
何でそんな警戒心がないのよ。
それに、一人で何処か行こうとしちゃうし。
初めて会った時の装備の件でもそうだけど...
何だろう、年上なのに弟とか下の子に対するようか心配が尽きない。
これがゾンビ映画とかなら、真っ先に死にそうだし。
いや、むしろ生き延びるタイプかも?
とにかく、助けて貰った件もあるし、何かお礼はしないとだね。うん!
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日が暮れ、焚き火をする僕達。
周りはかなり暗く、焚き火とはいえ光があるのはホッとしますね。
けど、とても重大な問題が一つ。
食料がない。
いや、食べなくても大丈夫ですけど...
それでも口寂しいですね。
愛煙家の方ならタバコを咥えるのでしょうが、生憎僕はタバコに興味が湧かないんですよね。
さて、どうしましょうか?
ん?
今、微かに鼻につく何かの匂いが...
焚き火の木が焦げる匂い?
でも、目の前の焚き火では.....ッ!
いや、もう一つ!
出処は...
「こっちですか」
「え、ちょ、ウォーカー!」
たまこちゃんさんの声が聞こえましたがすいません、今は匂いのする場所が気になって仕方ないのです。
森林の中を歩き、茂みを越えていく僕。
「ちょ、何処に行くの?」
おや、着いてきていましたか?
「匂いがするのです」
「匂い....あ、本当だ」
そう、焚き木の匂いだけでなくもう一つの匂いがするのです。
これはおそらく...油、いや脂の匂い。
“ュゥ〜"
ん、音...
“ジュウ〜"
さっきよりはっきり...
「こっちですね」
「ちょ、ウォーカー!」
“ガサガサッ!"
僕は茂みを掻き分け、匂いのする方へ行きます。
そうして、茂みを超えた先には...
「っ!?」
焚き火をしている人がいました。
しかも、焚き火でお肉を焼いています。
それも、ただのお肉じゃありません。
マンガ肉です!
原始人のアニメが起源という説もある、本来ならあり得ない形のお肉です。
めっちゃジュージュー音立ててる....
あ、挨拶をしないままでした。
こほん。
「こんばんは」
ぺこりとお辞儀も忘れずに。
すると、焚き火をしていた人もニコリと笑みを見せて...
「あらん、こんばんは、色男さん」
こちらのスキンヘッドで逞しい男性も猫撫で声らで挨拶してくれました。
・・・・・・
マンガ肉、美味しそう。
手違いでこれまで書き溜めていたネタ帳的なメモデータが全て消えてしまい、自身の記憶を呼び起こしながら書き直しましたが、ぶっちゃけショックでめげていて中々書く気になれませんでした。更新が大幅に遅くなり誠に申し訳ありません。




