初めてのフレンドができました。
ダメージを受けてHPが残り少ない僕は最初に来た町へ戻ることにしました。
「回復アイテムを失念していました...」
[リュック]の中にあるのは先程倒したウリ坊とイノシシのドロップアイテム。
どれも今の僕には何にも使えないのでただの肥やしですね。
だからフィールドに出るにはまずお店で回復薬を買うべきでした。
まあ、どう言おうともう意味がないですけどね。
えっと、お店は.....
「あ、あった」
町の中を歩くと広場近くに様々なお店が並んでいました。
武器屋、防具屋、アイテムショップにスキルショップ...ん、スキルショップ?
さっそく【ヘルプ】を見ましょう。
◆◆◆◆◆◆◆
スキルショップとは、
文字通りスキルを販売しているお店です。一部のスキルはこのショップで購入できます。
お値段は他の店と比べてお高いですので、初めての方は武器や回復アイテムを揃える方を優先するといいでしょう。
◆◆◆◆◆◆◆
ほお、初心者向きではないと。
これはご丁寧な解説文をありがとうございます運営さん。
では予定通り、アイテムショップに行きましょう。
◆◆◆◆◆◆◆
アイテムショップとは
HPポーション、MPポーション、テントや寝袋、一部素材アイテム(食料品や鉱石、モンスター素材など)と多彩なアイテムを取り扱っています。
駆け出しから上級者まで御用達!
決して欠かせないお店、それがアイテムショップ!
◆◆◆◆◆◆◆
【ヘルプ】に書かれていた広告にしか見えない文面を一瞥し、僕はアイテムショップに入ります。
というか、この【ヘルプ】の文面、項目によって表現がバラバラですね。
書いている人が違うのかな?
「おお、これは...」
入った瞬間...
目がチカチカしますね。
赤、青、緑に黄色と、色とりどりの液体の入った様々な形のガラス瓶。
ロープやテント、アニメや漫画で見るような紙テープか何かでグルグルに丸め込まれた導火線の着いた爆弾か何かの物体。
■■■■■■■■■■
『HPポーションLv.1』
[解説]
回復アイテム。
使用するとHPが回復する。Lvが高いほどHPの回復量が多くなる。
[製作者]
まるたちゃん(P)
■■■■■■■■■■
近くにあった赤い液体の入ったガラス瓶に近づくと、アイテムの説明文が表示されました。
ん?
[製作者]とは一体?
むむむむむむむ....
「おい、どうしたんだい?」
アイテムと睨めっこしていた僕は後ろから声をかけられました。
振り返るとそこにいたのは精悍という言葉の似合う男性がいました。
背は中々に高いですね。身体つきもがっしりとしています。
このゲームは確か現実の肉体をベースにしてアバターを作りますから現実のこの方も見た目通りの体型ということですね。
「いえ、このアイテムの[製作者]という欄が気になってまして」
「ああ、そいつはそのアイテムを作った人物が誰かを記載してるんだ。名前の横にあるPはプレイヤーが作ったって設定だ」
「へぇ、何か違いがあるのですか?」
「おう。熟練の生産職だとそれだけでネームバリューもあるし、隠し効果ってのもあるらしいぜ」
「それは興味深いですね。あ、僕はウォーカーと言います。ゲームは今日が初めてです」
「やっぱり初心者さんか。俺はガイ。職業は『重戦士』だ。ほら」
そういって、こちらのガイさんは背中に携えた大剣を見せてくれました。
どうやらそれが自分の職業を示しているようですね。
しかし...
「大きい剣ですね..」
「だろ! 『重戦士』は戦士系の上位職でな、重量級の武器を扱って戦うことに秀でた職業だ。他にもハンマーとか斧なんかも振り回すぜ」
そう言って背中の大剣を更によく見せてくれるガイさん。
改めて見ても全長2m近くあるのでは?
刃の幅もガイさんの腕の太さよりもありますし、かなり重そうですね。
「凄いですね。現実ではこんなに大きな剣はまず手に持つことも出来ませんからね」
「そうなんだよ。こんなデカい武器を振り回せるのはマンガやアニメの中だけだと思ったからさ、迷わずこの職業を目指したもんよ」
「確かに、こんな大きな武器を使えるのは格好いいですしね」
「分かるか!」
賛同していた僕にいきなり詰め寄るガイさん。
顔が近いですね。
おかしいこと言いましたかね?
普通にこんな大きい武器を振り回せるのは格好いいと思いますが。
「はい。僕の主観になりますが、大きい武器というのは、こう、何と言えばいいでしょう....そう、ロマンがありますね」
「だよな! 現実の剣道やフェンシングなんかは軽い方が好まれてるからさ」
「確かに、スポーツであるために当てたという判定を先に出さなければいけない以上、威力は求めていませんですよね」
「そうそう、実は俺、現実では剣道やっててさ、竹刀や木刀に慣れているからこの重みがたまらないんだよ」
おお、剣道経験者でしたか。だからこそ余計に憧れるのでしょうね。
「僕も使ってみたいですね...」
「お、ウォーカーはファイターの職業か。だったら教えてやるぜ」
「あ、いえ、違うんです」
「え?」
「僕の職業は『遊び人』です」
ーーーーーーーーーーーーーーー
消耗した回復アイテムなんかを調達しようと、俺はアイテムショップに入った。
俺の職業『重戦士』は一撃に優れている代わりに動きが遅いからその分被弾率が高くなっちまう。
だから回復アイテムはこまめに補給しておかないといけなくなる。
いつものように回復アイテムを買おうと棚に行くと、妙な奴がいた。
まるで漫画みたいな瓶底眼鏡をかけていて、棚にあるポーションと睨めっこしていた。
ただ、格好を見るとどうやら初心者のようだ。
「おい、どうしたんだい?」
一応、ゲーム経験者である俺は声をかけてやることにした。
ウォーカーと名乗るこの新人。中々に分かる男だ。
俺の職業『重戦士』だからこそ使い熟せるこの大剣をカッコイイと言ってくれた。
リアルじゃ使えないこのサイズの武器、それを使えることの魅力に理解を示してくれる。
「僕も使ってみたいですね...」
しかも、彼も使ってみたいと言ってくれた。
なるほど、ウォーカーも戦士系職業の持ち主だな。
確かに腰には短剣を装備している。
初級職のファイターは選択時にランダムで短剣、片手剣、短槍とかが初期装備となるからな。
俺の時は短槍だからな。
剣じゃなくて初めは苦戦したぜ。
「お、ウォーカーはファイターの職業か。だったら教えてやるぜ」
「あ、いえ、違うんです」
「え?」
どういうことだ?
「僕の職業は『遊び人』です」
・・・・・・・
「え?」
今、『遊び人』って言ったか?
「『遊び人』?」
「はい」
「ロール職の?」
「その通りです」
何も知らないといった笑顔で返すウォーカー。
まじか....あの職業を選ぶ奴がまだいたなんて。
どうする? 言ってやるべきか?
いやでも、上手くいかなくて辞めちまう前に教えるべきか?
今日始めたばかりって言ってたしな。
「いいか、ウォーカー。聞いてくれ」
ーーーーーーーーーーーーーーー
僕の職業を聞いて驚いた後、何か逡巡するようにしていたガイさんは決心した様子で僕に話してくれました。
曰く、『遊び人』は今じゃ選ぶ人はまずいない不人気職業だと。
理由をまとめる以下の通りでした。
①基礎ステータスが低く、レベルアップ時の上昇率も高くない。元々ロール職は上昇率が低い中で『遊び人』の上昇率の低さはダントツとのこと。加えて上位職へのクラスアップがないため、クラスアップによるステータス成長もないので絶望的だと。
②多彩なスキルを獲得できるが、そのために必要な専用経験値(特定の行動を繰り返すことで蓄積される数字で表示されないもので、一定値に達するごとにスキルを獲得するとのこと)が本職のものの倍は(これもあくまで少なくともとのこと)かかるとのこと。
③そのため、どれか一系統に絞って育成するにしても手間と時間がかかり、その結果は本職の下位互換になってしまうこと。
④だったら普通に本職を選べばいいという結論に至り、『遊び人』を選択したプレイヤーの多くはゲームを辞めるかアバターを作り直し一からやり直していったため、現在では『遊び人』は誰も選ばない職業になった。
と、いうことでした。
「折角選んだ職業だけどさ、今日始めたばかりならアバターのリメイクを勧めるぜ」
黙って聞いていた僕にガイさんは申し訳なさそうに言ってくれます。
どうやら、僕が気落ちしていると勘違いしている様子。
「お心遣い感謝しますガイさん。でも大丈夫です。僕はこの職業を続けますので」
「本当にいいのか?」
「はい。それで、僕が大剣のスキルを使えるようになった時は、是非とも教えていただけませんか?」
「あ、ああ! 分かったぜ、約束だ」
僕の言葉にガイさんは笑顔で応えてくれました。
その後僕はガイさんにアドバイスをいただきながらアイテムを購入しました。
そしてその頃になって気づいたのですが、僕の減っていたHPはいつの間にか回復していました。
ガイさんに聞いた所、こういった町のエリアはセーフティエリアと呼ばれていて、中にいれば時間経過で回復できるようです。
おかげでアイテムを使わずに済みました。
「ありがとうございましたガイさん」
「いいってことよ。そうだ、もしよければフレンド登録していいか?」
「フレンド登録、ですか?」
聞いてみると、仲良くなったプレイヤーとはフレンドという枠組みに登録でき、登録を解除しない限りはチャット形式で連絡を取ることが出来るようになるとのことでした。
折角のご厚意、僕は一二もなく早速登録させていただきました。
ガイさんと別れた後、僕はログアウトをしました。
流石に初めてのゲームなので疲れました。
よく見ると外は日が暮れてきていました。
随分熱中していたのですね。
幸い今日は休みですし、このまま一休みといきましょう。
そして、今日のゲームへの興奮が冷め止まなかったものの、疲れから気づけば僕は寝てしまっていました。