トレジャーイベント〜森の中で紳士と出会いました。続けてお友達がピンチです。〜
僕は改めて[リュック]から取り出したスクロールと睨めっこします。
※ドロップアイテムは一度回収して所持品扱いにしないと時間経過で消えてしまうので。
開...いや、生産職向けのアイテムですし。
僕も一応生産は出来ますけど...
宝の持ち腐れ感が...
でも一応手に入れた(というか奪った)のは僕ですし...
よし、これはお土産に“カサッ"
「ん?」
物音?
僕は音のした方を見ます。
・・・・・・
草むらの向こうは、
素敵な紳士がいました。
おっと、思わず『トンネルの向こうは〜』のノリになってしまいました。
いけないいけない。
「こんにちは、お散歩ですか?」
そう、ここはまず挨拶が大事です。
「ほっほ、見た目だけでなく、中身も肝が据わっておるの」
おや? 何かありましたかね?
しかし、改めて見ますが、こちらの紳士さん、それなりのご年齢ですね。
髪が綺麗に色が抜けて白髪になってますし。
スマートに森の中に佇んでいるその御仁。
あの服は、確か燕の...燕尾服。
それにシルクハット、確か喜劇王さんの格好がそうでしたよね?
あれ? 違ったかな?
「“スティール"」
え?
「ほほ、隙ありじゃ」
あれ、紳士さんの手元にいつの間にやらスクロールが。
そして、僕の手元にもスクロールが....ない。
・・・・・
「あ」
「それでは失礼」
あ、逃げた。そして速い。
追いかけなきゃ。
僕は紳士さんの後を追います。
突如出会った謎の紳士さん。
いきなり僕のスクロールを奪いましたが、確かに『スティール』と言いましたね。
僕も持っているスキルです。
あのスキルは対象が持っている物を奪うスキルですから、僕が手に持っていたスクロールが条件に合致してしまったのでしょうね。
しかし、僕が使う『スティール』よりも射程は格段に長いです。
つまり、僕より『スティール』のレベルが高いということ。
そして、今追いかけている訳ですが..
「ほっ、よっと」
すっごい素早いです、あの紳士さん。途中の木の幹を蹴って三角跳びから枝を足場にしたりして、追いかけるのが大変です。
マーキュリーさんとどっちが速いでしょう?
おっと、枝から降りましたね。
僕もっと。とう! 枝に跳び乗ってと。
「待ってください、返してください」
「ほほ、ならば取り返してみるがいい」
おお、正に盗人猛々しいとはこのことですね。
あ、僕も『猛々しき盗人』の称号を持ってましたね。
人のことは言えませんね。
・・・・・
まあ、取り返せと言うなら取り返しますけど。
「待って、ください」
“スローイング"です。
ダガーを投げつけます。これで足止めを..
「ふっ、甘い甘い」
あ、キャッチされて...投げ返してきました。
「おっと、危ない危ない」
おかげで回収出来ましたけど。
「....さらりとキャッチするとはな」
ん? 何か驚いていますがどうしたのでしょう?
というか、あの紳士さん未だに僕のスクロールを手に持っていますよ。それで僕のダガーをキャッチって、凄いですね。
何で仕舞わな...あ、『スティール』の制限か。奪取したアイテムは一定時間経過しないと[リュック]に入らないんでしたね。
僕が使う時は専らモンスターが持ってた武器を奪ってそのまま投げつけたりしていましたから忘れてました。
となるとこのチャンスを何とかものにしないと。
よし、ならば...
“アースバンプ"で地面を持ち上げて、その勢いのままジャンプです!
「っ、魔法か?」
紳士さん、驚いていたら隙が出来ちゃいますよ。
さっきのカッツェさん達の時は咄嗟の思いつきでしたけど今度は狙ってのジャンプですから飛距離も速さも増して..るはず。
そして、“スローイング"でダガーを飛ばします。
さっきみたいに掴まれないよう、スクロールを持っている側の方に。
これでそっち側には逃げないはず。
そして逆側から僕が迫っていけば、いけます。
あと、ちょっと「ほほ」
あ、枝から降りて。
なるほど、左右がダメなら下でしたか。
でも....「キャアッ!」っ!?
思わず紳士さんから意識を逸らしてしまいました。
まあ、大丈夫ですけど。
というか、今の悲鳴って多分...
まあとにかく、杞憂に終わるならそれでいいですからね。行ってみましょう。
「紳士さん、それでは失礼します」
「む? 何処に行くのだ?」
「お友達の所です」
それじゃ失礼します。
僕は声の聞こえた方へ走ります。
ーーーーーーーーーーーーーーー
わたしとたまちゃんは只今....ピンチです。
樹木型モンスター、トレントの群れと戦っています。
ど、どうしよう!
「この、“槌撃"っ!」
たまちゃんがハンマーを振るってトレントが伸ばしてくる枝を払ってくれています。
トレントは動きが極端に遅いから隙さえあれば逃げるのは簡単なんだけど....
でも、囲まれていたら流石に無理だよう。
わたし達生産職のスピードじゃ、包囲網の突破は難しいし。
たまちゃんの攻撃も一度に一体に当てるのがやっとでそもそも近づいたら危ないし。
あ、一体近い。
「“スローイング"、えい!」
だからわたしも頑張らないと。
作っておいた爆弾を投げつけ、トレントに当たると爆発します。
トレントは木のモンスターだから火属性の攻撃は有効....だけど倒しきれない。
動きは遅いしパワーはないけど、その代わりに防御力や体力が多い設定だからわたしの爆弾を何個も使ってようやく一体倒せるという状況。
爆弾のストックにも限りがあるし、このままじゃやられちゃう。
「こうなったら...」
「な、何かあるの?」
「まるちゃん、アタシが何とか突破口を作るからそこから逃げて」
「そ、それじゃたまちゃんが危ないよ」
「全滅よりはマシでしょ!」
それはそうだけど...
「ダメ! 二人でイベント頑張ろうって約束したんだから!」
「けど、このままじゃ...」
分かってる。わたしがワガママ言ってもどうにもならないのは...
それでも、やっぱり...
「ランナァー、キィックゥッ!」
「「え?」」
突然、トレントの一体に跳び蹴りを入れる人がいた。
どこか気の抜けた名前を掛け声にしながらの飛び蹴り。
まるで映画のアクションシーンみたいだった。
「あでっ」
けど、トレントが倒れるほどの勢いとは言えず、バランスを崩して尻餅をついてしまいました。
その隙を狙うようにトレントが枝を伸ばして襲おうとしていました。
「おっ、とっ!」
慌ててその場から転がって躱してこちらに来ました。
「おほん。ランナーはいつも皆さんのそばにいます」
えっと...ウォーカーさん。
申し訳ないですけど格好つかないです。
ーーーーーーーーーーーーーーー
悲鳴が聞こえた先を走り抜けるとそこには顔のついた樹に囲まれたまるたちゃんさんとたまこちゃんさんがいました。
やはり、お二人でしたか。
片方の悲鳴(おそらくまるたちゃんさんの)しか聞こえませんでしたが、仲良しなお二人なら一緒に行動とは思っていました。
見るからに苦戦している様子。
ですので助けましょう。
ああ、こういう時にバイクとかの乗り物があればもっと早くに駆けつけられたのですが。
ん? バイク...ライダー..いや走っている訳ですから......ランナー! そうランナーです。
よし、新装備の靴の勢いを使ってジャンプ。
からの、
「ランナァー、キィックゥッ!」
初代から始まり後世の方々も用いる跳び蹴りです。
隊長さんが使った時とかでは、敵は耐えきれずに大抵爆発しますが結果は普通に仰け反らせるだけでした。
そして勢いに任せてその後を考えていない僕は、
「あでっ」
尻餅をついてしまいました。
これ、現実だったら本当にお尻が割れていた可能性があるのでは?
いや、二つにもう割れていますけどって枝が伸びてきました。
先がとんがっているから刺さりそうです。
立ち上がる時間も惜しいので寝転がってそのままゴロゴロして回避です。
「おっ、とっ!」
よし、回避成功です。
ふむ...あれ?
どうしたのでしょう二人とも?
ポカンとしてますが。
とりあえず、安心させてあげなければ。
「おほん。ランナーはいつも皆さんのそばにいます」
初代さんが夢のコラボとかで言っていたセリフです。
きっと大丈夫なはず...おや? 何故苦笑を。
「格好つかないよウォーカー」
「はい...」
「おやおや」
そうですか。
まあ、とにかく...
「ご無事ですか?」
「はい...」
「ありがとう...」
「それでは、倒しましょうか」
「「はいっ!」」
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変な技名と共にトレントに飛び蹴りを入れるウォーカー。
格好つけたつもりだけど、その後の尻餅に転がりながらの回避と全然格好つかない所ばかりだ。
けど、おかげでアタシとまるちゃんは助けられた。
いや、まだ敵は倒していないし、絶対勝てる保証はないけど。
それでもウォーカーが来てくれてほっとしているアタシがいる。
まるちゃんもさっきまでとは違って安心している感じだ。
何があるのかは分からない。
けど、何かしてくれる。
そういう意味では意外とヒーローが似合うかもねウォーカー。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「で、この木のお化けは何ですか?」
「トレントっていう植物型モンスターです」
「スピードもパワーも大したことはないけど、とにかくしぶといのが特徴」
「弱点は火です」
いきなりな質問ですが、説明は必要なので聞きます。
さて、数は1、2、3....7本と。
で、弱点が、
「火ですか。なら...」
武器は杖に。
続けて、
「“ファイアボール"!」
火の玉攻撃です。
『ボーッ!』
当たった瞬間、木のお化けから声がしました。
木に声帯ってあるんでしたっけ?
というか、
「『キー』じゃないんですね...」
「なにを期待してたんですか?!」
「いや、そしたら下っ端怪人役に...」
「飛び蹴りのあれ、まだ引きずってたの?!」
「だって格好つかないと..」
「「変な所で引きずらないで!」」
「はい...」
怒られました。
仕方ありません。切り替えましょう。
さて、今の魔法でもまだ倒しきれない木のお化け。
確かにタフなようですね。
時間をかければかけるほど、人数差は響いてきますね。
となると....
「まるたちゃんさん、爆発物の類はありますか?」
「あ、はい! 爆弾と黒色火薬はまだあります」
「それじゃあ、粉末の方を僕にありったけ分けてください」
「分かりました」
物量で押すしかないですね。
まるたちゃんさんが僕に『黒色火薬』を譲渡してくれました。
さて、次は...
「“挑発"」
『『『ボォーッ!』』』
ふむ、前にいる3本が反応しましたね。
「こっちです!」
僕は反応しなかった4本の木のお化けの方へ走ります。
反応した方はゆっくりとですが、僕の方へ来てくれました。よし。
「まるたちゃんさん、たまこちゃんさん、包囲から脱してください。援護は一先ずしないでください」
「わ、わかった!」
「ありがとうございます!」
これで二人は包囲網から脱出出来ますね。
『ボー』
僕が近づいてきたので、木のお化けが枝(手?)を伸ばしてきます。
動きは遅いのに意外と早いですね。
けど、その前に倒した蛇さんと比べれば遅い....けど大きいから躱すのが難しいですね。
「おっと、よっと」
く、SF映画みたいに仰け反りで弾丸を躱せる身のこなしがあれば。
・・・・・まあ、あんなギリギリの躱し方をしたら当たりますけどね。
武器はナイフに変更。
回避を優先した立ち回りを。
また枝が来ました。盾で逸らします。
っと、枝から生えてる別の枝が引っ掛かりました。地味にダメージを与えてきますね。
ならば枝は切っちゃいましょう。剪定です。
ナイフで切ります。本当は高枝バサミなんですが。
おお、あっさり切れた。あ、このナイフには武器の損耗を促す効果がありましたね。
と考えるとこの枝は木のお化けの武器と。
ならばとにかく枝を切りまくって無力化...あ、また生えてきた。
一時凌ぎがやっとですか。
では、残りの3本が来るまでの少しの間は根比べです。
今度は左右から枝が来ました。それぞれ二本ずつ。
躱しやす...いのは右。
右の枝を少し切って掻い潜ります。
左からの枝は残った右からの枝とぶつかってこちらには届きません。
あちこちに伸ばした枝が災いしましたね。
おっと、今度は足代わりの根が来ますか。接近された時の対策という感じで、っと、躱します。
今度はピコピコハンマーで。
「ウォ〜カ〜、パウンド!」
フル、スイングです!
ノックバック効果のあるピコピコハンマーで押し飛ばします。
『ボッ!』
これで距離を取...れてない。
「「ウォーカー(さん)、後ろ!」」
『ボボッ!』
あ、まずい、他の木のお化けの枝が..しかも首に刺さる...
「“スティール"」
「ん、はい?」
首に刺さると思ってた枝が消えました。
正確には枝の先端からある程度の長さ分までが消えていました。
まるで切り取られたみたいに。
「ふむ、情報では取れると分かってはいたが、こんな風に取れるものか」
声が聞こえたので、そちらを見ます。
そこにはさっきの木のお化けの枝の一部をその手に持ってしげしげと見ている人がいました。
「さっきの老紳士さん...」
「「誰?」」
今が初めてのご対面の二人は驚いています。
ですがこの状況、あの人が助けてくれたのですね。
「ありがとうございます、老紳士さん」
「ほっほ、何、ものは試しにとやってみただけのことよ」
「それでも助けられたことには変わりませんから」
ちゃんとお礼は言わないとです。
「ならば青年よ、このまま助太刀させてもらうぞ」
そう言うや否や、老紳士さんが木のお化けの一体に杖で攻撃してくれました。
「いいんですか?」
「ほっほ、若人が危険を省みずにお嬢さんを助けようとしたのに、年嵩の儂が何もせぬのはいただけぬものよ」
なんと、そんな格好いい理由で...
「それではこの木のお化けを一網打尽にしたいので、枝を無力化してもらっていいですか?」
「よかろう、儂に任せろ」
「はい!」
木のお化け達は僕の方へと枝を伸ばしてきます。
けど、
「“スティール"」
枝を奪うだけです。
「なんと、『スティール』もか!」
あれ? 気づいていなかったのですか?
まあとにかく、奪った枝を“スローイング"です。
他の木のお化けの眉間?に投げつけてやります。
と、投げましたが刺さることなく当たって落ちちゃいましたか。
けど構いません。今は僕に注意を向けてもらえれば...
「青年よ、離れてた三体がもう合流するぞ!」
「分かりました。老紳士さんも離れてください。まるたちゃんさん、たまこちゃんさん、二人も離れてください」
「青年はどうする?」
「もっと近づいてもらう必要があるので」
「...承知!」
そう言って老紳士は素早くここから離れてくれます。
『挑発』の影響を受けた3本がようやく来ました。
今です。
僕はまるたちゃんさんから譲ってもらった粉末を全部ばら撒きます。
そして、追いついてきた3本、今いる4本が伸ばす枝全てを躱します。
“アースバンプ"で足元を持ち上げてのハイジャンプです。
カッツェさんの時はぶっつけ本番でしたが、今回はちゃんと狙ってのジャンプなので前よりも高く跳べてます。
加えて直前に追加でばら撒いてやった『イグニッションスモッグ』です。
トドメの火種です。
「“ファイアボール"」
放った火の玉は煙幕に触れ、
“ドカンッ!!!"
一気に爆発しました。爆炎は木のお化けすべてを包みます。
おお、爆風が僕の方にまで、うわ、爆風に、押されて...お、とっ、とっ....
「とう!」
着地できました。手を着かずに両足だけで颯爽に着地できました。
・・・・・嬉しいですね。
「見事。まるで特撮ヒーローのようだったぞ青ね「本当ですか?」
「ん、う、うむ...」
あれ? 何で言い淀んで..あ、本当はそんなに格好良くなかったのでしょうか?
「ウォーカー!」
「ウォーカーさん!」
「ああ、お二人は大丈夫でしたか?」
「ええ、ウォーカーのおかげで助かったわ」
「本当にありがとうございました」
よかった。二人が無事で。
あ、そういえば..
「老紳士さん、助けていただきありがとうございました」
「ほっほっ、青年とは勝負の途中だったからの」
「はい?」
「ほれ、お主のスクロールの....」
あ、ようやく気づいてくれましたか。
「これのこと、ですよね」
僕は取り返したスクロールを取り出して見せます。
老紳士さん、ポカンとしてますね。
ふふ、してやったりです。
おっと、すぐ仕舞っておかないと。
「儂が下へ回避した時か」
「ええ、その時に『スティール』で」
「お嬢さん達の悲鳴を聴こえた時にはもう奪い返していたのか...」
「はい。なので気兼ねなく行けました」
「ふむ...もし失敗していたらどうするつもりだったんだ?」
「えっと、失敗してないのでなんとも...」
たらればを今言われても...
「ふ、はっはっはっは! いや見事だ。これは一本取られた」
おや、何か面白いことありましたかね?
あ、そういえば...
「今さらですが名前を言っていませんでしたね。はじめまして、ウォーカーと言います。職業は『遊び人』です」
「おお、やはりお主が噂のウォーカーであったか。しかし、『遊び人』だったとは...確かにあの職業ならアーツスキルも魔法スキルも使えるが...」
おお、新しい反応ですね。今までは僕の職業を聞くと驚かれるのに。
けど、思案に耽っていますね。
「あの、老紳士さん?」
「ん? おお、すまんすまん。中々に興味深いものだったのでな」
「はい?」
何か気になることがあったのでしょうか?
「いやなに、こちらの話よ」
「そうですか」
じゃあいいですね。
「それでは改めて名乗らせてもらおう。儂の名はノレパン=バーネット。ただの怪盗よ」
姿勢を正しながら、老紳士さんことノレパン=バーネットさんが自己紹介をしてくれました。
けど、ノレパンさん...挨拶する様が格好いいですね。いいなぁ。
『ノレ』って手書きだったりすると一文字に間違えてしまいそうですよね?




