はじめての冒険です。そしてはじめての戦闘(vsモンスター)です。
「これは...」
目の前にはまるでおとぎ話のような町並みが広がっていました。
三角屋根の頂点などは木をそのまま使っていたりして、よく見ると枝が伸びて葉も生えていたりします。
他にも、キノコを模した様な屋根の家なんかもちらほらありますね。
のどかそうで、のんびりしたくなりますね。
そして何より、そんな町の中を歩く、様々な装いをした人々。
鎧やら映画で見る魔法使いのローブの様な物を着ている人が多く、彼等彼女等もプレイヤーということのようですね。
「さて、どこにいきましょうか?」
僕は改めて自分の格好を見ます。
お世辞にも作りがいいとは言えない布製の服にズボン、ブーツ。腰には短剣がありますね。
これが初期の装備ということのようですね。
自分のパラメータを表示し、装備欄も確認した所やはりそうでした。
おっと、眼鏡はありますね。よかったよかった。
ないと落ち着きませんからね。
いま僕がいるのは町の中心のようですね。
大きな噴水もあって待ち合わせをしている人もいますしね。
そこで僕はぽつんと立つ一人の人物に声をかけることにした。
「すいません、少しお時間をよろしいでしょうか?」
「....なんだ?」
僕が声をかけたのは中世ヨーロッパにありそうな騎士の鎧を纏った女性です。
個人的に鎧がかっこいいなと思い声をかけましたが、相手を警戒させてしまいましたね。
改めて見ますと..おっと、高校生くらいですかね。
ゲームの中とはいえ、いきなり見知らぬ異性に声をかけられては不安になりますね。
「実は僕、先程このゲームを始めたばかりで、早速モンスターと戦おうと思うのですが、何処にいけばいいのか...」
警戒気味の女性に僕は素直に説明しました。
その説明を聞き、僕の全身を一瞥して納得した様子の彼女。
ああ、僕の装備品が初期装備ということで納得してくれたご様子。
「それなら東の方から行けばいいぞ。初心者向けのモンスターが出る森林エリアだからな」
「ありがとうございます」
僕はお礼を言って紹介してもらった場所に向かうこととします。
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「すいません、少しお時間をよろしいでしょうか?」
「....なんだ?」
私はいきなり声をかけられた。
最近何かと声をかけられることが多くなり、少し機嫌が悪かったから、露骨に警戒してしまった。
だが、この目の前の人物は私のそんな振る舞いを気にすることなく説明を続けた。
「実は僕、先程このゲームを始めたばかりで、早速モンスターと戦おうと思うのですが、何処にいけばいいのか...」
確かに、よく見ればこの男の格好は初期装備のものだ。
それと瓶底眼鏡。こんな眼鏡を本当に着ける人がいるなんて。
彼は私が教えた森へすぐさま進んで行った。
しかし、回復アイテムも何も持たずに大丈夫なのか?
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親切な女騎士さんに教えてもらい、僕は今東の森にいます。
ここにいるモンスターは初心者向きということなので戦闘に慣れていきましょう。
僕はとりあえず鞘から短剣を抜いてそれを改めて見てみると詳細が表示されました。
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『短剣』
[性能]
POW:+1
Durability:10
[解説]
ただの短剣。その分、癖がないので初心者向け。
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『POW』とはおそらく攻撃力ということでしょう。
『Durability』は確か...
そういえば、メニュー画面に確か【ヘルプ】がありましたね。
どれどれ.....
◆◆◆◆◆◆◆
Durabilityとは、
武器や防具の耐久力を示します。
一定の使用に応じて減少し、『0』になると完全に破損し使用出来なくなります。
強力な特技の使用や攻撃を受けたりすると減少値が増えます。
破損しても、ショップ又は武器製作の職業を持つプレイヤーなら修理可能です。
強力な武器ほど数値が高いことが多いですが、その分修理にかかる費用も高く、必要な素材アイテムもありますので、破損する前に定期的にメンテナンスすることでこまめに回復させることをオススメします。
◆◆◆◆◆◆◆
ということは、この短剣はさほど頑丈ではないと考えた方がよいと。
気をつけた方がいいですね。
“ガサッ!"
お、早速敵が出てきたようですね。
草むらからは小さいイノシシと思しき動物が出てきました。
ブルルルと鼻息を立てて興奮している模様。
いや、牙は無いですし、サイズもなんか小さいですしウリ坊が正しいのでしょうか?
そんなことを考えているとウリ坊 (でいいですね)が僕目掛けて走り、飛び込んで来ました。
狙いはおそらくお腹。
僕は慌てて避けます。
一応、このゲームでは受けたダメージは多少の衝撃程度で現実的なものではないと聞きますが、やはりダメージは受けたくないですからね。
着地し向きを直したウリ坊は地面を軽く何度か蹴って再度走ろうとしていました。
思わず手に持つ短剣の刃先をウリ坊に向けると、ウリ坊は地面を蹴るのを止め、しっかりと地につけてこちらを見据えてきます。
“プルルルルッ!"
もしかして、刃先を向けたことで警戒している?
なら、刃先を下にしたら....
途端に飛び込んでくるウリ坊。
警戒していた分、さっきよりは余裕を持って躱すことが出来ました。
やはり、刃先を下げると一気に仕掛けてきますね。
ならば....
僕はもう一度刃先を下ろします。同時に正面に見据えていたウリ坊に対し若干短剣を握る右側に寄ります。
“プギィイィっ!"
鳴き声を上げて飛びかかるウリ坊。
案の定、その軌道上には僕の左半身。
予想通りの動きに僕は右へと身体をずらして躱してみせます。
同時に手に持つ短剣をそのガラ空きとなった首に突き刺すことを忘れずに。
僅かな悲鳴を洩らし、ウリ坊は動かなくなりました。
てっきり返り血などが出るかと思いましたが流石にそこまでリアリティは追求していなかったようですね。
手応えもあまりなくやはり現実ではないのだと教えてくれて少し安堵します。
ウリ坊は光となって消えます。
消えたそこには毛皮と肉の塊があったのでそれに触れてみます。
すると途端に消えてカーソルが目の前に出ました。
◆◆◆◆◆◆◆
『ウリボアの毛皮』×1
『ウリボアの肉』×1
を入手しました。
◆◆◆◆◆◆◆
なるほど、ドロップアイテムというやつですね。
ん、よくみるとメニュー画面にある通貨のGが少し増えてます。
モンスターを倒すとお金も手に入るのですか。
というか、今のウリ坊は『ウリボア』というのですね。
ボアはイノシシを意味しますからウリ坊とかけたネーミングにしたのでしょうか?
おっと、手に入れたアイテムの方を見てみましょう。
メニュー画面にあった[リュック]の項目を触れると先程のアイテムの名前がありました。
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『ウリボアの毛皮』
[解説]
素材アイテム。ウリボアの毛皮。加工することで防具の素材になる。ただし、一匹から得られる毛皮のサイズは小さいので数が必要。
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ほうほう、防具の素材に。けど数が必要と。
お肉の方は...
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『ウリボアの肉』
[解説]
素材アイテム。ウリボアの肉。調理すれば料理の素材となって食べられる。成体のボアと比べて肉は柔らかめだが、一匹から取れる量は少ない。
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おお、料理すれば食べられると。
確か、料理も生産系のスキルが必要でしたね。
というか、ゲームの世界でも料理って食べられるんですかね?
“ガササッ!"
「ん?」
また草むらから音がしたので見ると、そこには今度こそイノシシと呼べるものが現れた。
さっきのウリボアと比べ、成体と言うべき大きさ。
体高は1mは余裕で超え、脚で地面を蹴り今にも飛び掛かろうと威嚇してきています。
僕は物音に反応してすぐに短剣を向けるように構えたことが功を奏したようで...“ブギイイィッ!"
イノシシ(おそらくボアという名前のモンスター)は臆することなく僕へ突進してきました。
咄嗟に躱した僕ですが目論見が外れ、脇腹に衝撃を感じました。
見てみると、脇腹には赤い光の線が脇腹に走っていました。
これはダメージを受けたということですかね?
視界の上隅に映る『HP』のバーが減っていました。
やはりダメージを受けてしまいましたか。
どうやら、生え出た牙が掠ったようです。
流石にウリボアのように刃先を向けた程度では警戒しないですか...
気づけば少し離れた先へと走って行っていたボアは方向転換して僕の方へと走って来ます。
今度は躱すのではなく、走るコースから外れるように必死に動いたので、幸いダメージは受けませんでした。
けど、これでは反撃は難しい、というか不可能ですね。
ダメージを受けないでとなると...
だから僕は覚悟を決めました。
そしてボアが突進してくるのを今度は逃げずに可能な範囲で躱します。こちらの攻撃が届く範囲で躱します。
もちろん、腹部にはさっきのように掠るのではなく牙が刺さります。
HPのバーが大きく減り、残り一割といった所でしょうか。
バーの色が緑色から赤色に変わり点滅して危険を知らせてきます。
けど、そんなのはどうでもいいことです。
だから僕はこのボアの目に短剣を突き刺します。
刃が見えなくなる程限界まで突き刺します。
騒々しい悲鳴をあげるボア。
本当なら返り血が飛び散って僕の身体はホラー映画のような血塗れぶりでしょうがこれはゲームです。
返り血はなく、そして倒したモンスターの死体は残らず、そこには幾つかのアイテムをドロップするのみでした。
◆◆◆◆◆◆◆
『ボアの毛皮』×1
『ボアの肉』×1
『ボアの牙』×1
を入手しました。
◆◆◆◆◆◆◆
早速アイテムを拾いますか...
◆◆◆◆◆◆◆
レベルが上がりました。
スキル『短剣術』を獲得しました。
スキル『暗殺術』を獲得しました。
称号『乾坤一擲の勝負師』を獲得しました。
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「おお、レベルアップ! しかもスキルですか、それに、称号?」
アイテムを拾おうとした途端に表示される自身のパワーアップ。
なるほど、これは中々に面白いですね。
猿渡君、ありがとうございます。おかげで新しい楽しみが出来ました。